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#14 あの黄色い一冊に込められた想い

北大構成員の必読書「安全の手引」。新入生のオリエンテーションや年1回の安全講習の際にも用いられる、北大の安全衛生教育を支える教材です。今回の記事では、その執筆や改訂に大きく携わっている川上貴教(かわかみ・たかのり)さんから伺った話をお届けします。2011年3月11日に起こった東日本大震災から11年となる今日、あの黄色い冊子に込められた考えや想いに触れてみませんか?

(川上さん(安全衛生本部 教授)と最新版の安全の手引。安全衛生本部は、2011年3月に設置された、北大全体の安全衛生管理の企画・立案や監督等を行う組織です)

【梶井宏樹・CoSTEP博士研究員】 

まず、安全の手引について教えてください。

北大の構成員全員に身につけていただきたい安全の基礎がつまったものです。つまったとはいっても、「あれも必要だ!」「これも必要だ!」となんでもかんでも入れているわけではなく、「身分や専門分野に関わらず最低限抑えておいて欲しいこと」だけをコンパクトにまとめています。その点で、「北大の安全に関することを全部入れる」という考えで作っていた以前のバージョンと比べると、みなさんに現在お渡ししているものは大きく変わりました。

(初版(左)と2019年に全面改訂した現在の第2版(右)。情報量や構成が大きく変わっていることがわかります。また、分厚いと読んでもらえないという意識から50ページ以上も減らしたといいます)

安全は誰かから与えられるものではありません。法律を守っていれば安全というわけでもありません。特定の分野の人たちだけでなく、北大にいる人みんながしっかり安全を学ぶことのできるような内容にしています。

例えば、こういった大学で配布するような安全の手引は、実験をする際の注意事項を大きく取り扱っているものがほとんどです。しかし、そういったものを渡された文系の学生や事務の方々の立場で考えてみるとどうでしょう。「自分には関係ないな」と、読みませんよね。なので、まずは第1章では安全の考え方をしっかり学ぶことのできる構成にしていて、実験の項目も「実験をしない人にもこれだけは知っておいて欲しい」という内容に留めています。もちろん、これとは別に実験をする人には専用の教育訓練・講習が用意されています。

(第3章にある地震のページでは、震度やマグニチュードといった個別の知識を全部扱うのではなく、「地震が起こったらこうする」という大枠がつかめることを大切にしているそうです。2018年9月の胆振東部地震の教訓も残されています)

企業などと比べたときの大学の一番の特徴は「多様さ」です。大学は研究をはじめとしていろいろなことをやっていますよね。それぞれに必要な安全の考え方や対策の全部を一冊に入れ込むことはどうしてもできません。また、未成年の学生、留学生、正規職員や非正規職員、派遣職員にボランティア…… いろいろな構成員のいろいろなバックグラウンドに応じた、きめ細かい教育も必要です。

安全の手引の特に第1章を読むと、北大の中にいる期間だけを想定しているのではなく、外に出ても安全の考え方を大切にして欲しいというような気持ちが伝わってきます。

そのとおりですね。学んだ考え方はもちろん、手引きも「これは役に立つから卒業後も捨てないで持っていよう」と考えてもらえるものであってほしいと思いながらつくっています。あまり知られていませんが、厚生労働省が6年ごとに出している労働災害防止計画の中で、社会に出る前の学校段階で安全衛生について幅広く基本事項を学ぶことを繰り返し求めています。そういった社会的ニーズも意識しています。

北大の構成員は約2万人、札幌市の人口だけで考えると約1%を占めるといった表現をされることもあります。構成員の安全への意識向上が、例えば地域防災といった学外の課題にもつながっていると良いですね。

そうあってほしいですね。安全の基本的な考え方をきちんと学べる機会はあまりありません。教育としてその機会を全員に提供しているというのは大きいと考えています。直接的に何かにすぐ役立つものばかりではないかもしれませんが、ものの考え方として、防災も含めていろいろな場面で応用が効くのではないかと思っています。

なお、私たちの活動がどれくらい役に立っているのかについては、定量的に測ることが難しく、評価しづらい点ではあります。事故後に関係者へ行うヒアリングでは、「私たちの活動が伝わっていないのか……」とがっかりすることもあります。伝わっていないからこそ事故が起きていると考えると当然かも知れませんが、だからこそ構成員の隅々まで伝わるように根気よく活動を続けたいのです。

最後に、川上さんにとって「備える」とはどういうことでしょうか。

今まで大丈夫だったから大丈夫といった発想をしていると危ないです。運転免許センターの「かもしれない運転」のように、こういうことがあるかもしれないという構えでいることが、これからの自然災害と向き合う上では一層大切になります。今まで起きていないということは、今後も起きないことの根拠にはなりません。事実、胆振東部地震では多くの想定外が起きました。

また、「被害が出なかった!良かった!」といった結果に引きずられて、物事のリスクの本質を読み誤ってしまうことも問題です。そうではなく、「最悪こんなことが起こっていたかもしれない」と、想像力を働かせて備えておく必要があると思っています。物理学者で随筆家の寺田寅彦も言っているように、正しく怖がることというのは本当に難しいことです。私自身もそういうふうに結果に引っ張られないように気をつけないといけないなと思って日々取り組んでいます。

安全というのは難しいものです。「これをやったら絶対に大丈夫」ということがありません。野球の野村克也監督の座右の銘にもなっている「負けに不思議の負けなし 勝ちに不思議の勝ちあり」という松浦静山(まつら・せいざん)の言葉があります。相手のミスやその他の要因によってまぐれで勝つことはあるけれど、負ける時は負けるべくして負ける。その原因は必ずあって、それを一つ一つ塞いでいけばより勝ちにつながりやすくなるという意味です。剣術書の言葉ではありますが、事故防止にそのまま通じるものです。

正解はない安全の取り組みの中では、本質的に何が必要かという目線を常に持っておくこと、起こったことをきちんと分析して対策を講じることが、想定外を想定外にしないことにもつながるのかもしれないと感じました。本日はありがとうございました。
(ご対応いただいた川上さん。栃木県出身。博士(工学)。通商産業省工業技術院東北工業技術研究所(現・産業技術総合研究所 東北センター)での研究員、富山大学 助手を経て、2011年より北大へ。研究所の法人化に伴う体制整備をきっかけに、本格的に安全衛生の道を歩むことになったそうです)

関連リンク:

  • 北海道大学 安全衛生本部のページ
    ※北大構成員は学内から安全の手引のpdf版や音声付きパワーポイントなどの資料をダウンロードすることができます。
  • 【匠のわざ】#8 大学の安全衛生管理の充実を目指して~安全衛生本部 化学物質等安全管理担当~(2021年1月20日)

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2022.03.11

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