海外から見ると、日本は単一民族国家の典型だと認識されています。しかし事実は違います。先住民族もいるし移民もいます。法務省が発表した2018年6月現在における在留外国人数 は263万人2) であり、2018年7月現在における日本の総人口数12,653万人3) の約2%を占めています。同時に、少子高齢化社会が進む日本には、労働力不足問題を解消するため、移民も増加していく傾向があります。
はたしてこの日本で、移民たちは自分たちの民族教育を継承できるでしょうか?これから出てくる外国人労働者問題を解決するためにも、まずは既存の移民問題に向き合わなければならないと思っています。私は、日本の中でも歴史の長い「朝鮮学校」の問題を事例として、日本での多文化教育を研究しています。
【進 淑姣/公共政策大学院修士1年】
中国人なのに、なぜ日本での朝鮮学校問題を研究したくなったのか?
私は中国出身です。多くの留学生と同じ、私も子供のころからずっと日本の文化が好きです。文化と言っても、最初はアニメ、ドラマなど映像ばかりを見ていました。大学の時も、当時人気の専門より自分が好きな日本語専攻を選びました。
大学四年生の時、当時中国で話題になった銀行職員へのセクハラ事件をきっかけに、中国と日本での職場ハラスメントに対する認識を卒業論文の内容にしました。その問題を理解するため、SNSでビデオを探している中で、「いま、“在日”として生きる~大阪・朝鮮学校の1年」というドキュメンタリーを見ました。「俺たちは何か悪いことをしましたか。」と先生に質問している学生たちの顔を見たら、悲しくて涙が出ました。もし自分は彼らの立場になったらと想像してみました。大きな声で世間に叫びたいけど、誰も聞こえないふりをしています。「だったら、私が聞きにいきます!」と強く思って、日本に来ました。
日本ではそんなに外国人がいるの?
冒頭にお伝えした通り、日本は在留外国人が総人口の約2%を占めています。在留外国人数は年々増加しており、少子高齢化の進行によって総人口が減少していく中で、その比率も上がっていくことが予想されます。そして在留外国人のなかでは、在日コリアンは中国人に次いで2番目に多くなっています。
(国籍別在留外国人数 上位10か国)<法務省・在留外国人統計 2018年12月より作成>
(日本人人口推計 (2019年5月20日公表))<出典:総務省統計局>
少子高齢化社会である日本では、移民が増えています。これからはもっと増えます。労働力不足を解消するために、多くの企業は外国人労働者を受け入れる政策を導入しています。同時に、日本政府も新たな外国人受け入れ制度を2019年4月からスタートしました。それにもかかわらず、日本はいまだに移民の生活環境を整える移民政策を実施していません。これから出てくる外国人労働者問題でバタバタするより、今から既存の移民問題に向き合う方がいいです。私はその中でも、日本に来るきっかけとなったテーマとして、また自分と一番身近い移民問題の現場としても、「朝鮮学校」のことを中心に、問題解決の糸口を探しています。
いよいよ本題!朝鮮学校はどんな問題があるの?
朝鮮学校には様々な問題が存在しているのですが、私は主に進学問題や無償化の対象外についての問題を研究しています。1955年4月、民族教育を重視する朝鮮人学校は私立各種学校として出発しました。各種学校とは、一条校および専修学校以外のもので、学校教育に類する教育を行う施設です。結果的に学校教育法第1条で規定される「一条校」から外されました。そのため、朝鮮学校の学籍は日本社会では認められていません。これが朝鮮学校の問題が存在する一番な要因となっています。
朝鮮学校には、寄付金の優遇措置などは適応できません。同時に、高校無償化制度の対象外となった影響や、学習指導要領に従わない朝鮮学校への補助金廃止による財政難が、多くの朝鮮学校の廃校の要因になりました。
一方、1999年に朝鮮学校にも大検資格(現在の高校卒業認定資格)が認められるようになりましたが、大検を受けなければならないといった日本の学校との差異は残っています。2003年9月、文部科学省は受験資格適用条件を拡大しましたが、朝鮮学校出身者には大学の個別審査で認められることが条件になりました
(「民族学校卒業生の受験資格に関するアンケート調査報告書」(2001.1.30))<出典:民族学校の処遇改善を求める全国連絡協議会>
高額な学費に一人暮らしの生活費を加えたら、元々不安定な個人営業で生活を支えている在日朝鮮人たちにとっては異常に大きな負担になります。こうなれば、日本の大学より朝鮮大学校に入るほうが経済的な負担が少ないです。しかし、朝鮮大学校から卒業したら、その学籍は日本で認められないため、日本の会社で就職することはとうてい不可能です。また親のように、パチンコ店や焼き肉屋など個人営業をしなければなりません。こういう状況をずっと繰り返したら、在日朝鮮人はいつまでも日本の社会に溶け込めないままです。
私は何ができますか?
「私は何ができますか?」と何度も自分に聞きました。いくつもの朝鮮学校の論文と本を読みましたが、「自分は彼らの思いを受け止められるのかな」と思う時が多いです。自分の無力さだけはしみじみと感じました。迷う時もあり、落ち込む時もあり、でもどうしても諦めたくないから、勉強するしかないと自分に言いきかせました。
これからの研究を支えられる知識を習得するために、関連がある授業を履修しました。十年前のデータじゃなくて、新しいデータが欲しいから、「社会調査法」と「統計分析」の授業を受けました。在日朝鮮人の声を世間へ伝えたいから、この「セルフプロモーションⅠ」を受けました。
同じ外国人である私は、この間に日本人の皆さんからいっぱい応援をもらいました。この日本なら大丈夫です。きっとみんなが共生できる社会になれると、私はそう信じています。
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この記事は、進 淑姣さん(公共政策大学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。
進 淑姣さんの所属研究室はこちら
公共政策大学院 公共経営コース専攻 (池 直美講師)
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注:
1) 在留外国人とは、中長期在留者及び特別永住者など在留資格を有する人を指す
2) 法務省「2018年6月現在における在留外国人 数について」
3) 総務省統計局人口推計「全国:年齢(5歳階級),男女別人口」