北大の余市果樹園は、高橋太郎さん(技術専門職員)のほか、増茂弘規さん(技術職員)と荒川めぐみさん(技能補佐員、5月~11月のみ)の3人で維持管理されています。高橋さんに果樹園の中を案内して頂きました。
(左から、高橋さん、荒川さん、増茂さん)
どんな果樹を栽培しているのですか
5ヘクタール(50000平方メートル)ほどの敷地に、リンゴの樹が約160本、洋なしが約50本、さらにブドウ、サクランボ、スモモがあります。そのほか近年は、ハスカップや、ブルーベリー、ラズベリーなど小果樹の栽培にも力を入れています。
(収穫されるのをまつリンゴ。品種はふじ)
春には、サクラが咲いて、サクランボ、ナシとつづき、例年ですと5月15日ごろにリンゴの花が咲きます。今年は春先に気温が低く、5月27日でした。ところが9月に入ると急に涼しくなって、リンゴも一気に色づいて甘くなり、例年より1週間から10日、早回しで進行しています。
リンゴでは、つがる、ふじ、王林、ニュージョナゴールド、ハックナインなどの品種を栽培していますが、ふじの収穫が最後で、来週[10月最後の週]に予定しています。
収穫した果実は、しばらく前まではすべて学内の教職員に販売していました。最近は、北大病院の病院食に利用してもらったり、余市の近くのレストランに提供してスイーツに加工してもらうなど、新しい販路を開拓しています。
(紅葉したブルーベリー。収穫は8月の第1~2週に終えました)
栽培する品種は、どのように選んでいるのですか
一般市場ではそれほど有名でなくても、地域で永年にわたって大事に栽培されてきたものを、取りそろえるようにしていきたいと思っています。そして、リンゴの並木を歩くことで、品種誕生のストーリーが見えてくるような、「見本園のような果樹園」にしていけたら、と思っています。国光とデリシャスを親としてフジが生まれ、ふじ と つがる を親としてハックナインが生まれる、といった品種誕生のストーリーを学生たちに伝えたいのです。
ハックナインという品種は、北海道中央農業試験場で作りだされた「道産子りんご品種第一号」です。Hokkaido Apple Cloneに系統番号の9を組合わせた“HAC9”から、ハックナインという名前が付けられました。酸味と甘みがあり、歯ざわりもよく、生食にもジャムなど加工用にも向くという特徴をもっています。いい品種なのですが、栽培が難しく、あまり市場には出ていません。この果樹園にも2本ありますが、1本は枯れてしまい、いま接ぎ木して再起を待っているところです。
教育や研究には、どのように利用されているのですか
農学部の学生たちが、年に8~10コマ、この果樹園で実習をします。春先の枝きりや、成りすぎた実を摘む摘果作業、収穫などです。ここには、教室やシャワー室などはありますが宿泊施設がありません。宿泊が必要なときは、忍路(おしょろ)の臨海実験所の施設を利用してもらいます。
(収穫かご。学生実習のときなどに大活躍します。「大正時代の写真を見ても同じような籠(かご)が使われているので、100年近い歴史をもつ籠かもしれません」と高橋さん)
一方、研究のほうでは、近年は、園芸学よりも農業機械学の分野で利用されています。樹になっているリンゴを画像で判断し、マジックアームを伸ばして収穫する機械や、果樹が枝をはっている下を、トラクターなどの機械が樹や枝にぶつからないよう移動していく仕組み、などの研究です。樹や葉や果実というよりも、「樹が生えている環境」を利用した研究が行なわれているのです。
まもなく、冬ですね
ブドウは、冬至を過ぎて日が長くなってくると、雪の下でも樹液を吸い始めます。ですから、葉っぱが落ちたあと、11月、12月のうちに枝を切ってやります。
(収穫が終わり、紅葉したブドウの樹)
2月になって雪が落ち着いてきたら、リンゴなどの枝の剪定をします。春夏秋に伸びた枝を切りそろえ、いい枝を残して健康な形にしてやります。春になって芽を吹き始めてからハサミを入れると、傷がダメージになってしまうので、休眠している間に切りそろえるのです。
その間の真冬は、樹や建物がつぶれてしまわないよう、ひたすら除雪です。
(昭和37年頃に建てられた収穫庫。石造りの建物の外を土で囲い、内部の温度が夏でも10度以上にならず、冬は外が氷点下でも5度ほどに保たれるようになっています。「ネズミが穴を掘って中に入り込んでいるので、いまは使っていません」と高橋さん)