私たちの身の回りにはさまざまな「光る」ものが存在します。それらはどのような仕組みで発光するのでしょうか。この問題について、ホウ素化合物に着目して研究するのは作田絵里さん(理学研究院化学部門 助教)です。光る物質の謎を探究する化学者の一人として、どのような研究をしているのか、話をうかがいました。
【佐々木永泰・北海道大学薬学部2年】
発光とはどのようなものですか?
発光とは、物質がさまざまな刺激からエネルギーを受け取ることで活性化(励起)され、その受け取ったエネルギーを光として放出する現象です。たとえば携帯電話やテレビのディスプレイには、電圧からエネルギーを受け取り、発光する技術である「エレクトロルミネッセンス(EL)」が応用されています。また、コンサートなどで使われる発光体であるサイリュームのように、化学反応によって生じるエネルギーによって発光する物質もあります。さらに、蛍の光は、生体内での反応によって発光します。このように、「発光」にはさまざまな仕方があるのです。
どのような研究をしているのですか?
化合物がいろいろな色を発するためにはどうすればよいのか、より小さなエネルギーでも発光できるようにするには何をすべきかを知るために、実際に化合物を作り、発光の様子を測定しています。私は主にホウ素に着目し、この元素を用いて効率よく光る化合物をどのように合成したらよいか、また、化合物をさまざまな色に光らせるためにはどのようにしたらよいか、といった課題に取り組み、これまでいろいろなホウ素化合物を合成してきました。有機化合物にホウ素を結合させると、通常とは異なる光学的な特性を示す点で、ホウ素はたいへん興味深い元素だといえます。
真ん中の化合物にホウ素(B)が入っている。上の段が通常の可視光下での状態。下の段が紫外線を当てたときの状態。
ホウ素が入ることで、特徴的な光り方をすることがわかる。
どのような実験しているのですか?
光る化合物を作らなければならないので、化合物の合成実験から始めます。ときには反応を速めるために特定の電磁波を当てたり、温度を調節したりします。合成が終わったら、化合物を単離し、望みの発光を示すかどうか分析します。その際、レーザー光源によって光の吸収や発光スペクトルを測定する装置を使っています。また、光の種類や強度を正確に測定するために、実験は暗室で行うことが多いです。
今後、どのような成果が期待されますか?
ホウ素化合物には独特な電気的・光化学的特性があるにも関わらず、その研究は実はあまり進んでいません。ホウ素化合物の特徴を生かしてさまざまな色の発光物質の合成はもちろん、最近では、二酸化炭素を有用な物質に変換できる化合物を作るといった「人工光合成」の研究も進めています。
ホウ素を用いた研究で、多くの分野から注目を集めてきた作田さん。現状にとどまることなく、自ら大学や企業との共同研究を行うなど、積極的に研究活動の幅を広げています。
今回、自身が行っている研究について、8月3日(日)に開催される「サイエンス・カフェ札幌」にてお話いただきます。ホウ素に秘められた可能性を拓く化学の研究と応用について、ゲストの作田さんと一緒に考えていきましょう。
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第76回サイエンス・カフェ札幌
「カガヤク、カガク~ホウ素の力で未来を照らす~」
日 時:2014年8月3日(日)16:00〜17:30(開場15:30)
場 所:紀伊國屋書店札幌本店1階インナーガーデン
ゲスト:作田絵里(北海道大学大学院理学研究院化学部門・助教/錯体光化学)
参加費:無料。当日会場にお越しください。
主催: 北海道大学CoSTEP
科学技術振興機構さきがけ「光エネルギーと物質変換」研究領域
東京応化科学技術振興財団
詳しくはこちら
http://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/costep/contents/article/1205/