「いいね!Hokudai」にて紹介した二代目恵迪寮の材木を用いた木彫りの熊。この木彫りの熊を制作した荒木繁さんに、荒木さんの自宅にある工房にてインタビューしました。当時の北大生や北大の先生と荒木さんとのやりとりなどの制作の経緯を伺っていると、荒木さんがお家からアルバムを持ってきてくれました。「あっ、この木材……これがその熊だな!」と荒木さん。そこにはなんと恵迪の木彫り熊をまさに制作している写真が! 写真をきっかけに当時の記憶をたどっていきましょう。
【原 健一・CoSTEP 博士研究員】
この写真の木材が二代目恵迪寮のもので、まさしく恵迪の木彫り熊を制作中なんですね。どういう経緯で荒木さんに木彫りの熊を彫る依頼がきたのでしょうか。
「サランベツ」って居酒屋まだあるのかな? そのサランベツに、北大の先生とか恵迪寮の学生とかもいろいろ通っていて。そこのマスターに、取り壊した恵迪寮の木材で何か作って欲しいって話があるからどっかの事務室に行けって言われたの。
それは恵迪寮を壊す前ですか?
壊した後。もう材料があって、恵迪寮の卒業生で木材を使いたい人を募集してたんだ。なんか記念品をつくるってなって、記念品なら木彫りの熊とかがいいんでないかって。木材をもってく人もいたんだけど、まだ材料が余っていて、それを家まで持ってきてくれたんだわ。ちょうど北大の農場のすぐそこにおれの家(工房)があったからさ。
どれほどの量を、どのくらいの期間でつくったのでしょうか? 10体くらい作ったと伺いましたが…。
いや、10じゃきかない! 50体くらい作ったよ。期間は4か月くらいかなぁ。二回か三回に分けて作った熊を持って行った記憶があるから。
50体とは驚きです! ずいぶん大きな木材だったんですね。木材は二代目恵迪寮のどの部分を使用されたのでしょうか?
大きい熊には大きい梁の部分を使って、小さい熊には小さい柱の部分を使った。大きいのを二種類と小さいのを一種類作ったつもりだったんだけど……この写真の四つ足の小さな熊を作ったのは、おれも全然もう記憶になくて、けろっと忘れてたわ(笑)
ぜんぶで四種類の熊を作られたんですね。作成で苦労された点などを教えてください。
木材がすごい硬かったの。特に枝の節があるところが石みたいにすごい硬い。削っていたらノミもかけちゃったりしてたいへんだったんだわ。なるべく多くの熊を恵迪寮の材木から彫ろうと思ったんだけど、大きな枝の節のあるところはできるだけ避けて作ったの。
大きい方の熊に口が開いているものと閉じているものがあるでしょ。口の開いているところに悪い木材を使うと割れちゃって、顎が外れたりなんかするんだ。顔のところが割れたらもう売り物にならない。だから、口開いているやつにはいい木材を使っているんだわ。
なるほど。こちら(上の写真)は口が開いているバージョンですね。私が恵迪寮同窓会事務室で見つけたものは口が閉じているバージョンでした。どれも黒く焦げ目がついているので焼いて加工しているようですね。
そう。材木が硬くて細かく削ることができなかったから、毛並みを彫ることができなかった。だから、ノミで削った痕とバーナーの焼きでもって木目を出してインパクトを出そうとしたんだな。バーナーで焼いてから口の部分を開けるから、口のところは白いわけさ。焼くと飛び出ている部分が黒くなって、彫った深いところが白くなるからね。
恵迪の木彫り熊は全国に今も散らばっているんですね。あげたひとで印象に残っている方はいますか。
恵迪の熊は最後の一体がおれの手元に残ってたんだ。で、昔「ゆうばり」っていう居酒屋があって、そこにいた人にあげたんだよな。「ゆうばり」のマスターが北大の出身で、たしか……沖縄出身の北大の先生にあげたな。「ゆうばり」でおれが飲んでたら、その北大の先生がいて、「恵迪寮の木材使って彫った熊がある」って言ったら、「売って欲しい」って言われたんだ。で、小さなやつをプレゼントしたんだわ。アイヌのことに興味がある先生だったな。
恵迪寮をはなれて日本各地へと旅立って行った恵迪の木彫り熊。荒木さんのお話しから伺えるのは、大きいタイプが二つ、小さいタイプが二つの計4タイプの木彫り熊が50体ほど日本全国にあるらしいということです。恵迪寮同窓会にあったのはそれらのうち二種類だったんですね。「サランベツ」や「ゆうばり」といった居酒屋が登場するなど、私の知らない北大周辺の記憶に触れることもできました。もしこうした居酒屋や恵迪熊の情報があればぜひコメント欄にお願いします。
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