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#144 エキノコックスだけじゃなかった!~キツネへの「餌付け」がもたらす弊害とは~

札幌市は、大きな都市でありながら自然に囲まれた豊かな街です。その恵まれた環境のせいか、市街地でもキタキツネに出会う機会が多くなってきました。こうしたキツネは「アーバンフォックス(都市ギツネ)」と呼ばれ、私たちの目を楽しませてくれますが、一方で、人間社会とのさまざまな軋轢を生んでいるといいます。北海道でアーバンフォックスについて研究している池田貴子さん(北海道大学高等教育推進機構CoSTEP 特任講師)にお話をききました。

(自動撮影カメラを設置する池田さん)
キツネはいつ頃から街にやってくるようになったのでしょうか?

1970年代のイギリスで最初に確認され、1980年代にはドイツやスイスなどヨーロッパ各国で見られるようになりました。札幌市では1990年代ごろから顕著になったといいます(浦口 2015)。私が札幌に引っ越してきた2004年には、農地や川沿いなどちょっとのどかな場所では必ずキツネの姿を見るようになっていましたね。今ではさらにキツネの都市化がすすんで、時間帯によっては本当に住宅地の中でみかけることもしばしばです。

(札幌市の環状通で何かを食べるキツネ。疥癬に感染している。2021年3月5日早朝撮影。 ※疥癬については後に詳述)
キツネが街にやってくるようになったのは、山を追われたからなのですか?

いいえ、キツネはもともと人里離れた山奥にしかいないわけではなく、むしろ山と街の間にある里山の環境を好む動物です。都市開発がすすむなか、ある日、里山からちょっと足を延ばして街に降りてみたら住みやすかったので、一部の個体群が好んで住み着き、代々街で暮らす家族が増えていったのだと思います。

動物にとって住みやすさの絶対条件とは、餌が十分にとれること、安心して子どもを育てられること、の二つです。札幌は大きな街ですが、広い河畔林やパッチ上に存在する農地や都市公園など、キツネにとって住みやすい環境が整っているのだと思います。

 

キツネといえば北海道民にとってはやはりエキノコックスが気になりますね。札幌のキツネにも気を付けた方が良いのでしょうか?

そうですね。1997年に札幌市街地で調査したキツネの家族のうち、半分以上がエキノコックスに感染していたというデータがあります(Tsukada et al. 2000)。すべての個体が感染しているわけではありませんが、キツネに近づいたり触ったりするのは危険です。アーバンフォックスといえども野生動物なのでそうそう触らせてはくれませんが、中には餌付けされてむこうからじりじりと間合いを詰めてくるような個体もいます。かわいいからと手を出すのはやめておいたほうがよいです。(エキノコックスとキツネの関係や感染予防法についてはこちらの記事を参照)

(人の姿を見つけて近寄ってくるキツネ)
観光地では餌付けされたキツネが車に近寄ってきたりしますよね

知床の「観光ギツネ」は一時期有名になりましたね。車道の脇で車が通るのを待ち構えていて、車の窓から投げられたお菓子などをねだるキツネです。それだけなら可愛くて良いのですが、キツネは非常に適応能力が高く、人間との距離をギリギリまで詰めるのが上手ですから、その距離の近さがどんどんエスカレートしていってしまう可能性があります。つまり、人間を恐れないキツネが増えていってしまうわけです。札幌でも、キツネに対して餌やりをする人が一定数いて、問題になっています。

(誰かがキツネのために置いていった食べ物。ドッグフードや唐揚げ、ウィンナー、ビーフジャーキーなどが樹の根元にまかれている)<写真提供:月寒公園>
キツネへの餌付けは、何が問題なのでしょうか?

