いいね!Hokudai

  • About

Categories

  • 歳時記
  • クローズアップ
  • フレッシュアイズ
  • ジョインアス
  • チェックイン
  • 匠のわざ
  • ようこそ先輩
  • バトンリレー
  • みぃつけた
  • おいしいね
  • 過山博士の本棚から
  • フォトコンテスト

その「衛生環境」は誰のためか? 〜アフリカ熱帯林に暮らす狩猟採集民Bakaから読み解くトイレ事情〜

アフリカ・カメルーン東部の熱帯雨林に、狩猟採集を続けている先住民族がいます。
その名も狩猟採集民Bakaです。

カメルーン東部・Bakaが住む地域を指す  出典:JICS「カメルーンの地図」を一部改変(赤色の円と矢印を筆者が追加)

Bakaはゾウやカモシカなどを狩り、バナナやヤマイモなどを採集しながら移動生活をしてきましたが、1950代以降、定住化政策が進められ現在では村と森と行き来する半定住生活を送っています。
Bakaの生活を知るうえで興味深いのが、トイレ事情です。政府などによってトイレが建設されているものの、十分には利用されずトイレよりも野外排泄が依然としておこなわれています。

一方、世界では感染症の蔓延、女性や子どもの性被害のリスクから野外排泄は「なくすべきもの」とされています。実際に野外排泄の撲滅は国際目標となり、整備されたトイレの建設が進められています。
では、トイレがあっても利用しないBakaにとって、野外排泄をなくすことは本当に最善でしょうか。整備されたトイレを真に望んでいるのは、Bakaか、それとも私たちの衛生観念か。
その問いを確かめるために、私は今年2026年の夏カメルーンへ向かいます。

【大瀬唯華・保健科学院修士1年】

Bakaが使用するトイレ  撮影:佐井(2024)

「良いトイレ」が使われない理由

これまでカメルーン政府は、Bakaの衛生環境を改善するためにトイレを建設してきました。しかし、多くのトイレは十分に利用されませんでした。もちろん村で生活する中ではトイレを必要とするBakaもいます。それでもトイレが暮らしに定着しないのは生活様式だけではなく、文化や社会における価値観も関係しているのでは、というのが私が興味を持った問いです。

Bakaが居住する伝統的な住まい:モングル (Konishi et al.(2021)より引用)
Bakaの女性に注目し、理想の衛生環境を探る

この疑問を明らかにするため、私は実際にBakaのコミュニティへ入り、Bakaにとっての望ましい衛生環境とは何か、女性を対象にインタビュー調査を行う予定です。女性に着目したのは、女性にとっての衛生環境は、単なる排泄の場にとどまらず経血の処理や生理用品の交換・処分といった「月経保健衛生」の実践と密接に関わっているものだからです。

衛生観念を取り巻く環境

排泄環境と月経保健衛生を合わせて考えることで、Bakaの女性が日常生活の中で「衛生」をどのように考え実践しているか、より多面的に理解できると考えます。
私は学部の卒業研究で、「日本における文化的に秘匿される月経」をテーマに研究しました。その経験から、文化や生活環境が異なれば、月経との付き合い方や、それを支える衛生観念も異なると考えています。

調査のはじめは一緒に暮らすこと

調査でまず必要なのは信頼関係です。そのため、私はBakaと寝食をともにしながら生活し、Bakaの日常を体験する予定です。せっかくカメルーンまで行くなら、ホテルに泊まるよりもBakaと一緒に暮らすほうが、きっと何倍も面白い!研究者としてだけでなく、一人の人間として、彼らが見ている世界を自分の目で見てみたいと思っています。ただ、もちろん簡単ではありません。カメルーンではフランス語が公用語ですが、それ以上に難しいのがBaka語です。教材はほとんどなく、今知っている単語は「べ(Be)」。意味は「みんなで歌おう」。
私の研究は、まずこの一語から始まります。

「衛生環境」は何が決めるのか?

私たちは清潔なトイレがある、水道がある、手を洗える、などで「衛生環境」が整っていると考えます。それは感染症を防ぐうえで極めて重要です。しかし、その価値観はいわゆる現代的な衛生観念に強く影響を受けてきたと言われています。だからこそ衛生観念とは感染症を防ぐ目的だけでなく、文化、生活、価値観が重なって作られていると考えます。故に、Bakaの衛生観念を知り、改善策をともに模索することが重要です。

Bakaのトイレから世界のトイレをみる

私はこの研究を通して、「衛生環境とは誰の価値観で測られているのか」を考えたいと思っています。感染症対策としての衛生と、その土地で暮らす人々にとっての暮らしやすさ。その両方を見つめることで、本当にBakaの暮らしに合った衛生環境とは何かを一緒に考えたいと思っています。

そしてBakaのトイレを知ることは、遠いアフリカの話ではありません。
私たち自身が当たり前だと思っている「衛生環境」を見つめ直すことにつながると、私は考えます。

 

注・参考文献:

  1. 一般財団法人 日本国際協力システム, 「カメルーンの地図」, https://www.jics.or.jp/map/cameroon.html, 最終閲覧2026年8月4日
  2. Sambo, J., Mifune, R., Nyambe, S., Sai, A., & Yamauchi, T. (2025). Exploring sanitation challenges  among Indigenous hunter-gatherers, farmers, and merchants in Cameroon. African Study Monographs, Supplementary Issue, 63, 97–104. https://doi.org/10.14989/294173
  3. Sai, A., & Yamauchi, T. (2025). What motivates toilet use among Indigenous communities? Factors for promoting hygiene behavior among Baka hunter-gatherers in Cameroon. African Study Monographs, Supplementary Issue, 63, 69–84. https://doi.org/10.14989/294171
  4. Konishi, T., Sonoda, K., Hayashi, K., Peng, Y., & Yamauchi, T. (2021). Sanitation facilities, water quality, and child health in a hunter-gatherer, semi-sedentary village in Cameroon. Sanitation Value Chain, 6(1), 23–38. https://doi.org/10.34416/svc.00064

この記事は、大瀬唯華さん(保健科学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

大瀬唯華さんの所属研究室はこちら
保健科学院 保健科学コース 人類生態学研究室(山内太郎 教授)
研究室HPアドレス https://smilelab.ac/

Information

Update

2026.08.13

Categories

  • フレッシュアイズ
  • Twitter

投稿ナビゲーション

Previous
  • 歳時記
北大、150歳まであと4日
2026.08.10
Next

Related Articles

    • フレッシュアイズ
    #241 文学院で動物心理学の研究…!? - 文系から科学する「動物のこころ」(2) ~研究も育児も助け合い~
    2025.11.20
    • フレッシュアイズ
    #240 文学院で動物心理学の研究…!?- 文系から科学する「動物のこころ」(1)〜動物のこころに迫る研究入門~
    2025.11.19
    • フレッシュアイズ
    #239 日韓は「遠い近所」?(2)市民の力と文化のつながりが、日韓の未来をつくっていく
    2025.10.21
    • フレッシュアイズ
    #238 日韓は「遠い近所」?(1)ポピュラー音楽が繋ぐトランスナショナルな歴史
    2025.10.20
いいね!Hokudai
Official
Site