北海道大学札幌キャンパスには、きれいな自然を求めてたくさんの人が訪れます。人が自然の中で暮らし、それを楽しむためには、植物を適切に管理する必要があります。ふだん何気なく見ている札幌キャンパスの風景の中にも、人による管理とそれぞれの“思い入れ”が隠れていました。前編ではジンパ問題を中心にお伝えしました。後編では外来種をめぐる管理と”思い入れ”を紹介します。
【大谷祐紀・CoSTEP本科生/獣医学院1年】
管理が支える北海道の植物たち
札幌キャンパスの大きな魅力は豊かな自然です。実際にキャンパス内では、これまで214種の樹木と474種の花が確認されています。この数字は、キャンパスの管理を担う施設部が、キャンパス内の動植物を調査し、示したものです。そして、生息場所とともにリスト化されたデータに基づき、施設を建てる際の環境への影響やその対策が考えられています。
きれいな花が咲く裏にも管理があります。キバナノアマナは、雪解けとともに黄色い花を咲かせる北海道特有の野草です。種を落とす4月下旬以降に草刈りを行うようにすることで、エルムの森の群生を維持し広げる努力をしています。このように、私たちが緑地の中で快適に生活できるのは、地道な調査と日々の手入れがあってこそなのです。
外来種とのお付き合い
北大のシンボルとして有名なポプラですが、実は外来種の樹木です。外来種とは、本来そこにいなかった生物です。主に人間の活動によって他の地域から、もともといなかった地域に入り込み、生息・生育することで生態系に影響を与え、問題となることがあります。
中央ローンできれいな景観をつくっているシダレヤナギも、奈良時代に中国から日本に持ち込まれたと言われている外来種です。
このように、実は多くの外来植物が札幌キャンパスの“きれい”な景観をつくっています。北海道全体でみても、北海道の生態系に影響を与える可能性がある外来生物のリスト、北海道ブルーリスト2010に選定されている860種の生物のうち、植物は639種、約74%を占めるように、私たちの周りには多くの外来植物が存在します。
その中には、成長が旺盛すぎたり、繁殖力が強すぎて地域の自然環境に大きな影響を与える可能性のある種もいます。オオハンゴンソウ、ニセアカシア、シンジュ、ネグンドカエデなどは、北大の緑地を計画・管理する全学的な委員会で検討し、施設部主導で駆除が進められています。
しかし、外来種すべてを排除しようというわけではありません。例えば、ライラックは外来種ですが、オオハンゴンソウやニセアカシアのように生態系に大きな影響を与えることはありません。また、咲かせるきれいな花は、私たちの生活に潤いと安らぎを与えてくれるため、積極的に育成されています。外来種の植物も、造園学によって私たちの暮らしとのバランスを考えて管理されています。
完全に駆除をしない理由を近藤さんに尋ねたところ「だって花きれいやん!」と思わぬ言葉が返ってきました。もちろん人によっては、外来種はすべて駆除すべきという意見もあるそうです。ここにもそれぞれが抱える、外来植物への“思い入れ”がありました。
人々の思いがキャンパスをつくりだす
今回、近藤さんにお話を伺い、専門家としての知識や経験があるからこそ、“きれい”や“花が好き”というシンプルな思いを大事にできるのだと感じました。関西出身の近藤さんは、札幌に住んで20年近くなった今でも、関西弁でお話しすることが多いそうです。「この北大のみどりやって人間が作ったり管理してるんやわ、手つかずとちゃうねん」と、関西弁で語ってくれた近藤さん。やはり関西弁で話すことで自分の気持ちが入るんだそうです。
筆者である私も、キャンパスの魅力に取りつかれる北大病にかかって北大にやってきたひとりです。きれいなキャンパスの中には、造園学に裏打ちされた管理と、さまざまな人の“思い”があることを知り、キャンパスの風景がこれまでとは少し違って見えるような気がしました。北海道の冬はもう少し続きますが、次の春が楽しみです。