「推し活」をしている女性は「オタク」なのでしょうか?
過去10年で、自身のアイデンティティの一つとして「何かを推すこと」つまり「推し活」を行う人々が女性を中心に増え、「推す」主体としての女性イメージが強まっています。一方で「おたく/オタク」については、男性の行動に注目して語られてきました。
そこで私は、現代女性の「推し活」とその元祖ともいえる「おたく」的活動との間に、社会的な扱われ方とその意味の変遷があるのかについて研究しています。
【佐藤文音・国際広報メディア・観光学院修士1年】
「おたく」から「オタクへ」
「おたく」という呼称は1980年代に、「アニメや漫画、ゲームが好きな奴」=「ずっと家にいて暗くて人付き合いの悪い奴」という誤解から広まりました。男性に対する呼称として始まりましたが、2000年中頃に「おたく」的な女性が「腐女子」と呼ばれるようになりました。「腐女子」は主に、「BL(一次創作ボーイズ・ラブ)・やおい(二次創作ボーイズ・ラブ)」を好み、身なりに構わずに趣味に没頭する女性を指し、隠すべきものとされました。
しかし、2002年にダグラス・マグレイ氏の論文「Japan’s Gross National Cool」が外交専門誌『Foreign Policy(May/June,2002初出)』に掲載されると、日本でクールジャパンが急速に広まりました。クールジャパンは、日本のアニメや漫画などを始めとするサブカルチャーから食に至るまで、世界中の若者を惹きつけるクールな文化として肯定的に評価する考え方です。このクールジャパンの影響で、日本のアニメや漫画を積極的に楽しむ代表的存在として「オタク」が国内でも認知され始めます。
「おたく」も「腐女子」もマイナスイメージを持った呼称として使われ始めましたが、90年代〜2000年代にかけて、欧米ではオタク文化や高レベルな日本のアニメ・ゲームが好意的に受け取られ、アニメ・漫画が増加する現象がおきました。そうした海外ファンの間で、「オタク」という呼び名が恰好よく誇り高いものとして需要されるようになったのです。
社会的に認知される「オタク」
90年代〜2000年代前半に海外で人気を博した日本の代表的なアニメ・漫画は、『AKIRA』(1990)と『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995)です。この頃すでにアニメや漫画の国際的評価は高まっていましたが、日本国内でその芸術性とコンテンツ産業としての可能性が認められたのは、2010年からでした。国内では「アニメや漫画は子どものもの」「大人が熱心になるのは恥ずかしい」と思われていた文化が、海外からの評価によって逆輸入されるという矛盾を抱えながらも、国内外で「クールジャパン戦略」が敷かれ、サブカルチャーのコンテンツ産業に動機づけられた国内外の人々の移動が活発化しました。こうした経済的・文化的な動きを支える中心的消費者として「オタク」の存在は社会に認められるようになっていきました。

写真1:『銀魂』の聖地巡礼として洞爺湖を訪れた際の様子

写真2:『ヒプノシスマイク』の聖地巡礼として横浜を訪れた際の様子
「推し活」への展開
「オタク」の社会的認知が広がったのち、「推し」という言葉が新たに一般化しました。皆さんはAKB48の「チームB推し」という楽曲や「推しメン」という言葉をご存じでしょうか。実は楽曲や応援用語などに「推し」という言葉を頻繁に使用したAKB48が、特に女性アイドルの男性ファンの間の専門用語として「推し」という言葉を最初に定着させたと言われてます。現在は推しを心の拠り所として応援する「推し活」が幅広い年代、特に若い女性の間で流行し、日本経済のエンジンになることが期待されています。
そんな「推し活」が女性を中心に広まった理由として、2015年以降女性向けのアニメ・ゲーム作品が急増したこと、100円ショップや女性向けアパレルブランドで「推し活グッズ」を手軽に購入できるようになったことが挙げられます。実際に、男性を推す対象として女性が推し活を行う場合、推し活主体の人口と推し活に費やされる時間および金額は、男性が女性を推す対象とした場合を上回ることがわかっています。
推し活主体は、「好きなものを推す」ことに膨大なお金と時間を費やす点ではかつての「おたく」や「腐女子」と変わりません。しかし、消費額の大きさや推し活主体人口の増加から、消費者として無視できない存在になったため、グッズや推すという行動自体へのファッション性や世間での扱われ方は大きく変化しました。
