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#6 有機ホウ素化合物の、優れた合成法を開発

有機ホウ素化合物は、鈴木クロスカップリング反応に利用され、医薬品や液晶を製造するときの原料としても使われる、重要な化学物質です。

その有機ホウ素化合物を作るのに、これまでは触媒の力を借りて、ホウ素を含む化合物と有機化合物とを反応させていました。そのときの触媒は、パラジウムや白金など高価な金属でした。触媒を使わない方法も知られていましたが、 その場合はリチウムなど発火しやすい金属が必要でした。これまでの方法には、コストや安全性の面で難点があったのです。

それに対し伊藤さんたちは、ケイ素(英語名シリコン)とホウ素(英語名ボロン)とが結合した構造をもつ、「シリルボラン」と総称される化合物に注目しました。そしてシリルボランを、活性化剤(反応しやすさを高める物質)と組合わせて、有機化合物と反応させると、とても効率よく有機ホウ素化合物を合成できることを示したのです。

この方法の利点は、いくつもあります。危険な触媒を使う必要がありませんし、活性化剤は安価で、コストは従来の方法の20分の1ほどになります。また、特別の実験テクニックなしで、簡便に反応を進めることができます。こうした利点は、医薬品や液晶、有機EL材料などの大幅なコストダウンにもつながると期待できます。また、触媒を使う従来の方法よりも多くの種類の有機ホウ素化合物を合成できます。

サイエンスとしての意義

「シリルボランで有機ホウ素化合物が合成できたという点もさることながら」と伊藤さん、「この分野の専門家は、いくぶん違った面で「すごい、すごい」と関心を示してくれています。これまでの化学の常識からするとホウ素が反応するはずがない条件下で、ホウ素が反応しているのです」伊藤さんたちは、その反応がどういう機構で起きているのかも解明を進めており、まもなく論文で詳しく報告するそうです。

「今回は、シリルボランという化合物の、新しい性質を見つけたことになります。この性質を使うことで、これまでにない新しい反応を開発していくこともできます。有機電子材料や有機半導体、有機EL材料などをズバリ合成する、そんな反応も夢ではありません」

チームワークが実る

今回の研究がスタートしたのは、今年の春先のことでした。大学院修士課程2年生の堀田優子さんが、別の目的でやっていた実験で、これまでの常識からすると生成されるはずのない物質ができていることに気づいたのです。「そんなはずがない、と最初思いました。でも調べてみると彼女のほうが正しかったのです」と伊藤さん。「彼女は、愚直に、細かいところまで気を配って実験してくれました。体力もあった」

3月に堀田さんが卒業すると、博士研究員の山本英治さんと、卒業研究のため伊藤研究室にやってきた学部4年生の泉清孝さんが実験を引き継ぎました。「山本君は、引き継いですぐに、重要な発見に導いてくれました。理論的な面をよく理解していたし、分析のテクニックも発揮して、非常に短い時間で多くの実験をこなしてくれました。彼がいたからこそ論文にできたと思います」と伊藤さん。

山本さんたちは、1日12時間、土曜日はもちろん、ときには日曜日も実験を続けたといいます。そして半年ほどで、今回の論文まで漕ぎ着けました。「その間、ビクビクでした」と山本さん。「材料はどこでも手に入るものなので、他の研究チームも同じデータを出すのでは、と思いました」

(山本英治さん)

伊藤さんも言います。「外国は資金力もありますから、ポスドクなどを集めて、一挙に成果を上げることがあります」「そこで、特許を取る手間を節約し、早く論文にまとめることに力を注ぎました。いい反応なら、特許を取らないほうが使ってもらえる、ということもありますし」

夢を膨らませる、山本さんと泉さん

大学院修士課程を終えたあと企業に就職し、その後ふたたび大学院に戻って博士の学位を取ったという山本さん。「今回の発見は、専門家の間でも興味深い反応だと注目されているので、この研究室の一つの柱となる研究テーマに育てていければと思っています」

(泉 清孝さん)

一方、高校時代から化学の実験が好きで、工学部の化学系に進学したという泉さん。卒業研究でいきなり大手柄をあげました。指導教員の伊藤さんから、「彼のためには、半年ほど苦労してからいい結果が出ればよかったのだけど」と言われながらも、力強く抱負を語ってくれました。「自分で実際に実験してみつけた反応なので、大学院に進学したあとも、他のグループに負けないように頑張っていきたいです。」

  • 有機元素化学研究室/伊藤肇
  • フロンティア化学教育研究センター

 

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2012.12.12

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