北海道は都道府県別ジェンダー・ギャップ指数が最下位という大きな課題を抱えています。各地域、それぞれの事情があり、ジェンダーの問題は一律に比較できないとはいえ、多くの女性が北海道で特有の悩みや課題を抱えているのでは、と推察されます。今回は、ジェンダーダイバーシティに取り組む北大CoSTEPの朴炫貞さん(CoSTEP 特任講師)と北海道にある札幌青少年女性活動協会が主催するジェンダーコレクティブ北海道のメンバーでもあり、HTBのアナウンサーの森さやかさんが、札幌での取り組みについて語り合いました。

CoSTEPが取り組むジェンダーダイバーシティとは?
ーー森 CoSTEPもウェブサイトを拝見しますと、ジェンダーダイバーシティに関するたくさんの取り組み をされていますね。
ーー朴 私たちはDEI全体に取り組んでいます。DEIとは、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、 Inclusion(包摂性)の頭文字を取った略語で、これからの多様で公平な社会について、科学技術コミュニケーションの観点から教育、実践を行っています。
例えば、昨年は韓国より作家でありパフォーマーでもあるキム・ウォニョンさんをお招きし、「アクセシビリティを想像し具体化するためのいくつかの実践と概念」というテーマでお話いただきました。キムさん自身は先天性の疾患のため車いすで生活していますが、アクセシビリティがルールで平均化されるものではなく、一人一人のニーズに寄り添う想像力と実践の中の営みであると語られました。

CoSTEPでも、この考え方に賛同しています。ジェンダーダイバーシティについても、なにか理論やルールで定義するのではなく、それぞれの多様なニーズや想いに寄り添いたいと思っています。
ーー森 幅広くやってこられると切り口も多様化と思うのですが。
ーー朴 私はアートを専門にしています。私たちの取り組みは直接、何かの問題解決にはならないかもしれませんが、意識づくりだったり、アクションを起こすヒントになるような活動になるよう心掛けています。また意識と実践をつなぐような役割を、CoSTEPは担っているのかなと思っています。
例えば、今取り組んでいる活動にプレコンセプションケアがあります。プレコンセプションケアの正式な定義は、受胎前の女性やカップルの健康に関する医療的な情報提供です。しかし私たちは、妊娠や出産を前提とした情報として強く伝えるアプローチは取っていません。私たちはワークショップを通して、これから起こるであろうライフイベントについて、若いうちから想像し、少しだけ自分の気持ちや意識を向けていくというきっかけを作っています。
これは私たちが高校生向けに作った「しあわせなしあさって」というワークショップです。架空のカップルの忙しい30代のライフイベントのいくつかを20代にお引越しするというワークショップです。ただ、高校で実践したところ、高校生は架空のカップルのライフイベントは引っ越せるけど、自分ごととなると、20代は遊びたいなど、本音が出てきていました。こういう理想と現実も、ざっくばらんに話していきたいなと思っています。
ちょうど、7月31日にも高校生から大学生向けのワークショップを開催予定です。話しにくい話だからこそ、気軽に参加してもらいたいなと思っています。

北海道ジェンダーコレクティブとは
ーー朴 北海道ジェンダーコレクティブという活動を森さんは行っているそうですね?
ーー森 私自身はHTBというテレビ局のアナウンサーをしています。そこで地域と子どもとか、地域と女性とか、そういう目線で番組を作ってきました。それがきっかけで、北海道のジェンダーダ課題に取り組むジェンダーコレクティブ北海道にお声がけをいただきました。

