みなさんは将来、ニートになりたくはないですよね?しかし、僕らの体の中にはニートがたくさんいます。でも、体の中のニートってなんでしょう?ここでいうニートとは、体の中にあるけれど、実際に機能があるのかわからない物質のこと。彼らのことを、僕はそう呼んでいます。そして、僕はとあるニートの職業(機能)を見つける研究をしています。その名は「スフィンガジエン」です。なんか面白い名前ですよね。彼はなんと50年以上も前に発見されていたにも関わらず、ほとんど何も調べられていない無職(機能未知)の物質です。これは、50年間無職を貫いてきた生粋のニートである彼と、その職を探す僕の研究についての物語です。
【城島啓佑・生命科学院修士1年】
(スフィンガジエンの量を測っている途中にキメ顔をする僕)
おかしな彼と出会いました
昔から生き物が大好きでした。小学校までは毎日のように虫捕り網と虫かごを持って、野原を駆けていたのを覚えてます。高校に入って生物の授業を受けて、いっそう生き物に惹かれていきました。数学も英語もそっちのけで、生物ばかり勉強していました。
そんな僕が大学3年生になり、その秋には自分の所属する研究室が決まりました。研究室は薬学部の生化学研究室。もちろん、生物系の研究室です。
そして、自分の研究テーマを決める日、僕はスフィンガジエンとはじめて出会いました。
スフィンガジエンってなんでしょう?
ここで、研究生活についてお話する前に、スフィンガジエンが何者なのか少しだけ説明しましょう。
スフィンガジエンは脂質の一種です(脂質とは、生体内にあるタンパク質以外の水に溶けにくい物質の総称です)。スフィンガジエンには、構造や名前がとてもよく似た「スフィンゴシン」という仲間がいます(下図)。スフィンゴシンは全身に存在し、免疫、肌バリア、神経機能などマルチな働きが知られているいわばできる奴で、僕の研究分野ではかなりの有名人です。
それにひきかえこのスフィンガジエンときたら、50年以上前にヒトの血しょうや血管から見つかって以来、機能が全くわからない状態。「いるだけじゃただのニートだぞ」とこいつを見たとき思いました。
(スフィンゴシンとスフィンガジエンの構造)
彼と歩むと決めました
そんな彼ですが、僕にはとても魅力的に感じました。なにもわからないってことは、逆になんでも自分で解明できるし、スフィンガジエンには無限の可能性があるってことだなと考えたからです。
僕は研究テーマをスフィンガジエンの機能解明に決め、その日から彼の職業(機能)を探すハローワーク職員となりました。
「お前の職を見つけて、必ず有名人にしてやる!」
そこから研究を始めて数ヶ月で、スフィンガジエンがマウスの臓器やヒトの細胞などに存在することや、代謝がどうやって行われているかについて明らかにしました。
履歴書書けない!彼はどうやって生まれたの?
順調に研究は進んでいましたが、彼の職探しには大きな障壁がありました。それは彼がどうやって体の中でできるのかがわからなかったことです。生い立ちが不明のままでは職は探せないですからね。
そこで僕は彼に似た構造を持つ脂質のでき方や、それをつくる物質について手当たり次第に調べました。これを見つけるために必要なのは、知識よりも運だったりします。普通であれば、ほぼ見つからないといっても過言ではないほど難しい作業です。しかし、調べて実験して…を繰り返していたある日、僕は彼をつくる物質の正体を突き止め、彼がどうやってできるのかを解明しました。
それは、僕が研究していた中で最も嬉しい瞬間であり、彼の職業決定のための大きな一歩でした。
(実験を助けてくれる仲間たち)
働き者の僕と怠け者の彼
準備は整いました。ここから本格的に彼の職探し開始です。ですが、今はまだその途中です。50 年ニートの職探しは一筋縄ではいかないんです。そのために、僕は怠け者の彼と違って、時には朝の6時くらいまでせっせと勉強や実験をしています。僕は、彼の職業を見つけることで、いつかみなさんが知っているような病気の治療に彼が役に立てばいいなと思っています。僕がこの研究のおかげで将来研究者の職業に就けたら、僕はスフィンガジエンに就職させてもらったことになるのかなー(笑)…なんて思いながら、今日も彼の職を探しています。
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この記事は、城島啓佑さん(生命科学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。
城島啓佑さんの所属研究室はこちら
薬学研究院 生化学研究室(木原章雄教授)
研究室HPアドレス
https://www.pharm.hokudai.ac.jp/seika/research_top.html