10月に先端テクノロジーによる価値創造を目的とした交流の場 NoMapsが札幌で開催されました。そこで本学の鈴木湧登さん(工学部4年)が、合気道の体の動きをAR(Augmented Reality; 拡張現実)を用いて学ぶワークショップを行いました。鈴木さんにARと合気道を融合させたアイデアについてお話をうかがいました。
鈴木さんが所属している研究室について教えてください。
私は、工学部 情報理工学コースにある、ヒューマンコンピュータインタラクション研究室に所属しています。そこでは人間とコンピュータの相互作用の研究が行われています。私たちの身の回りにはパーソナルコンピュータやスマートフォンだけではなく、モノのインターネットと呼ばれるIoT(Internet of Things)を備えた家電やロボットなど、様々なコンピュータ機器があります。人間がそれらに指示を入力し、出力された結果を受け取ることが、人間とコンピュータの相互作用です。このやりとりをシンプルで効率くするための装置や空間デザインの工夫について研究をしています。
具体的にはどういうことですか。
例えば、スマートフォンでは脇についているボタンを押すことで、音の大きさの指示を入力し出力される音量を調整します。でも仮にボタンに触れずに、指をスッと動かす動作をカメラで読み取って音量操作ができれば、もっと使いやすくなりますよね。コンピュータが登場してまだ100年経っていません。今一般に行われている入出力の操作が本当に効率的なのかは考察の余地があります。そのようなことを含めて、理想のインタラクションを追求しています。
ARと合気道の組み合わせがユニークだと思いました。アイデアの発想の源はどこにあったのですか。
私は北大に入学してから、武田流中村派の合気道を始めました。合気道は体捌きに特徴がある現代武道です。その独特の体の動きができるようになるまでに1年ほどかかりました。例えば組んだ相手を力まかせに押しても相手は動きません。でもこうやると……。
あ、押されてしまいます!
これが合気道の体の使い方なんです。新入生の時は動きを教わる側だったのですが、学年が上がると今度は教える側になります。教える立場になって「こうやるんだよ」という時の「こう」で示す体の使い方が、なかなか言葉では相手に伝わらないことに悩みました。「目の前にあるボールを掴むつもりで」といってもイメージしづらいですよね。そこで、ARを使うことで視覚的に体の動きを伝えたらうまくいくのではないかと考えました。
私もNoMapsで体験してみました。合気道全く知らない私でも、ゴーグルをつけてARで見えているボールを追う動きで相手を押せた時には驚きました。
AR合気道は、コンピュータを介した人と人とのインタラクションの一つです。このARの開発には苦労しました。テストしてもうまくいかなかったケースもたくさんあったんです。NoMapsのワークショップではテストを行って手応えがあったものを出展しました。一般の人が使って効果があったのを知ったことは、嬉しかったですし、自信になりました。
このARによる合気道の実践は「未踏IT人材発掘・育成事業」によるものでした。
「未踏事業」とは、情報処理推進機構が行っているITを使ってイノベーションを創発できる人材を発掘・育成するプログラムです。今年の3月に「合気道の体の使い方の習得を支援するソフトウェア群の開発」を「未踏IT人材発掘・育成事業」に応募しました。そこで130件の応募の中から採択された21件のプロジェクトの1つに選ばれました。開発費の他に、プロジェクト・マネージャーの東京大学の先端科学技術研究センターの稲見昌彦先生から開発についてのアドバイスをいただいています。北大では、研究室の先輩方のプロジェクトが代々選ばれています。
今後の開発の展望について教えてください。
ARを使って習得できる、合気道特有の体の使い方の種類や精度を上げていくつもりです。これはまだ誰も行っていない新規性のある試みだと考えています。また、今使っているARのデバイスは高価なので、より安価なVRのデバイスを使うことで多く人が、AR合気道を体験できるようにしていきたいと考えています。