「研究は趣味」と笑顔で言い切る小泉逸郎さん(地球環境科学研究院 准教授)。小さいころから釣りが好きでサケにあこがれ北海道大学へ進学。様々な動物の「生き様」を研究する動物生態学の研究者であり、サケ科の魚・オショロコマを主要な研究対象としています。ところが、学部生の頃は生態学ではなく高分子化学を専攻していたそう。小泉さんはなぜ、動物生態学者として研究を「趣味」に据えたのか。研究者としての覚悟に迫ります。
【CoSTEP本科生・渡邉洋子/社会人】
―小泉さんは小さいころから動物や自然が好きだった、と伺っています。でも北海道大学の学部生の頃は高分子化学を専攻し、大学院で動物生態学へ変更したのは何故ですか?
「生き物」を研究して食べて行けるなんて、あんまり思わないですよね? 化学が得意だったのでメーカーや食品関連に就職しやすいと思って高分子化学を専攻しました。趣味は趣味、仕事は仕事って賢く分けて考えたんですね。
ところが、大学院試験の勉強をしている時に思いついちゃったんです。北海道で公務員試験を受ければ北海道から離れなくて済むし、趣味は趣味で謳歌できる。生活もできる、って。公務員になるなら専攻は問われないからせっかくなら大好きな事を勉強しよう、と農学院に当時新設されたばかりの北方生物圏フィールド科学センター(FSC)に進みました。せっかく好きなことを始めたので2年間フルで研究しました。就職活動なんかそっちのけで(笑)。
当時は今と違って情報が少なかったので、就職の難しさや研究で成果を出すことの大変さなんて知らずに、そのまま面白くなっちゃって博士課程まで進んでしまいました。FSC第一期生だったので人もまだ少なくて、物質循環とか植物とか、異分野からの仲間と話が出来たり、全く関係ない分野に顔を出したり、一見無駄なこともたくさんしましたね。僕は魚を研究していたけど、後輩が哺乳類とか鳥類やっていて、その後輩達の調査について行ったりもしました。
(いざ、フィールド調査へ!とばかりに調査着や道具をフル装備で見せてくれました。)
―現在、小泉さんの研究室はフィールドワークを中心に様々な野生動物を研究されていますね。正直なところ寄生虫から大型哺乳類まで、あまりにも多くの生物が対象で、テーマも多様。一貫性がないようにも見えますが……?
好きなことを研究したい学生の受け皿になりたい、っていうのがありますね。実は、「野生王国北海道」みたいに言われているけれど、「フィールドで哺乳類の研究をしたい、鳥類の研究をしたい」っていう学生を受け入れられる研究室って意外に少ないんです。そんな学生たちの受け皿になれたらいいですよね。僕も学生の時に好きな研究を思いっきりやらせてもらったし、「自分で研究をしてるんだ」という実感を得て、将来独立した研究者になるためにも、学生には好きな研究をやってもらいたい。そう願っています。
あと、種を蒔くという意味合いもあります。何より大切なのは、面白そうと思ったことをやってみること。色々ばらまいていたものがつながって全く新しい研究分野が生まれるかもしれないから。例えば、もともとメインテーマである魚の研究から、寄生虫や微生物に興味が湧いたんですが、それとは全く別にやっていた都市と郊外のリスの警戒心の研究が、「環境改変による腸内細菌や寄生虫の変化が行動に及ぼす影響」を調査する新たな分野研究の礎に発展していったり。
他には、プレスリリースとかで注目されやすいこと。一般の方の関心が高い研究ですね。「外来種アライグマと在来フクロウの(巣としての)樹洞の取り合い」とか。その判断の基準も自分が面白いと思ったものをやる。それはむしろ生態学と言う学問を高める研究と言うよりは一般向けへの教育普及活動研究です。学生の興味と学問のレベル、それに一般市民へのアピール。これらの兼ね合いの中でテーマを選んでいます。
(専門書から絵本まで。様々な本から生態学の広さを感じます)
―生態学の基礎研究をしっかりやりながら一般向けの教育普及の研究も大切にしているのですね。研究室のホームページも大変充実していて面白かったです。
義務がありますよね。研究者としての。僕がやってることは医学や、同じ環境分野でも汚染とかやってる所と比べて直接的な社会への貢献度は低い。保全と言ったって、空知川源流域のオショロコマ…って、アピールできる範囲が狭い。そう考えた時に自分に何が出来るかな、って思いますよね、やっぱり。
「科学・生き物が面白いんだよ」って伝えるソフト面からの貢献もある。より多くの人が自然や生き物が好きになれば、ちょっとでもそれらの環境を良くしよう、と保全への関心が高くなるわけで、それはオショロコマに限らないより広い活動につながると思ってるんです。だから、一般向けのアウトリーチとか、プレスリリースとか充実させて、少しでも貢献したい。
結構色々な人と話すのも好きなんですよね。もともと、進化や適応に関心があって続けてきた研究だから、生き物に対してもそれを通して人が見れたらな、って思いますね。動物と人、どれくらい違ってどれくらい共通しているのか?自分の中でハッキリさせていきたい。ライフワークとして。
(魚を捕まえる漁網。これだけで数キロあります)
-フィールドワークは真冬の川の中で何千匹も魚を捕まえたり、危険と常に隣り合わせの山暮らしが続いたりします。一度踏み出してしまうと継続するしかない。そんな研究の道を選んだことを後悔したことはありますか?
それはない。まったく。
とびきりの笑顔でそう言い切る小泉さん。“研究は趣味”と言えるだけの覚悟と、趣味に対する真摯な姿勢をうかがい知れた気がしました。そんな小泉さんがゲストとして出演するサイエンスカフェが開催されます。皆さんも、小泉さんのその覚悟に触れてみませんか?
第110回サイエンス・カフェ札幌
動物のおもしろい「生き方」探してみた
~進路に迷うサケからシャイなリスまで~
【日 時】10月20日(日)14:30〜16:00(開場14:00)
【場 所】紀伊國屋書店札幌本店 1F インナーガーデン
北海道札幌市中央区北5条西5-7 sapporo55 1F(011-231-2131)
【ゲスト】小泉逸郎さん(北海道大学大学院 地球環境科学研究院 准教授)
【聞き手】聞き手:北海道大学 CoSTEP 対話の場の創造実習 受講生
【参加費】無料
【定 員】80名(申込み不要)
【主 催】北海道大学高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター
科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP・コーステップ)
【後 援】札幌市教育委員会
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