2013年に「むかわ町穂別から恐竜化石を発見」と発表され、発掘と研究が進められてきた通称「むかわ竜」。この4月には復元骨格模型も完成し、研究もいよいよ大詰めを迎えていました。そして昨日18日、小林快次さん(総合博物館 教授)を中心とした研究グループは、むかわ竜は新属新種の可能性が極めて高いと記者会見で発表しました。
小林さんによると、むかわ竜はハドロサウルス科ハドロサウルス亜科のエドモントサウルス類と考えられるとのことです。また12歳から13歳の成体であり、体重は4トンあるいは5.3トンと推定しました。発表内容の詳細についてお伝えします。
【川本思心・CoSTEP/理学研究院 准教授】
むかわ竜はどこに分類されるのか?
むかわ竜は発見当初から、その特徴にもとづいてハドロサウルス科だと考えられていました。しかし、正確な分類学上の位置については、慎重に分析が進められてきました。ハドロサウルス科の恐竜はこれまでに50 種類以上が知られており、大きくハドロサウルス亜科とランベオサウルス亜科のふたつのグループに分けられています。そしてそれぞれのグループは、さらにいくつものグループに分かれているのです。
2013年と2014年に実施された本格的な発掘と、その後のクリーニング作業により、8割以上の骨格が集まったことは、確実な分析にとって大きな利点となりました。小林さんを中心とする研究チーム1)は骨格の200を超える形態的特徴をデータ化。それを他のハドロサウルス科恐竜20種余りのデータと比較して、むかわ竜がどの種と近いかを分析しました。
新属新種であると考えられる、いくつもの特徴
その結果、むかわ竜はランベオサウルス亜科ではなくハドロサウルス亜科であり、さらにその中のエドモントサウルスの仲間であることが分かりました。また、中国で発掘されたライヤンゴサウルスと、ロシアで発掘されたケルベロサウルスと特に近いことも示されました。
そして、これまでの恐竜にはない形態を持っていることから、新属新種である可能性が極めて高くなりました。むかわ竜の特徴にはいくつもありますが、小林さんは会見で主に3点を挙げました。ひとつ目は、ずんぐりとした頭部です。近縁種の頭部と比べると、くちばしが短く、額部分がややせり上がっています。ふたつ目は、華奢な前足。長さと太さの比、そして筋肉が付く場所の形態から、あまり大きな力は持っていなかったと考えられます。みっつ目は、脊椎骨にある神経蕀とよばれる突起の形です。通常この突起は、尾の方向に傾いています。しかしむかわ竜の胴部脊椎骨では、頭の方に傾いています。小林さんも当初この形態を訝りました。地層の圧力によって変形した可能性も考えましたが、いくつもの神経蕀がきれいに傾いていることが分かり、固有の特徴と見なしました。
個体の特徴も明らかに
分析は骨格の外部形態だけに留まりません。後ろ足の脛の骨はスライスされ、内部の「成長停止線」が観察されました。成長停止線とは、骨の断面にある木の年輪のような線で、1年ごとに1本形成されます。この数は9本でした。そして外側の線の幅が極めて狭いことから、ほぼ成長が終わった個体であるとみなしました。
しかし成長停止線が9本だけだったとは限りません。骨の中心部は成長に伴い空洞になっていくため、若い時の成長停止線は失われてしまうからです。小林さんらは複数のモデルを用いて、中心部に何本の線があったのかを計算しました。その結果、3本から4本という結果がでました。このようにして最低でも9歳、恐らく12歳から13歳の成体だと推定したのです。
全長8メートルを誇るむかわ竜の体重も今回明らかにされました。ハドロサウルス科の恐竜には、二足歩行説と、四足歩行説があります。それぞれの場合で計算すると、4トンと5.3トンという結果になりました。1934年に長尾巧(北海道帝国大学 教授)によって南樺太で発見されたニッポノサウルス(ハドロサウルス科ランベオサウルス亜科)は全長4メートル、体重1トン。子どもの個体と考えられています。それに比べるとむかわ竜は巨大です。
このように、むかわ竜は成長途上ではない成体であること、そして8割以上の骨があることから、骨格形態の特徴を明確に記述することができます。ニッポノサウルスは子どもの個体であったため、その分類学上の地位について議論がなかなか決着しませんでした。その意味で、今回の発表はより確からしいと言えそうです。
