はじめに
2017年8月、北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)の「図書館取材実習」に参加した2名の受講生が、北海道大学附属図書館への取材を行いました。取材のテーマは「図書館の科学技術コミュニケーション機能」「知のメディアとしての図書館」です。北海道大学の教育と研究を下支えしている図書館職員の方々は、どのような想いをもちながら仕事をしているのでしょうか。図書館にはどのような設備があるのでしょうか。2回にわたってレポートを連載します。
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北海道大学附属図書館のひとつである北図書館は、キャンパス北部に存在し、主に学部1年生対象の講義が行われる高等教育推進機構と繋がっています。
北図書館と、他の図書館との違いは何だろう。北図書館の職員の皆さんはどのような想いで働いているのだろう。附属図書館利用支援課の課長補佐、松尾博朋さんと北図書館担当係長である綾田陽子さん、そして職員の田原憧子さんとお話してみると、大学生に対してどのような気持ちを込めて図書館で働いていらっしゃるのかがみえてきました。インタビューを通して、私たち学生は目に見えないところでも、多くの人に支えられて勉強しているということを再認識しました。
【酒井友里 CoSTEP受講生・生命科学院 生命システム科学コース 修士1年】
年間6000冊、並べて、しまって、ときどき廃棄
ーー北図書館では、年間何冊くらい新しい本が入ってくるのですか。
松尾:約6000冊です。
ーー6000冊も! 選書はどういった基準で行っているのでしょうか。
綾田:文庫や新書の中には、シリーズで購入しているものがあります。また、学生さんが知りたいと思うであろう話題について、ニュースなどをチェックして、関連する本を入れるようにしています。また、教員選定図書として各学部等の先生に選書してもらったり、シラバスに掲載された参考図書を購入したりすることもあります。
松尾:北図書館は以前、教養分館と呼ばれていました。当時、学部1・2年生は専門に行く前の教養を勉強する課程である「教養部」に所属していました。今も基本的には一緒で、将来的に自分の専門はあるにしろ、その前段階の幅広い教養を身につけるという時期にある学生さんに利用される図書館ですから、幅の広い、やわらかめの本を選書するよう心がけています。
綾田:教養という点では、学生みんなが同じ状態で大学に入ってくるわけじゃないでしょう。全教科の勉強をしっかりやっていて、受験に使わない科目もできる人もいれば、受験科目に特化して勉強してきた人もいる。でも中学以降にそぎ落としてきたものの中には、大学に入ったら必要になるものもありますよね。そういうものを拾い上げていけるように、例えば物理や数学の易しい本などを選んで置いています。語学であれば多読に向いた本ですとか。このような選書は今までの職員が積み重ねて築いてきたものでもありますね。
ーー北図書館に置いてある本は、かゆいところに手が届く本が多い印象を受けています。他の図書館にはあまり置いていないような本や、タイトルを見て面白そうと思えるような本がとても多くて、図書館の本棚の間をうろうろするだけでも楽しいです。
松尾:そこは私たち図書館職員が狙っているところですね。
ーー1年に新しい本が6000冊入るということは、その分しまわれていく本もあるということですよね。
松尾:あります。でも、本をしまう場所である書庫もすでにいっぱいなので、定期的に処分しなければなりません。
綾田:去年から今年にかけては約14000冊処分しました。でも、全部捨てたわけではありません。まず学内の研究室等で欲しいところがないか聞いて、移動しました。それから古本屋さんに何百冊か買い取ってもらい、全国の他の国立大学にも利用の希望を尋ねました。それでも最終的に残ったものは廃棄しました。
ーー利用者、貸し出し数の少なかった本から優先的に処分していたのですか。
松尾:そうです。ただし、そのような本も、北図書館に必ず1冊は残すようにしています。ですから2冊以上あり、貸し出しがここ10年間で一度もなく、買ってから20年以上経ったものという複数の条件を全て満たすものを廃棄しています。図書館職員としては、捨てたあとにその本使いたかったと言われるのが一番悲しいことです。ちゃんと保管しておき、その本がここにあることを世界中に知らせておけば利用者がいる、と私は考えています。ですから、蔵書検索で引っかかるようにしておくことが重要ですね。今はインターネットのおかげで、全世界から北大の図書館にどんな本があるかすぐに探すことができます。日本国内では需要のない本であっても、世界からは必要とされる場合があります。それは私たちが業務として、海外の図書館に、日本国内にはない本のコピーの取り寄せなどを依頼しているので、よくわかります。
ーー膨大な量の本を館内に並べる/書庫に収納する/廃棄するといった選択、他の図書館に書籍の存在を知らせる……まさしく図書館で科学技術コミュニケーションが行われているんですね!
