2021年6月、北海道大学附属図書館医系グループが国立大学図書館協会賞を受賞しました。川村路代さん(附属図書館研究支援課医系グループ歯学部図書担当)と、河野由香里さん(同医学系図書担当(保健科学研究院))に、受賞対象となったシステマティックレビュー作成支援事業についてお話をうかがいました。
国立大学図書館協会賞の受賞おめでとうございます。最初にこの賞について聞かせてください。
川村: 国立大学図書館協会は、全国86の国立大学、放送大学および5つの大学共同研究機関、計92の図書館を会員とする組織です。国立大学図書館協会賞は、図書館活動あるいは研究活動に顕著な業績を挙げた、会員の図書館に属するグループおよび個人を対象に年1回授与されます。北大附属図書館としては1985年(昭和60年)に次ぐ、36年ぶりの受賞となります。
次にお二人が所属している附属図書館医系グループについて教えてもらえますか。
河野: 附属図書館には研究支援課があり、その下部組織として部局ごとの図書室を束ねる6つのグループがあります。医系グループはその中の一つで、医学部図書館、歯学部図書室、薬学部図書室、保健科学研究院図書室をまとめています。
今回の受賞対象となったシステマティックレビュー作成支援事業とは、どのようなものなのでしょうか。
川村: システマティックレビューとは、あるトピックに関するこれまでの研究成果をもれなく収集・評価し、一定の結論を出す研究手法です。レビューの成果は診療ガイドラインや医療政策の根拠に用いられます。医系グループに所属する図書館員の私たちは、医療系の専門データベースから研究成果を網羅的・系統的に検索・収集することで、システマティックレビューを行う北大の研究者の研究支援を行っています。システマティックレビューを作成するためには、数千件から多い時では1万件を超える文献を収集することが求められます。
そんなにたくさんの文献を集めるために、具体的にはどのようなことを行っているのでしょうか。
河野: データベースから必要な文献をもれなく、そして効率よく探し出すためには、シソーラス用語を用いた検索式が欠かせません。シソーラス用語とは、同義語・類義語をまとめ、語句の関係性を整理したデータベース検索のための用語です。検索式とは複数のシソーラス用語を組み合わせたもので、検索範囲を広げたり絞り込んだりするために用います。私たち図書館員はシステマティックレビューを行う研究者の相談を受け、レビューに必要となる検索式の作成や提案を行います。必要な検索式を作る際に、図書館員は医学の専門家ではないので、テーマを確認するためのリサーチから始めます。そして試行用の検索式を作り、その結果を研究者と一緒に確認しながら、検索式をブラッシュアップしていきます。その作業には約1カ月ほどかかります。
図書館員が文献検索の専門家として、研究者と二人三脚で検索式を作っていくのですね。
河野: 支援事業では、2020年9月時点で、8件のシステマティックレビューや診療ガイドラインの作成に協力しました。その成果の一部は学術論文や学会報告にまとめられ、支援に携わった図書館員が共著者に名を連ねています。これまで図書館員の専門性が表立って評価される機会は多くありませんでした。今では、システマティックレビューを作成する際に、文献検索の専門家をチームに入れることが求められるようになってきています。この受賞を機会に、図書館員が医学研究に協力していることを多くの人に知ってもらえたらうれしいです。
同じような取り組みは他の国立大学図書館などでも行われているのでしょうか。
川村: 単発的に個人の図書館員が文献検索を手助けするようなことはあるかもしれません。しかし、北大のように、組織的・体系的に支援体制を整えた図書館は、他に例をみないのではないでしょうか。システマティックレビュー支援事業は、大学の研究と図書館員の専門性を結びつけた全国的にも珍しい取り組みです。先行事例がないので支援の仕方も、研究者の方と一緒に走りながら学んでいきました。そうしなければ新しいことはできないと思っていたからです。
システマティックレビュー作成支援事業は、北大附属図書館ならではの取り組みなんですね。最後に今後の抱負を教えてください。
河野: 私たちは研究者から声をかけられたらいつでも協力していきたいと考えています。
川村: 一緒に仕事ができる機会があったらどんどんいく「能動的に待ち受ける」そんな気持ちで仕事に臨んでいます。そのために、今後も、研究者の方とコミュニケーションをとりつつ、実績を積むことで信頼関係を深めて行きたいです。