高橋幸弘さん(理学研究院教授・センター長)らは東北大学と共同で、超小型衛星の開発・製作に取り組んでいます。
超小型衛星の特徴を教えてください。
大きさが50cm×50cm×50cm、重量50kg、製作費用が約3億円のとても小さな衛星です。普通の衛星は小型のものでも、重量200kg〜300kg、製作費用は数百億円が相場ですから、100分の1のコストです。コンパクト・低コストだけがウリではありません。この衛星に搭載される望遠鏡は、地上5メートルのものを識別できる分解能をもっています。つまり1ピクセルが5メートルという精度で地表面を観測できるのです。
(©東北大学・北海道大学)
偵察衛星であれば、1m以下の分解能が必要で、たてよこ高さが3m以上の大きな衛星に巨大な望遠鏡を搭載します。その偵察衛星をスパコンに例えるなら、この超小型衛星はタブレットPCとでも言えるでしょう。
衛星に搭載される計測機器に画期的な技術が採用されているのですか?
そのとおりです。このプロジェクトは東北大学と共同で進めていますが、衛星本体を東北大学が製作し、搭載する計測機器を北海道大学が開発しています。その一つ、望遠鏡には特殊な液晶フィルターが取り付けられていて、600色以上の撮影を可能にしています。これは大型衛星でも実現したことがないスペックです。スペクトル(色を細かく区切ったデータ)をみると、地球上の様々な情報を得ることができます。例えば、土壌水分量、農産物の生育状況、鉱物資源の分布、環境破壊の広がり…など、地上で現地へ行って確認しなくても、衛星からのデータをキャッチするだけで瞬時に判断できるのです。自然環境の保全・保護への応用など、可能性が大きく広がるでしょう。
このフィルターにはさらに画期的な特徴があります。これまでの衛星にはフィルターターレットといって、複数のフィルターを交換する方式が使われていました。しかし可動部が多いため、故障の原因となってしまいます。宇宙空間では致命傷となりかねません。
(望遠鏡の正面からレンズ部分をのぞく)
それに対し、北大が開発した液晶フィルターは可動部ゼロです。電圧を変えるだけで、680色の中から指定されたカラーフィルターに交換できるのです。地上からフィルター交換のコマンドを送ると、0.1秒でフィルターを変化させ、地表の状態を知らせてくれます。大きさが画期的に小さくなりましたので、これまで想像もできなかった利用のアイディアが生まれてくるだろうと期待しています。スペクトル情報を生かす技術は、農学部の研究者と開発中ですが、この技術によって、おおげさかもしれませんが地球の見方が変わるはずです。その第一歩を踏み出そうとしています。
超小型衛星や搭載機器の開発・動作試験をワンストップで行う環境が整備されていると聞きましたが、案内していただけますか?
(左上)半導体をつくれるほどに高性能なクリーンルーム。北大の電子科学研究所が開発しました。ゴミの数が極端に少なく、フィルターを通して空気を循環させ、清浄度をアップさせます。(右上)宇宙は真空です。模擬的に宇宙空間をつくり、真空中で正常に作動するか確認します。この装置で、宇宙空間の極低温や、太陽にさらされた温度の高い状態を再現します。
北キャンパスに隣接する道立工業試験場では、搭載機器が宇宙環境で正常に動作するか確認するための検査装置が用意されています。(左下)黒い台座にセンサーを設置し、打ち上げ時の振動に耐えるための条件を調べています。振動レベルを上げながら、測定します。(右下)電波暗室では、電磁波を照射して異常動作をしないかテストします。さらに機器が迷惑な電波を出していないかも確認します。
次回に続く