緑旺寮の外壁のツタは鮮やかな緑となり、勢いよく成長している。葉はライオンのたてがみのようにわさわさと生い繁り、緑旺寮はまるで、異世界から運び込まれた秘密基地のような様相を呈している。
椰月美智子『緑のなかで』初出2017-2018(光文社2018, p100)
「物語の中の北大」第4回は北の大地のH大の寮、緑旺寮を舞台にした青春小説『緑のなかで』です。もちろんH大は北大、緑旺寮は恵迪寮のこと。作者の椰月さんは実際に寮で取材もしたそうです。
寮の名前にもなっている旺盛な緑、外壁のツタは季節の変化を表すものとして、章の冒頭で度々描写されています。その他に寮内の様子や、寮に向かう原生林の描写も出てきます。
ちなみに主人公である青木啓太の所属は「工学部環境社会工学科国土環境施設学コース」の3年。彼は橋梁建設に関心があり、将来は関わりたいと考えています。この設定は、北大が登場する小説のなかでもなかなか細かいもので、実際に北大には「工学部環境社会工学科国土政策学コース」があり、橋の研究をしている研究者がいます。
啓太がなぜ橋に興味を持つようになったのか。それは巻末に収録されている、高校生の啓太が登場する短編「おれたちの架け橋」で明らかになります。収録順に「緑のなかで」を読んでから「おれたちの架け橋」を読むか、それとも先に「おれたちの架け橋」を読むか。どちらからでもそれぞれの感慨が読後に訪れることでしょう。