今年の受験も後期日程を残すのみとなり、春から北大には新入生がやってきます。その中にはきれいなキャンパスに魅了された、いわゆる北大病にかかって、やって来る学生もいるとか、いないとか。きれいな自然=人の手が加わってないありのままの自然、というイメージがあるかもしれませんが、札幌キャンパスの“きれい”は、自然の中の植物を人が管理することが鍵のようです。造園学の専門家として北大の“きれい”を支える近藤哲也さん(農学研究院 教授)に、“きれい”をつくる管理とその思いについてお話を伺いました。
【大谷祐紀・CoSTEP本科生/獣医学院1年】
札幌キャンパスを彩る植物
札幌キャンパスは札幌駅から徒歩6分の立地にありながら、たくさんの自然があり、学生・教職員はもちろん、地元住民や観光客にも人気の癒しスポットです。正門を入ると見えるきれいな芝生とシダレヤナギ、そこを流れるサクシュコトニ川。真っすぐのびるメインストリートの脇にはハルニレが並び、各建物の周囲に植えられたシラカバやポプラ、イチョウなどが特有の空間をつくり出します。
生活の中の造園学
キャンパス内の植物の役割は癒しだけではありません。歩道脇の木々は日差しや雨風を和らげ、温度を下げる効果や雨水の貯留、防火や防風など、環境維持の役割も果たします。私たちの生活はたくさんの植物に囲まれ、その恩恵を受けています。
そんな植物の恩恵を公園や庭づくりを通して、生活の中に活かしているのが造園学です。近藤さんは「造園学は、緑や自然の効果を理解し、人の生活との関係をバランスよく調整するための分野」と話します。そのために、花や樹木の知識だけでなく、人の考え方や感じ方など社会学的な知識も必要とし、いうなれば人と自然の仲人。私たちの生活の中の緑は、造園学に支えられています。
人の“思い入れ”が価値になる学問
2017年には中央ローン、農学部前緑地、エルムの森がその“きれいさ”と歴史的な価値、緑地としての働きを評価され、日本造園学会によって「北の造園遺産」として認定されました。この取り組みは北海道の特に優れた景観を広く周知し、後世に残す目的で始まり、現在は30か所が登録されています。
評価基準の中に、“思い入れ価値”という項目があります。造園は、人が厳しい自然から身を守ると同時に、穏やかで美しい自然を身近に感じたいというところから始まりました。そのときに、その土地の文化、宗教観、気候、価値観などが反映された人の手が加えられるのです。手を加えることは、作る人や見る人の愛着を生み、それが“思い入れ価値”となるのです。そして、その“思い入れ”が、ありのままの自然にはない、“きれい”をつくり出します。
造園遺産の選定にも選ぶ人の“思い入れ”があるようです。近藤さんは「選ぶのも人ということ。人によって価値観はそれぞれなので、意見が分かれることもあり方針が変わることもある。けれども、複数の専門家で検討し、いい場所ですね、残した方がいいですね、と言うことで、見る人もいい所なんだな、大事にしなきゃな、と思ってくれれば」と、その思いを話してくれました。
多様な立場の“思い入れ”
緑地に対するそれぞれの”思い入れ”は、ぶつかりあうこともあります。農学部前緑地とエルムの森は、2013年までレクリエーションエリアとして設定され、北大名物のジンパ(ジンギスカンパーティー)が活発に行われていました。しかし、過剰な利用によって芝生は剥げ、土は固くなり、一部の不適切な利用も問題となり、大学はそこでのジンパを禁止としました。
しかし、長い冬を耐え忍ぶ北大生にとって、緑地でのジンパは思い入れ深い存在でもあります。学生の熱心な働きかけもあり、大学側は検討を重ね、現在では別の区域にレクリエーションエリアが設けられ、事前申請等のルールを守れば、構内でのジンパができるようになりました。ジンパ禁止論争は、北大の緑地への、管理者や利用者の“思い入れ”が垣間見えた出来事でした。
この問題の背景の一つに植物の特性があります。キャンパス内には、本州の日本芝よりも踏圧に弱い西洋芝が植えられています。また、樹木の存在により芝生に十分な日光が届きません。土壌の水はけの悪さも重なり、特に傷みやすく回復に時間が掛かります。
「人と他種との共生」と聞くと、ヒグマなどの動物が思い浮かぶことが多いですが、植物は人との共生を考えなければいけない最も身近な生き物なのかもしれません。後編では、札幌キャンパスの”きれい”を支えている外来植物たちについてお伝えします。