北海道大学の静内研究牧場では、馬を使ってどんな研究をしているのでしょうか。牧場長の秦寛(はた ひろし)さんに話をうかがいます。
どんな馬を飼っているのですか
この牧場では、約100頭の北海道和種馬を飼っています。いわゆる「どさんこ」ですね。「どさんこ」というと、ばんえい競馬で活躍する馬を連想するかもしれませんが、あれはペルシュロンなど、フランスやベルギーが原産の馬です。それらに比べ北海道和種は、少し小ぶりの体です。でも、体格のわりに力があります。カラフルな毛色も、特徴ですね。
江戸時代の中頃に、松前藩の藩士たちが蝦夷地に赴任するときに連れてきた南部馬が、その後、原野で自然繁殖したものです。このあたりは、冬になると50~60センチほどの積雪がありますが、もともと冬でも外で暮らすのが普通の馬で、雪の下から笹を掘り出して食べます。
この辺り一帯、戦前は御料牧場、皇室のための牧場でした。ですから、馬の名前のつけ方は、御料牧場のやり方をそのまま踏襲しています。たとえば私が乗っている馬の名は、漢字二文字で、波樹(なみじゅ)。上の一文字は、生まれた年の歌会始のお題からもらいます。1994年のお題が「波」でした。下の字は、母牛からもらいます。自動的に名前が決まるし、面白いですよね。
(牧場内の移動には、4輪駆動のバギーなどを使います)
どんな研究をしているのですか
森林で馬を飼うことで、森林保全や林業と、馬の飼育とをともに発展させることができないか、研究しています。具体的には、馬を森林に放したら、馬はどんなものを食べ、植生はどのように変わるか、馬はどんな樹をかじるか、などを調べています。
牧草地を作るとき、一般には、森林の木を切ってそこに馬や牛を放牧し、下草を徐々に牧草地に変えていきます。でも、森林の木を切ることもしないで、いきなり放牧するという方法もあります。「林間放牧」という方法です。動物が笹を食べるので、下草に笹でないものが次第に増えてきます。シドケという山菜として有名なモミジガサも出てきますし、花のきれいなカタクリなども出てきます。ここには、絶滅危惧種の植物もたくさん生えています。
(林間放牧をする森のなか)
樹も取れるし家畜も育てられるというので、60年ほど前に一時、流行ったことがある方法です。でも、家畜の成長は牧草地に比べて遅いし、樹もかじられて傷つくというので、うまくいきませんでした。それがいま、農業(agriculture)と林業(forestry)を総合した「アグロフォレストリー」という概念のもと、見直されているのです。
普通は牛でやるのですが、ここでは馬でやっています。どさんこに森林管理をしてもらえるとなれば、どさんこの「就職口」が増えます。ひいては、どさんこの保存にもつながるので好都合です。
馬は、かわいいですね
馬に触りたいと思ったら、ちょっと離れたところにじっと立って、無防備な背中を見せていると、馬のほうから近づいてきますよ。馬は好奇心が旺盛だから。ただ、今は、5月の連休から6月にかけて生まれた子馬がいるので、母馬はちょっと神経質になってますね。
ここにいるのは、全部メス。種馬は、いま別の所に一匹だけでいます。時期が来ると、この群れの中に入れて繁殖させます。
サラブレットと違って、どさんこは値段が安いんですよ。このまえ競りがあったのだけど、生後1年の子馬で10万円ほど。調教して乗れるようになった大人の馬でも、30万円くらいでしたね。
馬は体重の3パーセントほどの飼料を1日に食べます。体重を400キログラムとすれば、月に乾草のロール1本ぶん、金額で1万円ほどのえさ代がかかります。場所の問題を別にすれば、小学校でも馬を飼えるかも(笑)。
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