北海道大学大学院 情報科学研究科を修了した繁富(栗林)香織さん(高等教育推進機構 新渡戸スクール 特任准教授)は、米国オレゴン工科大学や英国オックスフォード大学への留学経験を活かし、大学院特別教育プログラム 新渡戸スクールで国際的に活躍できる大学院生を育成しています。研究面では、折り紙エンジニアとして、マイクロ・ナノ工学や細胞工学の分野で研究を行い、その成果は、世界で注目すべき女性研究者25人にアジアから唯一選出(2013年)、電気・電子工学と医療バイオ分野の国際学会で最優秀若手研究者賞の受賞(2014年)、資生堂女性研究者サイエンスグラント獲得(2015年)と、国内外問わず高く評価されています。折り紙エンジニアとしての活動は「サイエンスZERO」(NHK Eテレ)や「TED x Sapporo」で取り上げられ、ますます注目を集めています。そんな繁富さんに、細胞のパターニングと、細胞折り紙の研究についてお話をうかがいました。
−−マイクロ・ナノ工学とはどのようなものなのですか?
まず、1マイクロメートルとは、1メートルの100,000(10万)分の1にあたります。1ナノメートルは、1メートルの100,000,000(10億)分の1にあたります。人の髪の毛の太さが約80〜100マイクロメートル、蝶の鱗粉は約50〜100マイクロメートル、スギの花粉の粒径は約30〜40マイクロメートル、ヒトの赤血球の大きさが約6〜9マイクロメートル、楕円形をしている大腸菌の長軸が約2〜4マイクロメートル、インフルエンザウイルスの大きさが約0.1マイクロメートル(100ナノメートル)、原子の大きさが約0.1ナノメートルとすると、ナノメートルの世界がどれほど小さいかがわかります。肉眼では見ることのできないような微小なサイズの物質を扱う工学の領域が、マイクロ・ナノ工学です。
(細胞をのせるプレートを製造する機器の前で解説をする繁富さん)
−−細胞のパターニングとはなんですか?
細胞のパターニングは、細胞を一定の形や密度に培養することです。細胞の密度や形が異なると、細胞の機能も異なってきます。再生医療に使うためには均質な機能をもった細胞を培養する必要があります。そのために、細胞パターニングの技術が求められています。
細胞パターニングの方法を簡単に説明しましょう。まず、細胞の培地を、細胞がつかない物質で薄くフィルム状に覆います。次に細胞を培養したい形に合わせてフィルムを削ります。フィルムが削られた部分に細胞が付着します。付着した細胞が分裂して増えることで、一定の形に細胞を培養することができるのです。このフィルムを削る技術にマイクロ・ナノ工学が使われています。
(ハート形の細胞パターニングを見せていただきました)
−−細胞折り紙とはなんですか?
先ほど、細胞の密度や形が異なると、細胞の機能も変わってくるといいました。普通、細胞はシャーレの培地の上で培養するので、その形状は平面状になります。しかし、実際には細胞は立体です。そのため、三次元状に細胞を培養して、その機能を調べることが必要になります。どうしたら、平面状の細胞を立体にすることができるのか。そこでひらめいたのが「細胞折り紙」です。例えば、平面の折り紙を折り進めることで、立体の折り鶴をつくることができます。同じように、マイクロ・ナノ工学で作り出した、極小のマイクロプレートの上で細胞を培養し、細胞自身がもつ力でプレートを折りたたむことで、三次元の構造をもった細胞を培養することができるようになるのです。
(ステントグラフトの元になった折り紙を紹介してもらいました)
−−折り紙の発想の源とこれから
細胞の培養と折り紙をつなげる発想の元は、学部時代の研究にあります。宇宙で展開するソーラーパネルを開発するために、ラワン蕗の折りたたみを研究しました。オックスフォード大学の博士課程では、折り紙の折りたたみパターンを利用した医療器具「折り紙ステントグラフト」を開発しました。これまで研究してきた折り紙を、マイクロ・ナノ工学を使って応用したのが「細胞折り紙」なのです。今後は「細胞折り紙」技術を、再生医療や、細胞を用いた医療器具の開発に応用していきたいと考えています。
〜〜今回ご紹介した繁富さんをお招きしてサイエンス・カフェ札幌を開催します〜〜
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第94回サイエンス・カフェ札幌 「生きている折り紙〜細胞は平面から立体へと旅をする~」
●日 時 : 2017年5月27日(土) 16:00~17:30 (開場15:30)
●場 所 : 紀伊國屋書店札幌本店 1F インナーガーデン
札幌市中央区北5条西5-7 sapporo55 1F(011-231-2131)
●ゲスト : 繁富(栗林)香織さん (北海道大学 高等教育推進機構 新渡戸スクール 特任准教授)
●聞き手 : 古澤 輝由(北海道大学 CoSTEP 特任助教)
●参加費 : 無料
●定 員 : 60名を予定
●主 催 : 北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP・コーステップ)
●協 力 : 北海道大学 大学院特別教育プログラム 新渡戸スクール
北海道大学 人材育成本部 女性研究者支援室
北海道大学 大学力強化推進本部事業推進室
●WEB :https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/event/7537
みなさまのご来場をお待ちしております。