同定までの軌跡。そして結論は論文発表で…
しかし、今回発表された内容は、あくまで研究チームとしての結論です。ある生物が新種かどうかを明らかにするのは簡単ではなく、単に研究している当時者が発表すればいいだけではありません。詳細な分析結果を論文にまとめて学術雑誌に投稿し、同じ分野の査読者によるきびしい審査を潜り抜け、出版され、初めて正式に新種と認められるのです。もちろん出版された後も様々な研究によって、それが確からしいかが検証され続けていきます。
今回の研究結果は、記者会見で未発表の内容も含めて論文としてまとめられ、現在投稿中です。どのように査読者が検討しているかは非公開のためわかりませんが、小林さんら研究チームが発見から現在まで、どの種類であるかを検討してきた軌跡を、プレスリリースから垣間見ることができます。
むかわ竜は当初から新しい種類と考えられており、ハドロサウルス亜科である可能性が高いとしつつも、ランベオサウルス亜科である可能性も残した内容となっています。以下に抜粋して紹介します。
「ハドロサウルス科恐竜か」「ハドロサウルス科恐竜とみられる」
「ハドロサウルス科の可能性」「新しい種類の恐竜である可能性が考えられます」
※参考としてニッポノサウルス2)の全身骨格図「ハドロサウルス科の恐竜であることを確認」
※参考としてオロロティタン2)の全身骨格図2014年1月17日「平成25年第一次穂別恐竜発掘成果報告」
「ハドロサウルス科」
※参考としてオロロチタンの全身骨格図およびサウロロフス2)の頭骨写真2014年10月10日「むかわ町穂別産恐竜の頭骨の一部を発見」
「ハドロサウルス科の中でもサウロロフス亜科(またはハドロサウルス亜科)に属す可能性が高い」
「むかわ竜は、(サウロロフス亜科とランベオサウルス亜科※本記事補記)どちらの特徴も有していますが、現在の予察的な分析ではサウロロフス亜科に属す可能性が高い」
※参考としてオロロチタンの全身骨格図およびサウロロフスの頭骨写真2017年4月28日「国内最大の恐竜全身骨格を発見(むかわ竜)」
「ハドロサウルス科」
※参考としてオロロチタンの全身骨格図およびサウロロフスの頭骨写真2018年9月5日「むかわ町穂別産“むかわ竜”の全体像が明らかに」
「ハドロサウルス科」
※参考としてオロロチタンの全身骨格図2019年4月17日「むかわ町穂別産“むかわ竜”全身復元骨格が完成!」
「新属新種の恐竜である可能性が極めて高い」
「ハドロサウルス科のうちのハドロサウルス亜科に属すことが判明」
「ロシアや中国のハドロサウルス亜科に近縁」
「ハドロサウルス亜科のエドモントサウルス類(族)に属す」
「さらに、その中でもエドモントサウルス類(族)というグループに属し、特に中国のライヤンゴサウルスとロシアのケルベロサウルスに近縁」
※他種の参考図なし
研究の詳細は6月22日午後、日本古生物学会にて「北海道むかわ町穂別から発見されたハドロサウルス科の全身骨格」と題して口頭発表されます。論文は現在投稿中です。晴れて掲載され、新属新種が確定される日を心待ちにしたいと思います。
今回紹介した研究成果は、以下のプレスリリースにまとめられています。
- むかわ町穂別博物館「むかわ町穂別産“むかわ竜”の分類・年齢・体重の解明」(2019年6月18日)
小林さんとむかわ竜を紹介しているこちらの記事もご覧ください
- 【クローズアップ】#66 むかわ発、日本初! 恐竜化石が示す生命の可能性(2015年12月10日)
- 【クローズアップ】むかわ竜に会える穂別博物館(2018年05月31日)
- 【クローズアップ】総合博物館の分室、むかわ町穂別博物館に開設(2018年06月05日)
注:
- 北大、むかわ町穂別博物館、岡山理科大、米国ペロー自然科学博物館、筑波大、モンゴル古生物学地学研究所、東京学芸大
- ニッポノサウルスとオロロチタンはランベオサウルス亜科、サウロロフスはハドロサウルス亜科に属する。なお「オロロティタン」と「オロロチタン」の表記ぶれは原文のママ