抗がん剤の副作用はがん治療の質に大きな影響を与えます。しかし、副作用のしくみはこれまで明らかになっていませんでした。遺伝子病制御研究所の地主将久さんは、世界で初めて免疫機能をコントロールする「鍵」となる物質を特定しました。その物質とは? そしてそのメカニズムとはどういうものなのでしょうか?
抗がん剤による副作用のしくみを追う
がんにかかった時の治療の一つとして、抗がん剤でがん細胞を死滅させるという方法があります。がん細胞を小さくするか、消滅させて、切除する部分を最小限にとどめることにつながるからです。しかし抗がん剤には、がんを攻撃する一方で副作用があることもよく知られています。重大な副作用の一つに免疫力の低下がありますが、その副作用が大きいと体に負担がかかり、抗がん剤の量を減らしたり投与を中断しなければならなくなるのです。これは、治療の効果に大きな影響を与えることにつながってしまいます。しかし、抗がん剤によって免疫が抑制される詳しいメカニズムはこれまでわかっていませんでした。その仕組みを明らかにするポイントである「たんぱく」を突き止めたのが、遺伝子病制御研究所の地主将久さんです。
がん細胞だけに現れる特別な「たんぱく」
その「たんぱく」とはどういうものなのでしょう。そしてそのメカニズムにはいったいどんな秘密が隠されているのでしょうか。抗がん剤によって死んだがん細胞は、マクロファージという免疫物質が「食べて」分解します。するとペプチドという物質が作られます。ペプチドは免疫の活性を高める作用があることが知られているので、ペプチドを体の外から投与することで、免疫活性を高めることができます。しかしここで一つの疑問が浮かび上がります。ペプチドが作られるのなら免疫機能は逆に高まるはずなのに、実際には免疫が抑えられてしまうのはなぜなのか。地主さんはここに着目し、何らかの物質が作用を及ぼしていることを突き止めたのです。それは、「TIM-4」と呼ばれる物質で、これがペプチドを過剰に分解して免疫の機能を抑えてしまっているというのです。TIM-4 が免疫機能に関係しているということ、そしてこれががん細胞の中のマクロファージという免疫物質にだけ特異的に発生するということが、今回世界で初めて分かったのです。そして、TIM-4の働きが抑えられれば、免疫機能は落ちないのではないかと考えたのです。
「鍵」物質TIM-4をカギとして新薬の開発へ
「TIM-4」の存在と作用を世界で初めて明らかにした地主さん。もし「TIM-4」の作用をさらに邪魔する物質-「TIM-4阻害剤」を作り出すことができれば、免疫機能にできるだけ影響をおよぼさない治療への道が開けるかもしれません。「TIM-4」の働きを制御するしくみを解明することで、副作用が少なく、かつ治療の効果が高い新しいタイプのがん治療薬の開発が期待できるのです。つらい治療を行っている多くの人たちにとっての朗報が待たれます。