意外と知られていない、北海道大学の電波望遠鏡について、徂徠和夫さん(理学研究院 宇宙理学部門 准教授)を理学部2号館に訪ね、話をうかがいました。
どこにあるのですか
苫小牧に研究林があります。北大の北方生物圏フィールド科学センターの苫小牧研究林です。
そこの小高い丘の上に電波望遠鏡のパラボラアンテナがあります。
通信総合研究所という、現在の情報通信研究機構の前身が、神奈川県の三浦に持っていた直径11メートルのアンテナを譲り受けて、2001年に、ここに設置しました。
もともとは、波長が15センチと3.75センチの電波を受信するアンテナだったのですが、それを今は、波長1.4~1.2センチの電波を捉えるために転用しています。
なぜ苫小牧に
札幌キャンパスも含め、いくつかの候補地を検討したところ、苫小牧がベストだったのです。
電波望遠鏡にとって、大気中の水蒸気は大敵です。天体からやって来る電波が水の分子に吸収され、弱まってしまうからです。その点、冬の北海道は好適です。パチパチと静電気で悩まされるように、空気が乾燥していますから。
ただ、空が晴れていないといけない。そうなると太平洋側です。そんなとき苫小牧の研究林が、土地を貸してくれるなど歓迎してくれたのです。
(いまの研究林、しばらく前までは、演習林と呼ばれていました)
雪も大敵です。アンテナに雪が積もるとグシャっとなるので、雪が降るとアンテナを風下に向け、ひたすら耐える。晴れたら、アンテナを太陽に向け、雪を溶かします。降っていなくても、雲があれば、観測には適さないですね。この点でも、苫小牧は雪が少なくて良いのです。
何を観測するのですか
宇宙では、あちらこちらで新しい星が誕生しています。ガス状の物質が次第に集まって、やがて星になるのです。
電波望遠鏡では、そうした星が、星として光り輝く前の状態、やがて星が誕生するかもしれない、低温のガスが集まっている状態を見ることができます。ガスの分子が出す電波を捉えることで、その様子がわかるのです。
私自身はこの望遠鏡を使って、天の川銀河の中にある、星が生まれやすいところと生まれにくいところを比較して、ガスの温度などがどう違うか調べてきました。
苫小牧は、札幌から遠くてたいへんでは
基本的な操作はすべて、札幌キャンパスのこの部屋からできます。
アンテナは、自分自身の重さで変形しますし、風の影響でも形が変わります。その効果を補正したうえで、目的の天体を追尾するよう、コンピュータに指示を出します。雨がふったり雪が降ったりすれば、観測をやめる必要があります。こうしたことはすべて、ここからリモート・コントロールできるのです。
そのシステムはすべて大学院生が作りました。教員と学生あわせて数人という小さなグループで、これだけのシステムを作ったのはすごいと、他大学の研究者から言われます。
データは、苫小牧の現地で簡単な処理をしたあと、高速ネット回線でここに送られてきます。
アンテナ、動かしてみましょうか…
うわー、速いですね
1秒間に、角度にして3度くらい動きます。
これは「観測ログ」です。何時何分から何分まで、こういう名前の天体を観測しましたよ、という記録です。観測データはすべてDVDで保存しています。
苫小牧は夏に晴れないので、7月には観測を止め、10月に再開します。観測している9カ月間の望遠鏡の稼働率は、8割ぐらいでしょうか。
今もかなり自動化できているのですが、さらに進めて、「きょうはこの天体を観測する」と決めてセットしたら、風が吹いたり雪が降ったりと気象条件が変わっても自動運転するシステムを大学院生が開発してくれました。あさって現地に行って、それをテストします。
いっしょに行きますか? アンテナにも登れますよ。
(リモートコントロールのシステムを作った、大学院生の南原甫幸さん)
※ ※ 取材後記 ※ ※
徂徠さんの最後の言葉に、取材陣は小躍り。
次回は、電波望遠鏡のすべてを、現地からしっかりご紹介します。
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