北海道大学の研究者を紹介する「クローズアップ」。今回は2017年12月に『法・情報・公共空間:近代日本における法情報の構築と変容』(日本評論社)を上梓した郭薇さん(法学研究科 講師)に、お話をうかがいました。
(著書を手にする郭薇さん)
ーーなぜ日本で法学を学ぼうと思ったのですか?
私は中国の南京大学で法学を学び、当時から法と社会の関係に興味がありました。研究者を志して、2008年に北海道大学に研究生として入学しました。
日本で学ぶことを決めた大きな理由のひとつに、学生時代に川島武宜先生の『日本人の法意識』を読んで影響を受けたことがあります。法意識とは、人びとが持っている法のイメージのことだと考えてみてください。法のイメージが、文化や社会によって変わるというのが川島先生の主張です。また、裁判官や弁護士など法の専門家と、一般の人びとの間でも法についての捉え方が違います。法意識の違いは、法の運用やどのような法律を作るのかにも影響を与えます。川島先生の研究は世界的にも高く評価されており、法意識の研究をするならば、日本で学ぼうと考え、恩師の勧めもあり北海道大学に進学しました。
ーー新刊の『法・情報・公共空間:近代日本における法情報の構築と変容』の内容について教えてください
この本は私の博士論文が元になっています。構成には大きく二つの軸があります。一つは、法律ができる過程、すなわち「立法過程」において、人びとの世論がどのような影響を与えたかを捉えることです。私は「世論」を法制度に対する人々の考えを反映するものと考えています。例えば新聞や雑誌といったメディアで伝えられる情報がその典型です。世論は、メディアを通じて法律家に伝えられることで、立法にも影響を与えています。また、法律の内容がメディアで報道されることで、人びとの法意識を形成していきます。ここでは世論とメディアと立法の動的な関係に注目しています。
もう一つは、法の専門家である法律家が、メディアを通じて、どのようにして自身の法についての考えを伝えてきたかを捉えることです。この問いについては、専門雑誌『法律時報』と一般紙『朝日新聞』の立法報道を元にして、その内容の歴史的な変遷を実証的に分析しました。前者が横軸とすれば、時間的な変化に注目する縦軸にあたります。
また、博士論文から改編した論文「法と情報空間:近代日本における法情報の構築と変容(1)〜(5)(『北大法学論集』66巻2号〜5号、67巻1号掲載)は、2016年度の法社会学会 学会奨励賞を受賞しました。
ーーこれからどのような研究をしていきたいですか?
考えていることの一つは、「ビジュアルと法」です。法学というと六法全書のように文字に書かれた法律を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、例えば多くのドラマや演劇に法廷の場面が取り上げられるように、裁判では、元々弁論やその振る舞いなど、当事者の主張を訴えるためのパフォーマンスも非常に大きな役割を担っている面があります。つまり、法の営みにおいては、文字に書かれた法だけではなく、視覚から入ってくるビジュアルな情報も重要なのです。実際、現代の日本でも取り調べの可視化や、裁判員裁判におけるビデオの利用など、現場において、映像情報の利用が始まりつつあります。この分野はまだあまり研究が進んでいないので、やりがいがあると考えています。
ーー最後に、学生のみなさんに一言お願いします
法学と聞くと、訴訟や法の解釈が中心だと思われるかもしれません。しかし、物と人の交流が世界規模で行われるようになり、社会のあり方が変わる現代社会では、新しいルールが求められるようになります。法学を学ぶ学生には、新しい問題を発見する力、そしてその問題を解決するためのルールを作り出す勇気と、それを適切に運用する能力が求められるのではないでしょうか。