道東にある「北方生物圏フィールド科学センター 厚岸臨海実験所」。実験所は「本館」と「実習・宿泊棟」に分かれています。本館は、いまから約80年前の1930年頃に建てられ、補修を繰り返しながら大切に使われてきました。2005年には、近代建築の記録と保存を目的として選定される日本におけるDOCOMOMO(ドコモモ)150選に登録されました。建築を学ぶ学生が見学に来ることもあるという、歴史ある建物について伺いました。
建物を案内してくださったのは、所長の仲岡雅裕さん。2年前に建物の外装・内装の補修が行われたこともあり、中は新しく綺麗です。まず、本館で最初に案内されたのが、水槽がずらりと並んだ大きな円形の部屋でした。
「ここは、もともと水族館として作られた部屋です。」16年前に水族館としての役割を終え、今は実験室として使われています。もとは展示用だった大きな水槽も、実験に使っています。
展示用だった水槽の裏側にも小さな水槽がたくさん並び、実験を行っています。壁際には、潜って調査するためのスーツもたくさん置いてありました。「調査フィールドが近いのも、臨海実験所の魅力。調査には、中に水が入らないドライスーツを使います。冬は水温が-1.5度まで下がるので、ウェットスーツでは耐えられないんです。」
他にも、大きさの違う3隻の実習船を持っています。「年間で平均したら、週3回程度の利用でしょうか。稼働率は高いほうだと思います。冬は厚岸湾全体が氷に覆われて船を出せないこともありますので、春から秋の利用が多いですね。」多くの研究者や学生が活発に活動している実験所の様子がうかがえます。
壁にはたくさんの蛇口がついていました。水道水だけでなく、海水が出るものもあります。「蛇口をひねるだけで新鮮な海水がたくさん使えます。海水がふんだんに使えるのは、臨海実験所の魅力の一つですね」。この部屋だけでなく、実験をする部屋全てに海水用の蛇口が付いています。
実習・宿泊棟では実習に来た学生などが40名程度宿泊出来ます。実習だけでなく、海外から研究者が長期滞在して研究することもあります。実習期間中は、宿泊棟のスタッフが食事を作って提供します。「地元の食材にこだわって作っているんですよ」。
学生の宿泊部屋は2段ベット。海水が自由に使える大実習室や、講義などを受ける小実習室があり、学生の学びをサポートしています。ただ、教員にとっては「やはり、札幌キャンパスは遠いですね。授業や会議のために行くことが多いのですが、大変だな、と感じる時もあります。」ここの実験所に常駐して研究している学生のためには、遠隔で授業を受けられる「ポリコム」というテレビ電話システムが設置されています。
少し離れた愛冠(あいかっぷ)岬には、「愛冠自然史博物館」があります。
こちらも実験所のもので、愛冠岬の近くでみられる生き物や岩石を中心に展示しています。入口右側にある大きなウミガメの剥製はインパクト抜群!「この実験所は昭和初期に、厚岸の人たちの要望で作られたそうです。」当時、近隣の森林伐採が続いたのと時期を同じくして、魚が取れなくなっていました。その原因を究明してほしいという住民の要望にこたえて実験所が設立され、森と海の繋がりが研究されはじめました。「北大の実験所として道東で唯一です。この特性も活かし、生き物の生態にかかわる理学的な研究や、初期の要望に繋がる応用的な研究を行っていこうと思います。」