現在、札幌の芸術の森美術館で開催されている「札幌美術展 昨日の名残 明日の気配」では、北大で滞在制作をしたアーティスト、上村洋一さんの作品も展示されています。北大の研究林をフィールドに、どのような作品が制作されたか、その作品から感じられるメッセージはどんなもののものか、紹介します。
氷や雪に関するリサーチをもとに作品を制作している上村さんは、北海道の知床をはじめ、フィンランドやアイスランドなどの地球上の風景を、音を録音する「フィールドレコーディング」の手法で集めてきています。
北大天塩研究林でご協力いただき、2019年3月に撮影して制作した作品《Scratch The Snow Field》は、3つのモニターを使った映像インスタレーションです。雪深い冬のフィールドに欠かせないスノーモービルに、GoProカメラを吊るして雪原を走り回る様子を、GoProカメラやドローン、人間の視点で捉えて構成した作品です。淡々と走り回るスノーモービルが走る雪原には、偶然なる模様ができます。また、GoProが見る世界は、踊ってるようにも、引きずられているようにも見え、人間の視点とは異なる風景が現れます。
《Scratch The Snow Field》の前に展示されている作品《no human, no nature》は、流氷に関するリサーチで制作された作品です。流氷の量が多かった昔、流氷の上に乗って遊んでいた様子が写真で残っている古いハガキを、流氷の水で溶かした絵葉書で構成しました。古くからの流氷の記憶に、今の流氷の水を用いてもう一つの記憶を重ねた作品から、変化していく自然に対する眼差しを感じられます。
「パンデミック以降、私たちは新たな「日常」を取り入れてはいくつかを元に戻しながら、日々歩んできました。変化のただなかで私たちは今どこにいて、どこへ向かおうとしているのか」と、展示概要の冒頭に問いかける企画展、「札幌美術展 昨日の名残 明日の気配」。変化しつつある自然に対する人間の営みについて考えさせられる、北海道ならではの表現が並びます。ぜひ、雪深い今の時期に、お楽しみください。