荒ぶる日本海、広大な太平洋、白く輝く北極海。そこにも北大キャンパスがあります。北大水産学部附属練習船 “おしょろ丸”です。この「洋上のキャンパス」に航海士として、また教育者として乗船する星直樹さん(北海道大学水産学部附属練習船おしょろ丸二等航海士 助教)に、練習船の役割をお聞きしました。世界の海をフィールドに、どのような実習教育や調査研究を行っているのでしょうか。
海の上の研究室、おしょろ丸
「おしょろ丸」は北海道大学水産学部が所有する練習船で、建物にすると6階建てになります。1909年(明治42年)に初代忍路丸が竣工し、昨年の7月には5代目おしょろ丸へと代替わりをしました。乗船するのは、研究者、学生、そして乗組員です。船の中にはいくつもの研究室があり、海洋物理学、海洋生物学、海洋化学や水産海洋学などの幅広い分野の実習と調査研究を行っています。特に「北洋航海」と呼ばれる航海は、60日間にわたってベーリング海とその周辺海域で調査研究を行う長期航海です。これまで日本の水産学をけん引し、今では世界中から注目される存在です。
(昨年7月に竣工したおしょろ丸V世)
自然科学の研究者をサポート
おしょろ丸の乗組員は、「甲板部」「機関部」「事務部」「海洋調査部」に分かれて仕事をしています。その中で、私は航海当直や船が安全に運航するための見張りなどをする甲板部に所属しています。研究者は、何ヶ月も前から調査航海に行く準備をして、その日を待ちます。しかし、やっと乗船しても海の上は予定通りにはいきません。自然が相手では、必要な海水や生物サンプルといったデータが取れない可能性も十分にあります。研究者を全力でサポートし、リクエストにどう応えるのか。海を知り尽くした私たちの腕の見せどころです。
(CTDと呼ばれる海水温と塩分と圧力を測る機械を海に降ろす様子)
「能動的に動きなさい。自分から動く人間になりなさい。」
船の上で学生に講義をしたり、ロープワークや天測実習、操業実習、操船実習など、船上での実践的な学生実習も大切な仕事です。海の上は、限られた時間の中で自分自身で考え、判断して行動しなければならないことの連続です。陸にいれば、誰かがしてくれるかもしれないし、何もしなくても何とかなるかもしれません。例えば航海中、悪天候になったときにそのまま調査を進めるのか、調査地点を減らすのか。減らすのであればどの地点を諦めるのか。もちろん、はじめからすべてを自分では判断できない。学生がひとりで行動し始めるようになるまで、判断するためのヒントを与えたり、見守ったり、時には厳しく指導します。
学生には「能動的に動きなさい。自分から動く人間になりなさい。」と言います。すぐに出来なくてもいい。どうすれば良くなるのか自分の頭で考えることが大切なのです。次第に自分で動く楽しさを覚えはじめます。
(ブリッジで学生たちを指導する様子)
おしょろ丸での教育は、教科書でどれだけ知識を身につけたか、専門用語や数値データを知っているか知らないか、といった座学での知識の習得から一歩進みます。学生たちが身につけてきた知識をいかに行動に結びつけることができるかの訓練だと思います。自分の実行力、人間性を問い直すための場とも言えるかもしれません。
船に乗ると、ダイレクトに海を感じることができます。海のすべてを自分の肌で感じて体験することができるのです。長期航海であれば、海の荒れる様子、大時化、凪など様々な顔を見せる海を自分で体験します。また、船の上は携帯電話の電波も入りません。日常から離れて自分自身と向き合う時間がたっぷりとれる場所です。ここでは、普段、陸では話さないような話をする機会が溢れています。このような貴重な体験を学生と共有できるのは、おしょろ丸の航海士の醍醐味ですね。
(実習の一環にて、学生を乗せて退船訓練を行う)
おしょろ丸を教育の場として考えた時に、想像を越える数々の体験の中で、学生たちが自ら気づき、学び、そして理解に至るというのは簡単ではありません。アドバイスを与えながら、こうすればうまくいったという経験を蓄積させることで、学生の知識を行動へと結びつけていきます。
(船内で学生の発表にコメントする星さん)
「今しかできないことをしないともったいない」と感じた学生時代
大学時代は、北大応援団とし青春を謳歌しました。なんといっても、忘れられないのが「深沢マンション」です。当時、マンションとは「豪邸」という意味ですからね。この建物で、約10人程度の学生が共同生活を送りました。今で言うと「シェアハウス」でしょうか。寝ていると頭に雪がつもるし、玄関はビニールで修繕されているし、家の中でもコートは脱げないくらいに寒い。素敵でしょう。笑
(深沢マンションに共に暮らしていた仲間達)
応援団では、多数決ではなく全会一致するまで仲間ととことん話し合いました。いつも「今しかできないことをしないともったいない」という気持ちがありました。めんどうだな、という理由で面白いことをしないのはもったいない。そんな思いに駆り立てられて、人との関わりの濃い学生時代を過ごしました。
(第80回 対小樽商科大学定期戦対面式で応戦状を読み上げる星さん)
海の教育について
日本に輸入される多くの物は船で運ばれてきていることをご存知でしょうか。周りを海に囲まれた海洋国家に生まれた私たちなのに、日本人は海がないと生きていけないということをあまり理解していないし、海について知らないのです。海には未知の世界が広がり、依然として世界の海は「フロンティア精神」を必要としています。おしょろ丸による航海では、全身でそのことを感じることが出来ます。学生には、未知の世界に挑む、そんな挑戦心のある人間に成長してほしいです。
(海に浮かぶおしょろ丸をみつめる星さん)
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星さんの出演するサイエンス・カフェが開催されます。興味のある方は是非ご参加ください。
第80回サイエンス・カフェ札幌
「書を捨てよ 海へ出よう ~洋上のキャンパス“おしょろ丸”とともに~」
日 時 :2015年1月25日(日)16:00~17:30 (開場15:30)
場 所 :紀伊國屋書店札幌本店1階インナーガーデン
ゲスト :星直樹さん(北海道大学水産学部附属練習船おしょろ丸二等航海士 助教)
藤田良治さん(北海道大学総合博物館 助教)
聞き手 :出村沙代(北海道大学CoSTEP)
参加費 :無料。当日は暖かい恰好をして会場にお越しください。
詳 細 :こちらをご覧ください。