北海道大学札幌キャンパスを訪れた人は、その広さと緑の豊かさに目を奪われるでしょう。北大構内の草木は一体何種類あるのでしょうか。そこに生えている小さな花の名前が分かったら、キャンパスの「緑」の見方も変わります。首藤光太郎さん(北海道大学総合博物館 助教)が行なっている構内の植物採集に同行しました。
4月中旬から5月初旬の札幌は、本州よりも少し遅れて春咲きの花々が姿を現す一方で、天候次第では小雪が舞い、日や時間によって気温も日差しも猫の目のように変わります。キャンパスの草木も、ふと気づくと緑が濃くなり、咲く花が変わり、毎日見ていても見飽きることはありません。そんな季節の北海道大学札幌キャンパスで植物を採取しているのは、首藤光太郎さん(北海道大学総合博物館 助教)。首藤さんは総合博物館のボランティアの方々と協力しながら、札幌キャンパスの植物を採集し標本作りを行っています。
アキタブキ、ミズバショウ、キバナノアマナ、ニオイスミレ…。植物採集に同行して、4月のキャンパスを少し歩くだけで、たくさんの花が咲いていることに気づきます。一つひとつの花の名前を知ることで、これまで「草花」と見えていたものの粒度が変わってきます。葉の形や茎の高さ、花弁のつき方といった形態の違いにも目がいくようになります。見慣れたキャンパスにもかかわらず「学舎の片隅にこんな可憐な花が咲くんだ」と新たな発見がありました。
首藤さんは採取した植物を手際良くそして丁寧に整えながら「100年後でも標本は残る」と語ります。その言葉は首藤さんが専門にする植物分類学の知見が、先達たちの積み重ねてきた資料や標本の蓄積に依拠していることへの感謝の気持ちでもあり、また、首藤さん達が今作っている標本が未来へと継承されていくことに対する自負であるとも感じました。
北海道大学総合博物館3階にあるのは「収蔵標本の世界」です。そこでは博物館に保管されている約300万点の標本・資料が展示されています。首藤さんが計画しているのは、春から秋にかけて北大に咲く花を採取し標本にまとめ、総合博物館を訪れた見学者が実際に手に取ることのできる展示を作ることです。キャンパスを訪れて目にとまった植物の種類や名前を、博物館の標本を使って自分自身の手と目を使って確かめることができたら、それは素敵なことなのではないでしょうか。
残念なことに、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い総合博物館は5月の連休中から休館となりました。そして植物採集の後、2021年5月14日、北海道に緊急事態宣言が出され、同日新型コロナウイルス感染拡大防止のための北海道大学の行動指針(BCP)がレベル3(制限大)となりました。授業は原則オンラインとなり、関係者以外の大学構内への立ち入りも強く制限されています。今は、ガイドブックを片手に、新緑の札幌キャンパスを散策することはできません。
しかし、いつかきっとこの感染症も収束する時期を迎えるでしょう。その時は是非北海道大学のキャンパスを訪れ、足下の小さな花ばなに目を向けてみてください、そして総合博物館に足を運び、北大の研究の蓄積を感じて欲しいと切に願っています。そして、少し先の時代において、今この時期に制作された植物標本が、コロナ時代のアーカイブの一つとしての意味を持ち「こんな時もあった」と述懐できるときが来ると信じています。
首藤光太郎さんをゲストにお招きしたサイエンス・カフェ札幌を開催します。
【タイトル】 第117回サイエンス・カフェ札幌「この花の名は。~北海道大学の植物分類学の歴史から〜」
【日 時】 2021年6月13日(日)10:00~11:00
【場 所】 オンライン配信(YouTube Live)
【参加方法】 右のURLよりご参加ください https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/event/16750