心理学に少しでも興味があってこの記事を読んでいるあなたへ、河原純一郎さん(文学研究科 心理システム科学認知行動科学研究室 准教授)が大学院生の時に読んだ『サブリミナル・マインド〜潜在的人間観のゆくえ』、後期の1年生向け授業で用いる予定の『しあわせ仮説〜古代の知恵と現代科学の知恵』、そしてゼミの参考文献に取り上げた『不合理だからすべてがうまくいく〜行動経済学で「人を動かす」』を紹介します。人間の心は、何からどのような影響を受けているのでしょうか。心は自分のもののはずなのに、心理学が少し難しそうな学問のように感じられるのはなぜでしょうか。本を紹介しながら、心理学の分野だけでなく先生の研究や人柄についても触れていきたいと思います。
【太⽥早織・⽂学部1年/藤間謙太郎・総合⽂系1年/⻄原遼将・総合⽂系1年】
(河原純一郎さん)
『サブリミナル・マインド〜潜在的人間観のゆくえ』下條信輔 著(中公新書/1996)
河原さんのオススメの本のうちの一冊である『サブリミナル・マインド』は、当時東京大学で教授をしていた下條信輔さんの著作です。河原さんがこの本を読んだのは大学院生の時でした。在学していた大学に出張講義で来た著者の授業をきっかけに本を手に取りました。この本は、我々人間が意識しないものの、行動に影響を与えている意識システムの全容を具体的に、かつ、わかりやすく説明しています。例えば、テレビを見ている時に「ソラ」という言葉が画面にわずかに映ったとします。すると、のちに「ヒコウキ」という言葉が「デンシャ」「ネコ」といった言葉よりも捉えやすくなります。我々が意識していないところで関連性のあるものを思い出しやすくしているというのです。河原さんはそれまで独立して考えていた認知心理学、社会心理学、発達心理学などの分野を超えて心理学全体の繋がりに気付かされたといいます。皆さんもこの本を通して「人間の意識」に目を向けてみませんか。
(河原さんの研究室がある古河講堂前でインタビューの意気込みを表現)
『しあわせ仮説〜古代の知恵と現代科学の知恵』ジョナサン・ハイト 著、藤澤隆史・藤澤玲子 訳(新曜社/2011)
この本は、人間の本質を理解するために、従来注目されていなかったプラスの心理面にスポットライトをあてる、ポジティブ心理学を扱った本です。河原さんが担当する1年生に向けた心理学の講義でも扱ってみたいそうです。授業について河原さんは「自分が受けた大学の講義を思い返してみると、専門以外の講義内容は、まずは覚えているか忘れてしまったか、つまり1か0です。その時に全部が0だと、『よくわからなかったな』で終わってしまいます。だから、少なくとも授業が『面白かった』と印象に残るように講義をしたい」と話します。河原さんの、心理学の面白さを知ってもらいたいという情熱がひしひしと私たち取材班に伝わってきました。「そういう内容にするのがまずは最低限。そこから先、学生に何を講義で学んで持って帰ってもらうかを考えています」。20年、30年たっても色あせない心理学の講義となりそうです。私たち学生も大学の授業から何を学ぶか、考えさせられるお話でした。
(鏡に写ったインタビューの様子)
『不合理だからすべてがうまくいく〜行動経済学で「人を動かす」』ダン・エリアリー 著、櫻井祐子 訳(早川書房/2010)
この本は、河原さんが自身のゼミの中で、推薦図書として取り上げたものです。この本は、私たちが無意識の行動にどれだけ影響を受けて行動しているのかを、実験・調査のデータをもとに紹介しています。なぜ人は自分で作った家具に愛着を持つのでしょうか? 相手に対して第一印象を抱く心理的なしくみとは? これらの問いに対して、実際のデータに基づいて無意識の行動を説明していきます。河原さんは、無意識の行動について「心理学の基本概念に、意識システムと無意識システムがあります。この二つはつながりあっています。自分の話に一貫性を持たせることができたり、突然の音に反応できたりするのは、意識システムの背後にある無意識システムの働きによるものです」とポイントを説明してくれました。河原さんの話を聞いた後に、この本を再読すると、私たちがいかに無意識の行動に左右されているのかに気づかされます。皆さんの行動も「無意識」に操られているのではないでしょうか? 河原さんが行っている研究の一部分に触れられる本です。
(アットホームな雰囲気でインタビューが進んでいきました)
〜インタビューを終えて〜
『サブリミナル・マインド〜潜在的人間観のゆくえ』、『しあわせ仮説〜古代の知恵と現代科学の知恵』、『不合理だからすべてがうまくいく〜行動経済学で「人を動かす」』。この3冊は、河原さんの専門分野である認知心理学だけではなく、河原さん自身の研究内容や、広く心理学そのものを知るための手がかりとなります。心理学は私たちの心と行動に関わる身近な学問です。難しそう、そんな先入観は捨てて、心理学の一端に触れてみませんか。
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この記事は、太⽥早織(⽂学部1年)、藤間謙太郎(総合⽂系1年)、⻄原遼将(総合⽂系1年)が、2017年度全学教育科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。