現代日本は「コスパ」の時代。多くのものに「安い」「簡単」が求められがちです。それは学校で使われる教材についても例外ではありません。しかも、教材はさらに「楽しい」を加えた『三拍子教材』が求められます。この三拍子のニーズに応えるにはどうしたらよいのか、私の出した答えは「自作自演が一番!」でした。自作自演とはいかにも危なそうな言葉ですが、さにあらず。実は、これが学校現場や科学館を救う、大事なキーワードなのです。現在、私は「安い」「簡単」「楽しい」をキーワードにした「自作自演」の教材作り、そして開発した教材を科学館等で効果的に活用するためのワークショップ作りを大学院で研究しています。
【手島 駿 ・理学院修士1年】
(愛用のハンダゴテと制作物と共に。自作自演するって、どういうこと?)
教材って、結構お高い
小学校の算数の時間に「さんすうセット」という、サイコロやおもちゃの時計等がつまった教材で数の勉強をしたり、理科の時間に電池で動くクルマを作って電気のはたらきを勉強したりした経験があるかと思います。ああいったおもちゃのようなものも、教材の一種です。子供の頃は何気なく使っていたかもしれないですが、さんすうセットは1セット3000円くらい、電池で動くクルマの教材も一台4000円弱と、結構お高い。材料費や人件費等を考えると仕方がないのですが、40人学級の教材確保を仮定すると、12万円〜16万円。この材料費は児童生徒から徴収して賄います。しかし、この不況の世の中、普通のご家庭にとっては3000円だって大金なので、ひとつの教材を揃えるのもなかなか厳しいものがあります。
そこで「自作自演」
そんな問題を解決するのが「自作自演」なのです。…別に自分で問題を起こして手柄を取る意味ではありません。これは、「自」分で教材を「作」って、「自」分で「演」示するということで、略して「自作自演」なのです。例えば、先ほど挙げた電気のはたらきを勉強するクルマ。見た目に目をつむれば、ボディを工作用紙で作って、土台やタイヤは東急ハンズ等でバラ売りされているものを仕入れて、自作すればいいわけです。これだと計算上、一人あたり1500円くらいで済みます。なんと半分以下のコストで教材ができてしまうのです。
でも、実際に開発するのは難しい-だから、代わりに「自作」
ただ、このような教材を開発するには、かなりの手間と試行錯誤が必要になってきます。最近の学校の先生は授業だけでなく、部活指導もあるし、会議も盛りだくさん。なので、なかなか試行錯誤する時間が取れないことが多いです。学校現場だけではありません。生涯学習の場として役に立っている青少年科学館や博物館で行われるワークショップや工作教室も、低予算でできる実験ネタ作りに苦慮しているそうです。つまり、今まさに「安い」「簡単」「楽しい」の三拍子が揃った教材作りは、とても需要があるといえます。そこで、私は学校の先生や科学館などの生涯学習機関向けの「安い」「簡単」「楽しい」の三拍子が揃った教材開発を行っています。現在進めているのは、ストロボスコープという高速で動く物体の動きを見やすくするための装置を自作できる、電子回路工作の教材開発です。ストロボスコープを実験装置として買うと、なんと1台 3万円!これを1000円以下で自作できる教材を実現できるよう日夜奮闘しています。
(ストロボスコープを使った時の様子です。プロペラの動きがバッチリ)
コスパは大事、でも子供たちの教育はもっと大事-だから「自演」する
ただ、コスパをいくら大事に開発しても、子供たちが楽しんで勉強できるかどうかを検証しないと、教材として提供はできません。また、その教材が学校や科学館で実際に活用できるのかが分からないと、提供した時にただの押し付けになってしまいます。そこで、「自演」です。実際に実験教室やワークショップを開催して、「自」らの手で「演」示し、実際に使えるものなのかどうかを実証することで、教材をこう活かせば効果的に活用できますよ、という実例作りも行っています。ある実験教室での出来事を紹介しましょう。ビンとお菓子の袋を使って、なぜ山の上に登ったらお菓子袋が膨らむのかを説明する実験を演示したことがありました。この実験、見せた時は面白くて子どもたちは大喜び。でも、そこから説明を始めた途端、子供たちはつまらなそうな表情を見せたのです。
そこで、お菓子の袋を人間と見立てて、人間がもし、宇宙服を着ないで宇宙に行ったらどうなっちゃうのか、という説明に変えてみました。実際、人間は生身のまま宇宙に行くと爆発してしまうのですが、これを実験と絡めて話すとみんなびっくり!私の話に熱心に耳を傾けてくれるようになりました。その日から子供たちからは「ハカセ」と呼ばれるようになり、好評のせいか、時にはもみくちゃにされることもありました。
このように、同じ実験でも扱い方を少し変えるだけでとても効果的になるケースがあるのです。実験や教材は、実際に「自演」してみないと分からないことだらけです。だからこそ、「自演」を繰り返し、効果的なワークショップ作りをすることで、子供たちはもちろん、学校や科学館側にとっても安心して使える教材にすることができるのです。コスパは大事、でも子供たちの教育はもっと大事なのです。
子供たちが楽しむ前に、自分も楽しむ
正直、「安い」「簡単」「楽しい」の三拍子揃った教材の開発は、すごくたいへんです。でも、だからといって無茶して苦しそうに開発しても、「楽しい」教材にはなりません。なので、私は趣味感覚で常に楽しく、私自身も子供のように(22歳はまだまだ子供かもしれませんが…)、遊びながら、脱線しつつ開発しています。最近はドップラー効果(救急車が近づいたり遠ざかったりすると、サイレンの音が変わる現象)を再現する装置を作っています。救急車の代わりにミニ四駆を使って実験しているのですが、気づいたらミニ四駆が楽しくなってしまい、いろんな改造をして楽しんでいる今日このごろです。
(改造中のミニ四駆。赤い方は上にスピーカを載せています。右は完全に趣味で作りました。)
ただ、これはただの趣味ではなく、れっきとした研究。ちゃんと真面目にやるところは真面目に。役に立っているかどうかを、どう評価すれば良いのか、おもちゃとしてだけじゃなく、芸術的要素も入れるにはどうすればいいのか等々…。悩みも尽きないですが、子どもたちのために、より良い物ができるように日々楽しんだり悩んだりしながら研究をしています。将来は、でんじろう先生のような、子どもたちに理科を楽しく伝えるサイエンスショーをするお兄さん「しゅんじろうハカセ」として、科学館で働けたらと思っています。今後も「三拍子教材」の「自作自演」を頑張ります。
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この記事は、手島 駿さん(理学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。
手島さんの所属研究室はこちら
理学院 自然史科学専攻
科学コミュニケーション講座
博物館教育・映像学研究室(湯浅万紀子 教授)