北海道はジェンダーダイバーシティについてはとても課題が多いです。例えば、北海道は都道府県別ジェンダー・ギャップ指数は全国最下位です。例えば四年生の大学進学率の男女比や行政の管理職の男女比が男性に偏っているという点が低評価につながっています。また若者の道外の転出も、北海道は女性が男性の27.3倍も流出しています。
理由を調べていくと、大学進学のタイミングと就職活動のタイミング、あと結婚などのライフステージっていうタイミング、この3つのタイミングで女性は道外に出ていくようです。その背景には、北海道に自分のキャリアを活かせる、キャリアができる職がない。女性の流出は人口減少にもつながります。そのため道内企業や行政も非常に危惧しているんです。
ーー朴 確かに、かなり深刻ですね。
ーー森 ジェンダーコレクティブ北海道はシャネル財団からの支援を受けて、札幌青少年女性活動協会の主催で行っているプロジェクトです。私のように民間企業のメンバーから、協会のメンバーまで、多様なメンバーで構成されています。昨年はロジックモデルを作成したのですが、今年はジェンダーダイバーシティに取り組むロールモデルを表彰したり、一般の方から身の回りのジェンダー課題に気づくきっかけとなるショート動画や写真を募集するコンテストを開催予定です。
ーー朴 へー。ジェンダー課題に気づく動画や写真ってどのようなものなんでしょうか?
ーー森 例えば、私たちは普段気にしていなかったけど、コンビニエンスストアにたくさんセクシーな雑誌が並べてありましたよね。あのような設置は、海外の人から見るとびっくりするようです。そのように自分たちの小さな違和感や、日常の気づきをシェアしてもらいたいなと思っています。
ーー朴 素敵な取り組みですね。ただ、ショート動画や写真での伝え方はもしかすると、誤解を生んでしまうかもしれません。またその発信が誰かのダイバーシティを阻害していないかという配慮も必要です。
韓国に脱コルセット運動っていうものがあります。要はコルセットを脱出するっていう意味です。韓国は美容に対する意識がすごく強く、その意識は社会的な圧力から生まれているところもあります。脱コルセット運動はそれに反対して、これまでのステレオタイプな美からあえて逸脱していく運動です。例えば、ショートカットにしたり、中性的な服装に移行したりという表現があります。ただこの運動にも異論があって、たまには可愛いスカーツたまに履きたいし、ロングの方が楽だから髪を伸ばしているという女性もいます。脱コルセットの運動が新たなステレオタイプを生まないかという配慮は必要です。
ーー森 そうですね。応募時にそのメッセージを伝えるのは必要ですね。そして私たちもジェンダーダイバーシティについて理解を深めながら、皆さんと一緒に学びながら進めていきたいと思います。
分かりやすさ、気軽さだけでなく、発信するメッセージが次のダイバーシティを生み出すような、そんな広がりが大切ですね。大学での取り組みと、私たちの取り組みを交差させる意味もそこにあると思います。これからもよろしくお願いします。
SCARTS×CoSTEPアート&サイエンスプロジェクト 時間展望-もっと先の自分へ Part2
日時 2025年7月31日(木)14:00~17:00(開場:13:30)
会場 札幌文化芸術交流センター SCARTS SCARTSモールC
定員 16名(事前申込制・先着順)
対象 学生(高・大・専門)※学生向けですが、対象以外の方もご参加いただけます。
詳細 https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/event/33896
ジェンダー・ダイバーシティ・アワード NEWRAIL
身近なジェンダー課題を可視化し、選択肢と可能性を広げるためのアクション。
▼募集内容▼
ジェンダー課題解決の事例を募集するアクション部門、ジェンダーの気づきを促す動画・写真コンテスト部門の2つの部門を募集します。
≪アクション部門≫
ジェンダー課題解決のために行なったアクションを募集します。会社や団体、学校や地域などで、行っている取組みについてご応募ください。
≪動画・写真コンテスト部門≫
身近なジェンダー課題に気づいたシーンを募集します。ジェンダー課題に気づかされるような場面や光景をぜひ写真、動画、音声、…などでご応募ください。
・エントリー受付:2025年8月1日(金)〜10月31日(金)※必着
・選考 :11月中
・表彰イベント :2025年12月10日(水)13時30分〜16時