太平洋に面する、新ひだか町の静内まで、札幌から車で2時間半ほど。桜並木で有名な二十軒通を終わりまで行き、さらに砂利道を5分ほど走ると牧場に到着します。
終戦から5年後の1950年に、農学部日高実験牧場として発足。今は、北方生物圏フィールド科学センターの一組織となっています。草地が1.3平方キロ、森林が3.3平方キロ、あわせて4.7平方キロメートルの土地に、牛を150頭ほど、馬を100頭ほど飼っています。
起伏があり、あちこちに木立があるなど、普通の牧場のイメージと違いますね
ふつう、牧草地を作るときは、森にある木を切り、ブルドーザーででこぼこを平らにして、牧草を植えます。でもここでは、森の木をある程度は切るけれども、日陰になるところを一部残しておきました。また、起伏があって機械を入れることもできないので、木を切っただけで牛を入れ、雑草を食べさせました。
雑草が牛に食べられて短くなったところで、牧草の種をまきます。雑草と牧草では、一般には雑草のほうが強くて、放っておくと雑草ばかりになるんだけども、成長の初期段階では、牧草のほうが強い。成長が早いんです。そこに動物を入れると、ずっと初期成長の段階が保たれて、牧草にとって有利な状態が続きます。そのため、次第に牧草が優勢になって、牧草地に変わっていきます。
蹄耕法と呼ばれる方法で、時間はかかるけども、機械がないところ、機械が入れないところでもできる、とても賢いやり方です。もとの地形が残るので、見た目が柔らかい感じになるという特徴もありますね。
(左のような森が、40~50年かけ蹄耕法で右のような牧草地に変えられました。牧草の種をまいたのは、最初の1回だけだそうです。右のトラックはベンツ製。起伏ある牧場をパワフルに走り回ります。)
ここで授業もやっているのですか
ここは学生の教育の場でもあり、いまちょうど、農学部畜産学科の学生24名が「牧場実習」に取り組んでいます。半分近くが女性です。全学部の1年生を対象にした「フレッシュマンセミナー」も、夏と冬を交互に入れ替えて、毎年やっています。
牧場長の私は、ここの教員住宅に住んでいます。かみさんと犬は、札幌にいますけど。ほかに、技術職員が7人、うち1人は女性、それと事務職員が1人。これだけのスタッフで牧場を切り盛りしています。大雨が降って小さな橋が流されたときなど、復旧作業を実習の学生に手伝ってもらったこともあります。積極的に協力してくれましたね。
あと、私が指導する大学院の学生も、ここに住んでいます。いいところですよ、ここは。週に1回、授業があるので札幌キャンパスに行きますが、帰ってくると、ほっとします。
牧場といえば、サイロですが
この牧場にも、スチール製のサイロが3つあって、牧草ではなく、家畜用のトウモロコシを入れています。
飼料となる作物をサイロに入れるのは、発酵させて、いわば“漬けもの”にするため。高い塔に入れると、上からの重みで空気が押し出され、空気を嫌う発酵菌が活動しやすくなるのです。それに対し、飼料作物を刈り取ったあと、水分を除いて保存するのが乾草で、いわば“干物”。貯蔵法が違うだけで、中身は同じです。
発酵させた飼料を「サイレージ」といいます。発酵させることがポイントなので、実はサイロに入れる必要はないんです。この牧場では、牧草については、ロール状に巻いたあとビニールで覆ってその中で発酵させる「ラップサイロ」を採用しています。
塔型サイロを今も使っている人は、ほとんどいないでしょう。壊すのにもお金がかかるので、困っている人が多いと思います。
(サイロの中に入って、下から上を見上げたところ。手前に見える機械装置は、中の飼料を外に出すときに使います。)
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