はじめに
北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)の「図書館選択実習」に参加した4名の受講生が、2015年7月に、北海道大学附属図書館の取材を行いました。取材のテーマは「知のメディアとしての図書館」「図書館の科学技術コミュニケーション機能」です。研究を支える「縁の下の力持ち」である図書館職員の方々は、どのようなことを考えながら、図書館での仕事をしているのでしょうか。四回にわたってレポートを連載します。
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北海道大学の医学部横に併設された医学部図書館。同大学内の学部付属の図書施設としては唯一、学部と独立した建物となっています。館内では、医学書籍の閲覧はもちろんのこと、2階にある広々とした学習スペースで、学生が自由に勉強できます。白衣姿の利用者の姿もちらほら。大学関係者であっても医学部図書館へはなかなか訪れる機会がないのではないでしょうか。3人の医学部図書館スタッフに医学部図書館で働く魅力や理念をうかがいました。
【藤井瑞季・歯学研究科博士課程1年・2015年度CoSTEP受講生】
(医学部図書館の蔵書)
生涯にわたる「学習」、地域社会の医療を支える
医学部図書館に足を運ぶ人は幅広く、医学生はもちろんのこと、大学院生、研修医、医師、看護師、秘書など多岐にわたります。地域の法律事務所の方や開業医も来られているそうです。
働きだしてからも新たな知識を必要とする彼らにとって、図書館はなくてはならない存在です。
ここで働く川村路代さんは、医学部図書館勤務を希望した一人です。
「皆さん背景は違えど医学に携わる方で、患者さんの命を預かっています。そこに図書館員も加われるということでやりがいがあると感じています。」
(川村路代さん)
書棚に目をやると、難しそうな医学書が並んでいます。
図書館員の田邉千雪さんは、医学部図書館の特徴を「サービスする側としてはわかりやすい」と語ります。医学では、各専門分野での基礎知識はある程度共通しています。
「例えば、データベースに関して、臨床情報が集まっているデータベースがあればほとんどの分野に役に立ちます。我々図書館員はそのツールについて勉強しておけばどこの専門分野の人にも説明できるし、データベースの講習を開いたらほとんどのひとに役に立つわけです。図書館員として、利用者の求めている情報を提供するために何を準備したらよいか判断しやすいのです。」
スピード対応、サポート体制
医学部図書館に勤める図書館員には、ときに対応の早さが要求されます。最新の知識が求められる医療従事者は、文献の取り寄せに緊急性のあることが多いからです。「まさにある問題に直面していて、関連する文献が今すぐに欲しい。といった状況にしばしば直面します。」と田邉さん。
さらに文献の収集は、医師に代わって秘書が担当することが多いそうです。
「経験のない秘書さんたちをサポートするために、医学部図書館独自に、文献検索講習会も行っています。」
(田邉千雪さん)
図書館員の役割 二つの顔
医学部図書館には、1774年に杉田玄白により西洋の医学書を翻訳した解体新書も収蔵しています。
図書館員養成の大学を卒業した加藤大博さんは「蓄めるための技術」が大事、と語ってくれました。
「書物をどうやって蓄めておくかという技術は、図書館のなかで独自に培っています。その技術があれば、何年後かに、変わったものが出てきてもどうやって扱ったらよいか考えられますが、技術がないと、扱いきれないから扱わないでおこうと避けてしまう。図書館員というと、利用者と直接対応する窓口のイメージが強いし、人気がありますが、見えないところで頑張っておかないと本は消えていくだけなんですよ。」
貴重な本、古い本だけではなく図書館には最新書籍も豊富に取り揃えられています。「わたしは生きている情報と生きている人を相手にしたい。」と川村さんは微笑みます。「100年前の本を100年後に伝えたい。新しい本をどんどん使ってもらいたい。」図書館には、大きく二つの側面があることがわかりました。
(加藤大博さん)
知を蓄め、知を使い、知を伝える
多くの情報が溢れる現代社会では、さまざまな施設で利用者に対していかに施設が提供するサービスをアピールするかが重要な鍵となっています。図書館も例外ではありません。「古いもの新しいものを問わず、図書館が持っている書物や文献を、利用者となる方にどれだけ知ってもらってどれだけ使ってもらえるかということは私たちの課題です。利用者が図書館に足を運んで情報を得ることに頼るのではなく、図書館側からどんどん情報を発信するスタンスに変わってきています。北海道大学医学部図書館としてどのような提供ができるか、これからも模索していきます。」
大学病院はもちろんのこと、地域医療を支え「知の中核」の役割を担う北海道大学医学部図書館。これからも医療を支え続けてくれるでしょう。
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この記事は、藤井瑞季さん(歯学研究科博士課程1年・2015年度CoSTEP受講生)が、CoSTEPの「図書館取材選択実習」(2015年度)を通じて制作した作品です。
次回は10月13日に「#87 北海道大学理学部図書室を訪ねて」を掲載予定です。