北海道大学鯨類研究会は、津軽海峡フェリー株式会社が2021年2月に発足させた「イルカチーム」の一員です。チーム発足を記念し5月に函館のフェリーターミナルで資料の展示会を行いました。鯨類の魅力について、研究会の3人の学生さんにお話を聞きました。
北海道大学鯨類研究会は、クジラやイルカが好きな有志が集まり、1999年9月に発足した北海道大学の水産学部公認団体です。研究会の本拠地は水産学部を擁する函館キャンパスに置かれています。2012年には、札幌キャンパスの学生による札幌支部の活動が始まりました。
水産学部の学生は3年生の4月に札幌キャンパスから函館キャンパスに移行するので、1・2年生の間は札幌支部で活動します。札幌支部では各人がクジラやイルカに関する本や論文を読んで発表する勉強会や、道東の羅臼に赴きホエールウォッチングを実施しています。
函館キャンパスで行われる鯨類研究会の活動の一つに、津軽海峡フェリーの協力で、2003年から定期的に実施している鯨類目視調査があります。函館キャンパスから程近い函館フェリーターミナルから、朝7時台に出発する青森行きのフェリーに乗船し、3時間40分ほどの行程の間に津軽海峡のフェリー航路でいつ、どこでどのような種類のイルカ・クジラが見られるのかを観察します。青森について昼食をとり、函館に戻る復路の便の船上で再び調査を行います。青森から函館にもどると18時、そこから函館キャンパスに戻り、観察記録をつけると、終わる時は遅い時で19時ほどになるそうです。このような1日がかりの調査が行えるのは、津軽海峡というフィールドが目と鼻の先にある函館キャンパスの特長のように感じました。
子どもの頃から水族館が好きだった神奈川県出身の柴田夏実さん(水産学部海洋生物科学科3年生)は、中でも、社会性が高く、魚類とは違った表情を見せるイルカやシャチに興味を持ちました。そして鯨類についての勉強をするために、水産学部のある北海道大学に進学しました。今、柴田さんが関心をもっているのは、イルカの認知能力とそれがどのように進化してきたかについてです。イルカの持つ明るさや物の形状を捉える力がわかれば、この世界がイルカにとってどのように見えているかがわかるかもしれません。
今年の4月に函館に来た柴田さんは、目視調査で観察した、野生のカマイルカの大群に心を奪われました。鯨類研究会に入ってよかったことは北海道の広大なフィールドで実際に観察ができる点だそうです。
広島出身の名倉のどかさん(水産学部海洋生物科学科3年生)の推しのクジラはザトウクジラ。日本の近海でも良く観察される13メートルほどになる大きなクジラです。求婚のために「歌をうたう」クジラの中でも、ザトウクジラには流行歌があったり、個体ごとに歌のアレンジの違いがあったりと多様性があるとのこと。また尾びれの模様がそれぞれ異なり、個体の識別に用いられる一方で、そのバリエーションが生じるメカニズムはまだよくわかっていません。名倉さんは、ザトウクジラの尾びれの模様の謎に迫る、クジラの皮膚を含めた解剖分野の研究に携わることを目指しています。
鯨類研究会には、クジラやイルカの形態や生態についての様々な興味関心を持っている人が集まっています。勉強会を通じて、各人の鯨類に対する「愛」を知ることができる点が研究会の魅力です。
会長の弓削龍之介さん(水産学部海洋生物科学科4年)は、会の代表として新型コロナウイルス感染症が流行している状況での研究会の活動についてお話ししてもらいました。これまで対面で気軽に行えていた例会も、現在はリモートで行っています。例会後の食事中の雑談から生まれる研究の話ができなくなってきているそうです。そのため、これまで先輩から後輩へと継承してきたノウハウが途絶えてしまうことを心配していました。弓削さんによれば、クジラは哺乳類なのに海にいる、大変興味深い動物です。一回陸に上がった哺乳類が海に戻ることで、骨の形状が変わりヒレができたり、聴覚をより発達させたりと、陸上の哺乳類とは異なるユニークな生態や形態をもつ動物へと進化していきました。そんなクジラの面白さをたくさんの人に知ってもらいたいと語ってくれました。
サークル活動の制限が続く中、同じ興味関心を持つ仲間が集まり一緒に活動することを絶やさず、続けていくこと。そんな気持ちが伝わってきました。新型コロナウイルス感染症が早く収束して学生らがもっと伸びやかに活動できる日を願っています。