中山翔太さん(獣医学研究科 助教)のお話を留学生の李紅(リ ホン)さん(地球環境科学院)が聞きました。
アフリカ諸国にて、現地のこども達と一緒に
いまや当たり前のように私たちの生活で使われている化学物質や金属類。生活を豊かにするために欠かせないものです。一方で、物質を適切に使用しなかったり、廃棄処理を行わなかったりした場合には、水や大気、土壌、植物、動物そして最後には人間にまで影響を及ぼす可能があります。
アフリカ諸国では、かつての日本がそうであったように、近年の急激な経済成長により環境汚染が密かに進行しつつあります。現地に足を運び、現地の方々や研究者とともに環境汚染の現状に立ち向かう中山さん(獣医学研究科 助教)にお話を聞きました。
「正直ね、初めの頃は、よくわからずにアフリカに行きました。」と大きな声を上げて笑いながら話す姿は、国境を越えて中山さんが受け入れられる原点であるような気がしました。学生時代を恵迪寮で過ごし、学部を越えてたくさんの友人たちに慕われてきた人柄。「話すのは苦手で」と言う謙虚な姿勢と、分かりやすく研究を説明してくださろうとする話ぶりに惹きこまれていきます。
“環境汚染を把握するため“のデータがない
博士課程1年生のとき、今の研究に携わるようになりました。一言でいうと、アフリカでは、環境汚染が進んでいるだろうと言われながらも、その現状を把握するためのデータがなかったのです。そこで、アフリカ諸国に渡航して、環境汚染問題の調査に取り組むことになりました。はじめて行くアフリカ、これまで足を踏み入れたことのない領域の調査研究でした。
現地の人とともに湖沼の調査をしているところ
誰もしてこなかった研究。続けるためのモチベーションは何ですか
はじめは、アフリカ諸国の環境汚染の現状を把握するために土の分析からはじめました。周囲の友人が ‘獣医学部らしい‘「動物」に関する研究発表をする中で、「獣医学部なのに土の分析か。」と心の中でため息をつくこともありましたよ。しかし、土や家畜を対象に金属調査して高濃度の汚染物質が観測されていくうちに、「絶対に人にも影響しているだろう。この調査はアフリカ諸国の人にとって必要な研究だ。」と感じるようになりました。それが、今でもこの研究を続けているモチベーションでしょうか。
どのようにして調査を進めていったのですか
アフリカ諸国における環境問題について話しあうために、獣医学研究科の主催でInternational Toxicology Symposium in Africaを開催しました。2009年のことです。はじめは6人程度しか集まりませんでした。今では毎年様々な国から参加者が集まります。このシンポジウムには2つの目的があります。研究者や政府関係者、地方自治体、学生が集まって「アフリカ諸国の環境問題の情報交換」をすること、そして「研究者のネットワークづくり」です。「環境汚染の現状がわからない」という出発点を前に、どんな研究が必要なのか、どの地域での調査が可能なのか、考えなければいけないことだらけの中、長い道のりがここからスタートしました。
International Toxicology Symposium in Africaでの1枚
どのようなことをしているのですか
アフリカと聞くと原始的な生活をイメージする方も多いですが、田舎でもある程度の人は携帯を持っています。景色はサバンナのようなきれいな自然をイメージするかもしれませんが、都心ではダンピングサイト(ゴミ捨て場)が不衛生な状態で、野生動物や畜産動物、人が共存している地域もあります。
さまざまな研究者が、環境を明らかにするために各自の専門分野を切り口に環境汚染問題について研究しています。その中で、わたしは動物や人の血液中の鉛やカドミウムを分析してきました。ダンピングサイトでは、血液中の鉛の量が著しく多いことがわかってきました。
カバのいないHippo-pool(カバの沼)
鉱山周辺の河川も調査します。そこでは鉱床からの廃液が原因と思われる化学物質汚染が進み、「カバ沼」とよばれる沼に、昔いたカバの姿はもう見られません。データがないので、以前の水質との比較は数値化できません。データがないので、以前の水質との比較が困難であることも問題点の一つです。
鉱床付近の河川には廃液が排出されており、付近の環境を悪化させている
現地の人にとって必要なのは現状を改善するためにどのような対策をとるかではないでしょうか。研究者として、どのようなデータが必要かを考えて調査はできますが、現状を変えるには現地の政府の力が必要ですし、適切な判断をするためにもデータが必要です。課題が山積みだと思います。
Hippo-pool(カバの沼)と呼ばれていた沼では、
鉱床からの廃液による化学物質汚染で、現在はカバは1頭も棲息していない
いまの研究をしていて、おもしろいなと感じるのはどんな時ですか
現地の人と話すのはとても楽しいです。わたし自身あんまり口数は多い方ではないのですが、お酒が入るとよく話しますね。笑 アフリカではサッカーの話題は特に盛り上がります。
先行事例のない大変な研究。やめたいと思ったことはありますか
え、ありませんよ。研究のアプローチ方法はいつも悩んでいますけどね!今は現地調査を進めながら、毎年開催されるシンポジウムで情報を交換しています。この研究は、協力者なくしてできません。研究内容をシェアする研究者、アフリカ現地でやりとりをしてくれる人、調査に協力してくれる人、日本で私自身を支えてくれる研究室の仲間。学生時代は恵迪寮にいて、学生生活を謳歌していました。そんな私を迎え入れてくれたのが、今の研究室でした。ここでは、学生に対してもすべきことを指示するのではなく、「自分で考えさせてくれる・挑戦させてくれる」雰囲気があります。それが心地よくて。研究室のメンバーがとても好きだし、人に恵まれてここまできたように思います。