斬新な構造で存在感を示す“建築都市スタジオ棟・オープンラボ”。「建築の仕事をしている人間はみなオープン。世界中どこの建築事務所を訪ねても言えますが、入り口に鍵なんてかけません。建物を見学したいという訪問者は誰でもウェルカムなんです」。小林英嗣さん(北海道大学名誉教授)に建物の内部を案内してもらいました。
エントランスホールにはラテン語の文字プレート、FIRMITATIS(構造)、UTILITATIS(機能)、VENUSTATIS(美しさ)が飾られています。古代ローマの建築家ウィトルウィウスが考えた、優れた建築を作り上げる三つの概念です。
母屋の1階が3年生、その上の2階が4年生・大学院生のためのスペースです。
「階層の違いはありますが、フロアを仕切るような壁はなく、学部生という短いステージでも互いの成長を感じあえる空間設計を心がけました。建築とは集団で作業するものです。若いときからそういう環境に慣れてほしかったのです」
吹き抜けのセミナースペース「MUTSUMIホール」。学内にも広く開放しています。最近ではロックバンドによる演奏会も開かれたそうです。
開放部分が広い建物内の温度管理にもこだわりがあります。年間を通して温度が安定している地下にダクトを埋設し、外気を取り込んで地中と熱交換し冷 却・加熱するシステム(クールチューブ)を利用。夏は自然換気、冬は電気によるヒーティングも加えながら室内環境を調整します。
ストーブは11月中旬から3月まで使用できます。薪はキャンパスから集めてきた枯れ木。レクチャーの後(時にはお酒を酌み交わしながら遅くまで)語り合うための雰囲気作りにも一役買っているそうです。
壁面は無機質なコンクリートですが、木目調の表面加工によっておもしろい味わいが生まれます。
階段部分の壁は桂離宮の茶室にある大きな一松模様をモチーフに仕上げてあります。日本の伝統建築の技を知識として吸収できます。
天井にはグラスウールという音を吸収する素材を使用。コンクリート仕上げのままでは音が反射してノイズとなってしまうのでそれを防ぐ効果があります。
「建築でも、材料選びには気を遣います。食べ物の地産地消やフードマイレージという考え方と同様に、マテリアルマイレージを意識しました。床のタイ ルは札幌軟石です」。札幌軟石(さっぽろなんせき)とは北海道の石材で、軽く保温性が良いことから開拓時代の主要建造物の資材として広く使われていました。
「職人の技を生かし続けることも建築の役割です。このカウンターは細かい大理石とセメントを混ぜて、最後に表面を磨いて仕上げたものです。昔、流し台で使われていましたよね。職人さんが一人で磨き上げることができる最大の大きさだと思います」
全体の統一感を保ちながら材質を変える。または、同じ材質でも加工や表面の仕上げに変化をつける。ガラスとコンクリートの空間に様々なアクセントが施されていました。
《次回につづく》
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- 【チェックイン】#16 キャンパスの中央に佇むガラスの現代建築(1)(2012年11月30日)