広い北海道では、医者の数が全国平均以下の地域も数多くあります1)。そのような地域では、専門に特化した医療ではなく、総合的な医療も求められています。この状況の中、平成29年に「総合診療専門医」、いわゆる家庭医が第19番目の専門医として認められ、日本の医療は大きな転換期を迎えています2)。
北海道の医師がどのように地域医療を支えているか、道東の更別村で家庭医としてつとめる北大OBの山田康介さん(更別村国民健康保険診療所・所長(北海道家庭医療センター))にお話を伺いました。
【渡邉洋章・CoSTEP修了生/医学部6年】
――家庭医とはどのようなお医者さんなのでしょうか
地域のみなさんの日常生活の一番近くにいるのが家庭医です。治療はもちろん、日常的な医療に関する相談、予防医療、生活習慣病管理、介護医療など、業務は多岐にわたります。住民が一番必要な医療を把握するためには患者の家族のことも考え、専門医や多職種と連携します。また、病気は必ずしも治るわけではなく、障害をもって地域に帰ってくることもあるので、そういう方たちを受け入れる体制もつくるのも家庭医の仕事です。平成30年度から開始する新しい専門医制度で、「家庭医」は「総合診療専門医」と呼ばれるようになります。
――なぜ家庭医を選んだのでしょうか
私は知床・斜里町で生まれ、道東各地で育ちました。生まれ育った場所で見たのがいわゆる「町のお医者さん」だったので、刷り込みというか原風景というか、自分もそうなりたいと思ったということですかね。
1998年に北大医学部を卒業し、室蘭の日鋼記念病院で研修をうけました。同期のほとんどが大学の医局に入局する時代でしたので、めずらしかったと思います。家庭医療の研修は3年目からスタートしました。当時は診療科目としても確立されていなかった家庭医療学の専門コースがその病院にはあったのです。
――なぜ更別村にやってきたのでしょうか
更別村には2001年にやってきました。私が来る前、更別村の診療所には常勤医師がいなくなっていました。村にとって医者の確保は至上命題です。村長と診療所の事務長は、北海道家庭医療学センターがある日鋼記念病院を訪問しました。そして当時の理事長・西村昭男先生と日鋼記念病院院長の葛西龍樹先生の合意のもと、更別村とセンターが業務提携を締結し、家庭医を更別村に送ることになりました。そこで白羽の矢が立ったのが、かねてから田舎で臨床医をすることを切望していた私でした。
(更別村の風景。大規模な農地が広がる)
2001年、後輩を引き連れて、まずは半年間赴任しました。その後半年間室蘭に戻って残りの研修を受けて、2002年春に全ての研修を修了しました。そして自分の進路を考えました。当時の日本の家庭医の多くは、米国やカナダで資格を取得した医師たちでした。私の世代は日本で育った家庭医であり、自分たちがどのような医療を実践できるかを知りたいと思っていました。「村に医師が戻れば頑張れる」と住民のみなさんに感謝されたことも嬉しかったですね。そこで、更別村で純和製家庭医療を実現しようと決意しました。
――住民の信頼を得るために必要なことは何でしょうか
私は27歳で院長になったので、人の話を聞くようにしてきました。そして誠実であることが大切です。約束したことはやる。有言実行。いいこと言うだけじゃだめですね。一番大事にしていることは患者さんを診察すること、癒し手であることです。
赴任した当初は「今度来たお医者さんはちょっと違うね。今までの先生と違ってしっかり診てくれるね」と思われるような医者、専門医やケアマネージャーの方々にも「今度更別に来た先生はなかなかいい先生だね」と患者さんに言ってくれるような医者になれたらと思って、患者さんを見ていました。
この15年間、いろんな人と仕事をしてきました。そして少しずつ信頼して頂けるようになったかなと思います。更別村は行政と医療の連携がうまくいっていますね。役場のみなさんが診療所の味方です。
(診療所の建物には村の保健福祉課も入っており、一貫した保健福祉医療サービスを提供している)
――地方ならではの健康問題や、その予防に関する取り組みを教えてください
多くの子どもたちを見てきましたが、中学校を卒業して都市部に出たら、不健康になってしまった例も見てきました。これらの問題の根っこは、健全な自尊心を基にした、社会を生き抜くライフスキルを身につけられなかった点にあるのではないか、と考えました。
そこで、同じ問題意識をもつ保健師と2012年に立ち上げたのが「さらべつほーぷ」です。社会福祉協議会や農業高校の養護教諭なども賛同してくれて、お互いにカバーできるチームになりました。地域のお母さん方も協力してくれています。
(さらべつほーぷ主催の第3回さら*カフェ。テーマは「子どもたちのやる気スイッチ,どこにあるの?」)
――どのような活動をしているのでしょうか
例えば、コミュニケーション・スキルを育成するワークショップです。有害であることを知りつつ、子どもたちがタバコを始めるのは、友だちの影響があるからです。そこで、タバコを吸おうと誘う友だちに対して断る、という練習をします。断るためには、自分は価値がある人間であり、自分は自分という健全な自己尊重感が根底に必要になります。将来的な目標は、村の思春期のお子さんたちに対して恒常的にライフスキルが教えられる環境をつくることです。
(更別小学校で実施したライフスキルの授業の様子)<写真提供:山田康介さん>
――これからの展望を教えてください
家庭医が理想的に機能した時、どれだけ役に立つか、を明らかにしたいです。医療を取り巻く環境は常に変化し続けています。外部環境に適応しながら、質の高い医療を提供できる診療所を作り、そして後進に託していきたいです。
参考文献: