HUSCAP(Hokkaido University collection of SCholarly and Academic Papers)は北海道大学の研究者や大学院生が著した学術論文、学会発表資料、教育資料等をだれでも自由に閲覧できる学術成果コレクションです。今年は HUSCAP が誕生して10周年。そんな節目の年に HUSCAP を担当することになった、学術システム課システム管理担当係長の梶原茂寿さんに、HUSCAPのこれまでの10年とこれからについてお話をうかがいました。
【佐々木萌子・薬学部薬学科5年・2015年度CoSTEP受講生】
(梶原茂寿さん)
「論文」はだれのもの?
研究者はその研究の成果を「論文」として発表します。論文は出版社で審査された後に雑誌に掲載されます。当たり前かもしれませんが、その雑誌を買っている人は論文を読めても買っていない人は読めません。雑誌の購読料は年々右肩上がりで、購読を断念する大学や研究者も出てきています。また、研究者ではない人にとって論文を読む機会はほとんどないのが現状です。しかし論文、すなわち研究成果は社会に還元されるべきものです。
「いかに先生の書いた学術的な論文を、研究者だけではなく広く世間一般の人にも見ていただけるかを考えなければならない時代になってきている」と梶原さんは言います。このような背景から、2005年に、北大の研究者の論文をだれでも自由に閲覧できるHUSCAPが、北海道大学附属図書館に誕生しました。
(北海道大学附属図書館が提供する HUSCAP のページは季節ごとにバナーが変わります
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/)
HUSCAPチームの取り組みと著作権
HUSCAPチームでは、北大の研究者が書いている論文を検索し、論文の提供をお願いしています。その数、月500報。雑誌に掲載されている論文をHUSCAPに掲載するときに確認しなければならないのが、それぞれの雑誌の著作権です。研究者が論文を投稿する際、出版社と著作権譲渡契約書を取り交わします。基本的に論文の著作権は出版社が持つこととなります。そのため、論文を書いた先生だけではなく出版社に掲載許可を得る必要があるのです。
「論文全部を先生に依頼できるわけではなくて、出版社のポリシーによっては、出版から12か月後なら掲載OKとか、そのまま出版社版を使って良い場合もあるし、出版社版はダメ、著者原稿の最終版でアクセプトされたものだったらOK、とか条件やポリシーが全然違います。そのポリシーチェックを4人で手分けしてやっています。」
加えて、HUSCAPに掲載された論文がどの国の人にどれだけ見てもらえたか、というような細かいチェックもしているとのこと。北大の研究成果の発信はHUSCAPチームの支えがあって成り立っているのです。
(HUSCAP10周年を記念するポスターを手にする梶原さん)
青天の霹靂:HUSCAP担当へ
梶原さんがHUSCAPの担当になったのは今年の4月から。「まさに青天の霹靂だった」と振り返ります。梶原さんは北大に採用された時、会計の仕事と図書室の仕事を併任していました。図書系の業務は他の業務に比べて電算化が早かったため「コンピューターを触るのは好きだったし、図書館の仕事はおもしろいなと思い、それで図書館職員の道に来たというところはあります」とのことです。
今までも図書館の窓口や裏方の仕事など多くの業務を経験して、HUSCAP担当となった梶原さん。HUSCAPの仕事について、「HUSCAPのような取り組みは日進月歩で、去年までやっていたことがもう古くなっている、ということがかなりあります。どう進めていったらいいのかを模索しながら最新の情報をちゃんと入手して、反映させていかないといけません。かなり苦労しています。」
一方でこう続けます。
「HUSCAPの仕事って、まだまだやらなければならないこととか、もっとやれることが、たくさんあります。忙しいし大変ですけど、やりがいはすごく感じます。新しいことをやっている楽しさがあって、充実しています。」
「はすかっぷちゃん」とこれからのHUSCAP
今年10周年を迎えたHUSCAP。梶原さんはじめHUSCAP担当のみなさんが愛してやまないものがあります。「はすかっぷちゃん」こと、HUSCAPのPRキャラクターです。今まであまり表には出てきていませんでしたが、実は10周年のロゴにもはすかっぷちゃんが隠れています。はすかっぷちゃんクリアファイルなどを作って、一般の人にもHUSCAPをPRする作戦です。
(「はすかっぷちゃん」のあみぐるみを手にする梶原さん)
「研究成果の社会還元」を目的に誕生したHUSCAP、これまでの10年は北大の研究者の論文をだれでも自由に閲覧できるように活動してきました。
「これからは図書館の側からもっと前のめりになってやっていきたいと思います。」と梶原さんは言います。図書館に来てくれる人やHUSCAPにアクセスしてくれる人だけでなく、広く一般の人へHUSCAPや北大の研究成果を紹介する企画を考えています。
「我々HUSCAPのチームは、『新しいものに乗っかる』ということを常に考えています。メンバーも若手ですので、私も『まだ負けないぞ』と思ってやっています」と笑う梶原さん。
「『HUSCAP見ると北大の先生の研究がわかるよね』と言ってもらえるようにしていきたいと思っています。」
どんどん新しいことに乗っかり、楽しみながら進めていく。HUSCAPチームから目が離せません。
(インタビュー後の記念撮影)
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この記事は、佐々木萌子さん(薬学部薬学科5年・2015年度CoSTEP受講生)が、CoSTEPの「図書館取材選択実習」(2015年度)を通じて制作した作品です。
次回は10月27日に「水や空気のように意識せず使えるサービスへ~リモートアクセスでつながる大学図書館~」を掲載予定です。