このように「推し活」が女性を中心に流行し、これまでの「おたく/オタク」や「腐女子」より大きな影響力をもたらしているのはなぜでしょうか。
写真3:Instagramの投稿用にグッズを並べて撮影
写真4:『ヒプノシスマイク』のライブに参戦した際に持参した痛バッグ
女性に注目した「推し活」研究に向けて
私が現在立てている推察はこうです。
まず、「腐女子」が誕生した2000年中頃に比べ、2019年から新聞記事において「推し活」をする女性が注目され始めました。
さらに、コロナ渦の影響でSNS上で「推し活」ブームに拍車がかかりました。「お家時間」が増えたことでアニメや漫画、ゲームに触れる機会が増え、お互いにおすすめしたい作品の情報交換やグッズの写真を投稿して推しをアピールする動きが強まりました。
さらに20〜30代の女性労働者の所得の上昇に伴い、消費傾向やアイデンティティの見出し方にも大きな変化があったと考えられています。
さらにコンテンツ側に目を向けると、現在20〜30代の女性が小中学生だったころに流行したアニメや漫画が20周年などの節目を迎え、再度話題になることが増えています。
このように、ここ10年ほどで女性労働者が「推し活にハマる条件」が整い、「推し活」を後押ししていると考えられます。
また、文献を読み進めていくと、労働の観点に加え、セクシュアリティの観点からも「推し活」を捉えられることがわかりました。現在の「推し活」にも「オタク」文化にも共通するものとして「夢女子」というキャラクターとの恋愛を楽しむ女性の存在も見えてきました。これは「フィクトセクシュアル/フィクトロマンティック」と言われ、新しいセクシャリティとして近年注目されています。
「推し活」から新しいセクシャリティが見出されるようになったのは、現代に入り個性を尊重する風潮が強まったからなのか?現代という時代が偶然、女性たちを「推し活」に向かわせる条件を準備したのか?それともより必然的な経緯があったのか?
このように「現代女性が推し活にハマる条件」は、検討すればするほど可能性にあふれています。
私の研究はまだ始まったばかりですが、「推し活」を行う女性たちを推しとして追いかけて行きたいと思います!
写真5:アニメ『桜蘭高校ホスト部』20周年を記念したポップアップストアの様子
写真6:『たまごっち』30周年を記念した『大たまごっち展』の様子
注釈
1)一次創作:原作である作品を指す。(参考:飯塚邦彦「二次創作する読者の系譜ー「おたく系雑誌」における二次創作の背景を探る」,『成蹊人文研究』23, 2015, 63-90)
2)二次創作:一次創作(原作)に登場する既存のキャラクターや設定を使い、新しく作り出された作品。二次創作からさらに連鎖的に生まれた作品は「n次創作」と呼ばれる。(参考:飯塚邦彦「二次創作する読者の系譜ー『おたく系雑誌』における二次創作の背景を探る」,『成蹊人文研究』23, 2015, 63-90)
参考文献
3)佐々木隆,「オタク文化論」イーコン, 2011, 191-192
4)池田伸・日下部ななみ,「アイドルを探せ:クリエイティブ産業におけるメディア,タレント,ファンダム」,『立命館産業社会論集』60(1), 2024, 129-146
5)宮田雅之,「幸福度と『推し活』についての一考察」,『敬心・研究ジャーナル 研究ノート』8(1), 2024, 85-92
6)田島悠来,「メディアが描く『推し活』ーメディア報道と表象の分析から」,『帝京社会学』35, 2022, 87-115
7)Chan So Ling,「アニメ・ゲーム市場の女性市場開拓戦略」,『早稲田大学:早稲田大学リポジトリ』, 2022, 1-58
8)土屋萌・田中奈緒子,「若年者の『推し活』における消費行動ー心理的所有感・時間的態度に与える影響ー」,『昭和女子大学生活心理研究所紀要』27, 2025, 25-37
この記事は、佐藤文音さん(国際広報メディア・観光学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。
佐藤さんの所属研究室はこちら:
国際広報メディア・観光学院 国際広報メディア研究コース
https://www.imc.hokudai.ac.jp/academics/studies_courses/media_communication.html
マルチメディア表現論(田邉 鉄 准教授)