【スキアーヴォ・医学事務部会計課 / 阿部・高等教育推進機構 全学教育部 自然科学実験支援室 / 白岡・社会連携課 /
本田・工学研究院工学系技術センター 技術部 高額研究支援班 / 廣瀬・病院事務部総務課】
札幌から列車で約4時間、函館へ―─
2025年9月2日、港町・函館の西端にあるふ頭に、私たち大学職員5人は降り立ちました。
そこで私たちを迎えたのは、堂々たる白い船体!北海道大学水産学部の附属練習船「おしょろ丸」です。
今回、北大職員として、練習船「おしょろ丸」で実施される学生向け乗船実習 一般教育演習「海のフィールドで試す」に、研修として学生とともに参加する機会を得ました。「おしょろ丸」での実習や函館キャンパスの視察を通じて、大学の教育・研究の取り組みを学び、北大の魅力を再発見することが、この研修の目的でした。
おしょろ丸は、北海道大学水産学部が運用する練習船で、学生たちはこの船に乗り込み、海洋観測や生物調査などを通じて、実践的な学びを深めています。全長約80メートル、様々な漁業用・観測用機器を搭載し、乗員と学生合わせて100名近くが乗船可能なこの船は、まさに「洋上のキャンパス」と呼ぶにふさわしい教育の場です!
普段は札幌キャンパスで大学運営に携わる私たち職員が、学生と同じ船に乗り、同じ体験を共有することで、北大の教育現場や練習船という貴重な教育資源の実際を、肌で感じることができました。この記事では、そんな乗船実習の様子を、職員の視点からご紹介します。

イカを釣り、イカに学ぶ
函館市と言えば、イカを連想する方も多いと思います。イカは函館市の「市の魚」、函館市にとって繋がりの深い存在です。3泊4日の乗船実習初日の夜、私たちは津軽海峡でのイカとサバ釣りに挑みました。水温や資源変動の影響で不漁といわれる昨今ですが、果たして釣れたのでしょうか…?

結果は、先生方のご指導、支援のおかげで大漁でした。
そして自身で釣ったイカの体長や重量をその場で測定できることもこの実習ならではです。地上とは異なり揺れる船上では電子天びんが使えないため、物差しや手持ちの棒ばかりを駆使して測定を行いました。

続いては先生の説明を受けながらサバの解剖へ。心臓が三角のような形状であること、肝臓の色に個体差があること、特徴的な形状の腸管をもっていること等、座学ではイメージしにくい発見が多々ありました。
釣って、触れて、観察して、解剖して、学ぶ──実際に体験することの重要さと面白さを、おしょろ丸とイカは教えてくれました。イカはこのあと学生と一緒に美味しくいただきました。
たった1つの工夫で、学びはゲームになる!
この実習は、楽しく学べる工夫が随所に散りばめられています。 海水から採取した小さな生命「プランクトン」の観察は、静かに顕微鏡をのぞく地味な実習かと思いきや――その場は、熱気にあふれていました!
その秘密は、TA(ティーチング・アシスタント/授業補助)の先輩学生の皆さんが考案した「プランクトン・ビンゴゲーム」です。指定されたプランクトンを顕微鏡で見つけたら、ビンゴシートのマスに印をつけていきます。

* 松山 幸彦ら『日本の海産プランクトン図鑑』 第2版, 2013年, 共立出版.
見事ビンゴを達成した人には豪華賞品が!受講生全員が夢中になって、目的のプランクトンを探します。ちなみに、私は惜しくもリーチのままタイムアップ……。悔しい!

ふと気づくと、プランクトンの形や名前が自然と記憶に残っており、自分でも驚きます。「少しの工夫で、学びってこんなに面白くなるんだ!」そんな感動を覚えました。
「楽しく学んでほしい」という願いから生まれたTAの皆さんの最高のアイデアです。先輩がワクワクをデザインし、後輩学生は夢中で知識を探求する――学びの楽しさが次世代へと受け継がれていく「学びのサイクル」が、そこにはありました。
環境汚染の深刻さを目の当たりに
続いてご紹介する実習は、マイクロプラスチック観察です。環境問題として最近よく耳にする「マイクロプラスチック」。
おしょろ丸での実習では、専用のネットで海面付近に漂っているマイクロプラスチックを回収し、顕微鏡で観察ができます。シャーレにスポイトで数滴の海水を落とすと、多数の針状のマイクロプラスチックを観察できました。
肉眼での確認が難しいほど小さいこのマイクロプラスチックが、海の中に無数に漂っており、それをプランクトンが食べ、そのプランクトンを魚が食べ、その魚をより大きな魚が食べ、最後はその魚を私たちが食べる。観察前に講義で学んだマイクロプラスチックによる海洋汚染問題の影響が、自分の目で観察したことで、身近なものに感じ、その深刻さをより一層痛感しました。
上陸後に、学生と港周辺のゴミ拾いをしましたが、そこにも大量のゴミが。

まずは自分たちにできることから。学生と一緒に港周辺をキレイにしました。
北海道大学の函館キャンパスを知る
おしょろ丸の乗船実習が終わり、下船した後は、函館キャンパスの視察を行いました。
北大の函館キャンパスでは水産学部の3年生以上の学生や大学院生770名ほどが在籍し、講義と研究を行っており、特におしょろ丸など練習船を用いた「経験を通した実践的な実習」を行えることが、特徴の一つとなります。
おしょろ丸は一般の方が利用する機会はないかもしれませんが、水産学部のキャンパスにはだれでも練習船のことや水産学部の研究を知っていただける場所があります。水産科学未来人材育成館は、一般公開されていて、館内の水産科学館 では、歴代の練習船の模型、海の生物の剥製や学科ごとの研究内容を展示しています。また、野外の展示スペースでは、クジラの骨格標本も見ることができます。
特に水産科学館 の研究内容の展示では、実際に使っている研究道具や実物に触れられるような工夫が盛り込まれているので、はじめてくる方でも、北大水産学部ってこんなところなんだ!と知ることができます。

この記事を読んで、おしょろ丸や水産学部に興味を持った方は、ぜひ水産科学未来人材育成館に足を運んでみてはいかがでしょうか。
「洋上のキャンパス」で見つけた北大の学びの魅力
今回の乗船実習では、普段の業務ではなかなか触れることのない、函館キャンパスならではの学びの現場に立ち会うことができました。釣りや解剖、顕微鏡観察──どの体験も、五感を通して学ぶことの面白さと奥深さを教えてくれました。
私たち職員も、実習の時間は久々に“学び”に向き合うひとときとなりました。その最中、周囲に目を向けると、学生たちが真剣に、そして楽しみながら学びに向き合っている様子がありました。その姿が、この時間をより豊かなものにしてくれたように感じます。
こうした学びの場を支えていたのは、学生の学びをより楽しく、より深めようとする、TAや教員の工夫の数々でした。北大の学びの風景は、船の上にも──いや、船の上だからこそ、より鮮やかに広がっていたのです。
北海道大学は、広大なキャンパスと多様なフィールドを活かし、実践的かつ創造的な学びの場を提供しています。そして、今回の研修で体験したおしょろ丸や函館キャンパスは、まさにその象徴とも言えるものでした。本記事を通じて、北大が持つ多様な学びの場と、その魅力の一端を感じていただけたなら幸いです。

本記事は、北海道⼤学職員研修「『北⼤キャンパス』を知る(おしょろ丸・函館キャンパス編)」の実施報告のひとつとして執筆されたものです。