一つには、塩分や油分の多い人間の食べ物は動物にとっては体に悪いですし、ドッグフードのようなイヌの健康に配慮されたものでも、食べ過ぎれば肥満になります。

もう一つは、キツネを人間の行動域の中に定着させてしまうことになるので、キツネから人間にエキノコックスが感染する危険性が高くなります(詳細はこちらの記事を参照)。

さらに、キツネの行動を変化させてしまう危険性があります。本来は狩猟採集の能力を身につけた者だけが生き残れますが、労せずして餌が手に入ってしまうとその能力が失われてしまいます。人が餌をやらなくなったら生きていけないキツネが増えてしまうのです。また、なかには、人に馴れすぎて攻撃的な行動を示す個体も現れ、数年前に札幌のある地域で問題になりました。

ですが、私がここ1~2年で一番問題だと思っているのは、キツネの間で「疥癬」という病気が流行する恐れがあるということです。札幌のある地域では餌付けが常態化しつつあるのですが、キツネの数も疥癬にかかった個体の数も少し増えたような感触があります。

(疥癬に感染したキツネ。激しい痒みのために、常にどこかしらを掻く様子をみせる。この個体はこの一か月半後に死亡した)
「疥癬」とはどんな病気ですか?

ヒゼンダニというダニが皮膚に穴を開けてトンネルを掘り大量に寄生する、という聞くだにぞっとする病気です。重症化すると、だんだん全身の毛が抜けて皮膚がひび割れ、そしてとても痒いそうです。体をかきむしるので傷口から細菌に感染することもあります。私が観察した事例では、ほとんどの個体が死んでいきました。動きもかなり鈍くなるので、餌を捕るのも難しいはずです。

(北見市にて撮影。疥癬は接触によって感染する)

ですが、餌付けによって簡単に餌が手に入ってしまうと、疥癬に感染した個体が通常よりも長く生きながらえます。良さそうにきこえますが、他の個体に疥癬をうつすリスクが上がってしまうのです。厳しい話ですが、疥癬にかかって重症化した個体は、静かに淘汰されていくべきなのです。

ちなみに疥癬は、イヌやネコや鳥、そして人間にも感染します。キツネからうつるリスクはいかほどかわかりませんが、ゼロではないです。

餌付けは、誰にとっても良いことはないのですね。

そうですね。親切な人が良かれと思って餌を置いて行ってくれるのだと思いますが、実はかえってキツネの生き辛い環境を作ってしまっているのですね。可愛いですし気持ちはとってもよくわかります。私も子供の頃は野良猫や野鳥に餌をやっていましたし。ですが、近年の研究によって野生動物の餌付けが多方面に悪影響を及ぼすことがわかってきました。彼らは勝手に生きる力を持っているので、遠くから愛でるぐらいの距離を保っておくのがお互いのためには良さそうです。

札幌は、大きな都市でありながら近くに野生動物が生息する素晴らしい街です。せっかくの面白い環境ですから、ほどよい距離感を保って、末永く良い関係でいられたらいいですね。

 

 

池田さんは、札幌市月寒公園との協働で、キツネとのほどよい付き合い方を簡単に知ることができる動画を制作しました。こちらもあわせてご覧ください。月寒公園のwebサイトからもご覧いただけます。

「コンだけわかればいいっしょ ~キツネとのつきあいかた~」
声の出演    金 由貴子(ツキコ)、小林 嶺(コン太)
撮影      早岡 英介
取材      石川 芳夏、藤田 諒子
イラスト    林 悦子
監修・デザイン 池田 貴子
企画・制作   北海道大学CoSTEP、月寒公園パークライフコンソーシアム

この動画は科学研究費助成事業(課題番号:JP19K14339, 研究代表者:池田貴子)の助成により制作されました。
©Hokkaido University CoSTEP. Tsukisamu Park. 2021.  All rights reserved

 

参考文献:

  • Tsukada, H., Morishima, Y., Nonaka, N., Oku, Y., and Kamiya, M. 2000: “Preliminary study of the role of red foxes in Echinococcus multilocularis transmission in the urban area of Sapporo, Japan”, Parasitology, 120, 423-428.
  • 浦口宏二 2015: 「市街地に出没するキタキツネの実態とエキノコックス症」『森林野生動物研究会誌』40, 45-49.

 

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2021.04.19

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