(今まで知らなかった図書館で働く人の想いを聞き取る酒井友里さん)
対人だからこそできること
ーー一昨年(2015年)の西棟増築に伴って、どのような変化がありましたか。
松尾:増築前と比較し、面積は31%、座席数は54%、利用者は16%増加しました。ディスカッションのできるアクティブラーニングフロアもでき、利用者の幅が広がりました。
ーー利用者増加のために行っている工夫はありますか。
綾田:北図書館は高等教育推進機構の建物と繋がっていることもあって、自然に学生さんが来てくれる環境にあります。ですから利用者増加のための工夫よりは、学生さんにいかに快適な学習環境を提供できるかを大事にしています。例えば、具合が悪い人はいないかなとか、放置されている荷物はないかしらとかを気にかけながら、巡回しています。それから気温は大事ですよね。西棟は良いエアコンが入っているので、自動的に設定の温度にしてくれます。ただ人が多いと湿度が高くなり不快になるので、その点を気にかけて調節しています。東棟はあまりクーラーが効かないので、暑い日は窓を開けて風通しを良くしています。
ーーその日の天候や利用者数を踏まえた、対人だからこそできる細やかな工夫を行っているのですね。
松尾:他には、西棟のアクティブラーニングフロアでは騒音の問題が出てきているので、工夫して対処しています。たとえばサイレントフロアと名付けられている西棟4階は、試験期間だけは非常扉を閉め、なるべく静かな環境を保つようにしています。
綾田:学生さんには気分よく使って欲しいから、声かけ一つにも気を遣っています。例えば館内でお菓子を食べている人に対して、単に「駄目だよ」と言うのではなく「ここではやめてね。でも図書館の一階では飲食して大丈夫ですよ」と、もっと図書館の使い方を知ってもらえるように伝えることを心がけています。
より効果的な本と学生の出会いの場作り
ーー図書館内では様々なサービスを提供されていますよね。
田原:借りた本の延長、蔵書検索は図書館の外にいてもオンラインでできます。本の予約、文献の複写、返却日前日にメールが届く機能もあるのですが、残念ながらあまり知られていません。
松尾:いろいろな手段を使って広報しているのですが、なかなか学生さんに伝わっていないことを日々感じています。
綾田:それから図書館の利用方法を知ってもらうために、図書館情報入門という1年生向けの授業を行っています。授業の1コマをもらって、図書館職員が文献の探し方を教えて、実際に北図書館で本を探して手に取るところまで行ってもらうという内容です。
松尾:従来、図書館は本を貸すところと認識されていました。しかしインターネットが普及し、論文検索用のデータベースや電子ジャーナルのような電子的なツールが充実した時代になって、図書館としてその効果的な使い方を教えるべきだという考え方がうまれました。時代に呼応するように図書館情報入門が始まったのです。
ーーこれから図書館の環境作りをどのように盛り上げていこうとお考えですか。
綾田:究極的には、図書館をみんなが利用して、みんなの学力が上がって、北大全体のレベルをぐっと底上げできれば良いなと思っています。学生時代に授業以外のものにもどれだけ「踏み込めるか」が、社会人になってから効いてくると私は思っています。興味の幅をどんどん広げて、教養と呼ばれるような広い土台を作る過程に、北図書館が貢献できればと思います。
松尾:図書館は、本と学生の出会いの場です。もっといろいろな出会いを効果的にできるよう、選書や展示に力を入れていくつもりです。
ーーありがとうございました。
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取材を通して、日常的に行われている細やかな気配り、本と学生の出会いの場の効果的な設計、職員の皆さんが図書館に込めている想いを初めて知りました。目に見えないものも含め、様々な支えを受けて、私たちは学生生活を送っているのだと実感しました。
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この記事は、酒井友里さん(2017年度CoSTEP受講生)が、CoSTEPの「図書館取材実習」(2017年度)を通じて制作した作品です。
次回は「書庫から探る附属図書館本館の秘密」を掲載予定です。