自然環境をどのように守るのか。この課題に、社会学的な側面からアプローチするのは、宮内泰介さん(文学研究科 教授)です。実際に現場に足を運び、地域の人々と関わりながら調査する研究について、お話をうかがいました。
社会学者の役割
ある地域の自然環境を守ろうとすると、その土地の気象や生態系を調査する研究が中心になりがちです。環境社会学では、こういった自然科学的なアプローチに留まらず、そこに暮らす人の視点に立って自然環境と地域社会がどのようにすればいい関係を築けるのかを考えます。
どのように暮らしていくのかを決めるのは、地域の人々だと考えています。そこで、フィールドワーク(現地調査)を通して自然環境だけではなく、文化的なものを含めて社会の仕組みから環境のあり方を考えていきます。地域社会では、自然環境に対して「メディアや世間から見た姿」と、「地域の人々から見た姿」で認識のずれが起こることがあります。現地を知ることでメディアや世間から見た大きな枠組みとは異なる「小さな社会」で起きている事柄や課題を提示するのが、私たち社会学者の役割です。
人の「価値観」や「思い」に着目する
地域の人々といっても、みんな一様ではありません。鳥が大好きな人もいれば、自然に無関心な人もいます。一人ひとり異なる価値観があり、それぞれの思いを持ちながら生活しています。地域に暮らす生活者の視点をもって、どうすれば自然環境と地域社会がいい関係を築けるのか、どういったやり方がよいのかを、フィールドワークで解き明かします。
(集落にて、ソテツ食についての聞き取りの様子(奄美))
フィールドワークでは何をするのですか
分野によってさまざまですが、地域に入ってとにかく話を聞くことを中心にフィールドワークを行います。例えば、何日間も滞在して、1日数名ずつじっくり話を聞きます。地域によって聞く人数は変わってきますが、例えば、20年前から行っている南太平洋ソロモン諸島の研究では、100人近く聞き取りをしていると思います。このように多いときで延べ100人、同じ人に対して2、3回聞くこともあります。他には、地域に関わる歴史的な資料を収集して、数字に現れない質的なデータを集めます。
基本的には、聞き取りの内容や、収集した資料は持ち帰って分析します。話を聞いているときにもわかることはたくさんありますが、分析することでさらに踏み込んだ結果を導きます。例えば、AさんとBさんの話をつなげると新しい事実が見えてきたり、他の地域で聞いた話と比較することで、1つの地域だけでは見えなかったことが見えてきます。すぐに「こうだ!」と決めつけるのではなく、いろんな人の話を聞いたり、他地域の事例を参考にしながら多方面から見ることが重要ですね。
(集落で地域の歴史と自然とについての聞き取りの様子(奄美))
研究の魅力を教えてください
地域の環境ガバナンス(環境を管理する能力や仕組み)について図式化して見ていたものが、調査することで崩れていくことがよくあります。それが、おもしろい。環境保全がうまくいっていると言われていても、実は、地域に入って話を聞いてみるとうまくいっていないことがわかったり、逆に、うまくいっていないと言われていても、部分的にはとてもおもしろい部分を持っていたりします。
フィールドワークを行うと、外部からの評価とは違う、地域社会の内側からの評価が見えてきます。「派閥がある」とメディアで言われていても、実際はそんなに仲が悪くなかったりすることもよくあります。このようにして、NPOや行政、専門家、地域住民などの、環境ガバナンスの図式化ができるようになるのです。
(アオサの養殖をしている方への聞き取りの様子(徳之島))
どのようなきっかけで現在の研究分野に進まれたのですか
学生の頃は、市民運動に関わっていました。放射廃棄物を太平洋に捨てようとする政策に反対したり、反原発運動に関わったりしていました。その当時、「環境社会学」という言葉はありませんでしたが、フィールドワークを通して研究すると、NPOの活動だけではわからなかったことが明らかになることにおもしろさを感じました。「社会学から見えてくることがある!」そう思いました。
当初は熱帯林の伐採に興味があり、現地の人は伐採についてどう思っているのかを知るためソロモン諸島に足を運びました。そこでは、伐採で地域の人が苦しんでいる事実がありました。しかし、それはあくまで一つの真実であって、その他にも社会の現状は複雑だということもわかりました。地域に住んでいる人々の視点で考えると、さらに考えないといけないことがたくさん出てきます。これが、20年以上前のことです。それからずっと、ソロモン諸島は調査フィールドの一つです。
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数えきれないほどフィールドワークを実施してきた宮内さん。フィールドは、ソロモン諸島、北海道、宮城、鹿児島、沖縄と多岐にわたります。今回、著書として出版もされている『かつお節と日本人』について、5月25日(日)開催サイエンス・カフェ札幌にてお話いただきます。日本の食に欠かせない「うまみのもと」であるかつお節は、いつから、どのように、どこで作られてきたのでしょうか。宮内さんと一緒に解き明かしましょう。
詳しくはこちら
「かつお節と日本人」〜かつお節がたどった、4,000キロの足あとを追う〜
日 時:5月25日(日)16:00〜17:30
場 所:紀伊國屋書店札幌本店1階 インナーガーデン
参加費:無料