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#68 今、改めて 戦争について考えよう

東アジアにおける緊張、シリアの内戦など、世界では今現在も争いが絶えません。日本でも昨年夏に安全保障法案が成立し、大きな議論を呼びました。

このような状況の中、戦争を正面から捉え直す『正しい戦争はあるのか? 戦争倫理学入門』(大隅書店、2016年3月)が出版されました。著者は戦争倫理学を研究する眞嶋俊造さん(応用倫理教育研究センター・准教授)です。眞嶋さんは、6月4日に同じテーマでトークイベントも開催します。

あまり聞き慣れない「戦争倫理学」とは何か、なぜ戦争倫理学を研究しているのか、お話をうかがいました。

【川本思心・CoSTEP/理学研究院 准教授】

戦争倫理学とはなんでしょうか

戦争を、倫理や規範の観点から扱う事で、その本質を捉えようとする学問です。私が2010年に出版した『民間人保護の論理―戦争における道徳の探究』(北海道大学出版会)も戦争倫理学に関する本で、民間人は軍人と違ってなぜ攻撃してはいけないのか、保護すべきなのか、について論じました。

戦争倫理学は、実社会との関係を重視する応用倫理学の一分野です。他には、生命倫理や環境倫理があります。実は戦争倫理学は、英語圏の応用倫理学ではメジャーな分野です。戦争を常にやっている国々だからという事情もあるでしょう。一方、日本では1980年代ごろに応用倫理学が入ってきましたが、当時から現在まで、戦争倫理学を扱う研究者はほとんどいません。日本をとりまく政治的・国際的状況もあり、学問の分野であっても戦争を扱うことをタブー視する風潮がありました。

なぜ今出版しようと思われたのですか

前著を出版した後、学生にしても、アカデミアにしても、社会全体にしても、戦争について口にすること、学問としてあつかうことに抵抗がなくなってきたな、と感じました。また、学生の反応としては、「戦争は絶対ダメ」という反応ばかりかと思っていたら、意外と「手段としてあり得る」といった肯定的な反応も少なくなかったのが驚きでした。いずれにせよ、安保法案などでリアリティや危機感を持っているのだと思います。

そこで、戦争に関する議論のすそ野を広げることを考えました。戦争を「良い」「悪い」といった一方的な議論で終わらせないために、戦争とは何なのか、といった議論の土俵を提供したい、というのがこの本を書いた動機です。

戦争倫理学を書く上での難しさは

やはり誰に対して書こうか、と考えましたね。戦争倫理学をやっている人はほとんどいないので、伝えたい事はたくさんあります。でも何についてどの程度分かりやすく書くか…。倫理学を知らない人や、高校生でもわかる程度の内容にしました。

1章「戦争倫理学の基礎」では、戦争倫理学を理解する上で必要な倫理学の基礎についてまとめています。倫理学というと「功利主義」「カント主義」といった言葉が良く出てきてしまいます(笑)。でも専門用語はなるべく入れないようにしました。1章を飛ばして読むこともできます。ただ5章「戦争倫理学の実践」は元々学術論文だったものを収録したので、ちょっとハードかもしれません(笑)。

そもそも、なぜ戦争倫理学を研究しているのでしょうか

倫理学からではなく「戦争」からまず入りました。大学では法学部政治学科で、国際関係論を勉強していました。国際関係において戦争は必ずでてきます。そこで戦争に興味を持ちました。そして現場を知りたいと思うようになり、授業もそこそこに紛争地帯に行っていました。ロバート・キャパのような戦争写真家になりたかったんです(笑)。

(そういえばどことなくファッションも戦場カメラマンのような眞嶋さん)

96年にはイラクのバグダッドに行きました。当時は湾岸戦争後で、米国を中心とした国連に経済封鎖されていた時代です。そのような中で、女子中学校の英語の授業を参観させてもらいました。そこで女の子が絵を描いていたんです。イラクが泣いている女の子、アメリカが鎖をもつ怖い大人として表現されていました。それを見て…なかなか言葉にできないですが…うーんと思ったんです。子どもは大人にそういう絵を描かされているわけではありません。大人の社会、戦争という大きな動きがあるなかで、子どもはその中に身を置きつつも、子ども自身の日常や感覚がある、ということに、その絵で気づいたんです。戦争という言葉は、特定のイメージで固まっていますが、戦争の実際は一面ではない。後付けですが、その気づきが民間人保護の研究につながったのかもしれません。

なぜ悪いと決まっていることを研究するのかと言われたこともあります。そんなものを研究していると将来のキャリアに傷がつくとも言われました。でも自分は学問的誠実さにのっとって研究しています。

トークイベントではどのようなお話を

本の全て扱おうとすると倫理学の前提まで踏まえなければならず、大変です(笑)。ですので、前書きで書いた事を、と考えています。戦争は嫌だ、ではなぜ嫌なのか、嫌だというのも考えていることですよね、というところから始めたいと思っています。

眞嶋さんがお話しするトークイベントが開催されます。

今、改めて戦争について考えよう ~戦争倫理学入門〜
日時: 2016年6月4日(土) 14:00~15:30
場所: 紀伊國屋書店札幌本店1階インナーガーデン
参加費: 無料・事前申し込み不要
詳細は【こちら】

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2016.05.31

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