農学部を卒業(1991年)し、デンマークでの研究所や民間企業をへて、「植物育種研究所」を創業した岡本大作さん。現在は夕張郡栗山町で「さらさらレッド」や「さらさらゴールド」といった新しいたまねぎの開発を行っています。「農業ベンチャーの挑戦 機能性農作物の開発と地域ブランド化」と題して、データを用いながら、わかりやすく講義を行いました。
種子を制すものは世界を制す
日本の食料自給率が約40%なのに対し、北海道の自給率は、その5倍の200%近くあります。しかし、その種子は海外から来ているものが多いのです。札幌で有名なとうきびワゴン(スイートコーン)で売られているとうもろこしの種は、ほぼすべてアメリカの会社が日本に販売しています。海外は価格が安いのですが、いつストップするかわかりません。食の最上流である「種子」をおさえることが、世界を制すことにつながるのです。
高付加価値化を目指して
通常は、市場で値段が決まります。でも、やはり生産者である自分が値段を決めたい。そのためには、他人と違うことをして、付加価値を示すことによって、価格を決めねばと思ったのです。そこで、商品のコンセプトは、できるだけ上流(種)で差別化をし、大手が真似できないものを作ることにしました。
高機能たまねぎ「さらさらレッド」が生まれるまで
機能性農作物とは簡単に言うと、「体にいい野菜」ということです。体にいい成分としては、ポリフェノール、アントシアニン、カテキンなどが知られていますね。そのポリフェノールの中に「ケルセチン」という抗酸化作用、抗アレルギー作用、血圧を抑える成分があります。実は、たまねぎには、このケルセチンが多く含まれているのです。そこで私は、世界中から105種のたまねぎを集め、2001年、2002年と栽培し、分析しました。その結果、ケルセチンが多いものから、ほとんど入っていないものまで各種ありました。そこで、2006年からさらさらレッドの開発を進め、病気に強くするなど、徐々にバージョンアップをして、生産量を増やしてきました。しかも、栽培は「栗山町」のみで行いました。
差別化のポイント
産学官が連携し、科学的根拠(テータ)に基づいて開発した点です。また、アントシアニンが入っているので、赤いたまねぎになり、見た目にも異なります。そして、たまねぎの種は無償で農家に渡し、栽培方法を指導し、収穫したものは、すべて私のところに出荷してもらいます。しかも、普通よりも高い取引にし、販売場所も百貨店に限っています。こうやって地域全体で取り組むことで、栗山町の特産品としての認識が高まり、生き残ることができたと考えています。
新たなる商品「さらさらゴールド」
最近では、糖尿病を改善するたまねぎ「さらさらゴールド」を三井物産と組んで北見市で開発、販売しています。もちろん薬ほどには効きませんが、この新しいたまねぎは、糖尿病の遺伝子を動かす性質を持っています。試験の結果、1~2ヶ月で血糖値が下がるデータも得ました。ただ問題は、さらさらゴールドは、見た目が普通のたまねぎなので、販売方法の工夫が必要です。
今後の夢は
これまでの1つ1つの成功の積み重ねが、今につながっています。これからも細く長く愛される商品を作り続けたいですね。
講義後は、半分以上の学生が一斉に手を挙げ質問をしていました。
起業のきっかけや、大学で身に着けるべきことは何か、なぜたまねぎを選んだのか、と次々に質問が出ました。
岡本さんは、「これまでにないものを作りたかったし、たまねぎはこれまで差別化がされてなかったので選択しました。いいものは世界に発信できます。起業してから、自分の頭で考えるようになりました。成功も失敗も自分の責任です。ここが学生時代と大きく違う点でしょうね。最後は自分で決める。“たかがたまねぎ、されどたまねぎ”。品種改良技術を世界に生かして生きたいですね。」と締めくくりました。
岡本さん、ありがとうござました。
*****************************************************************************
岡本さんが講義したのは、全学教育科目の「大学と社会」(木曜日5講目)です。次回は10月30日、講師は、理学部出身で俳優の斉藤歩さんです。