CoSTEPとダイバーシティ・インクルージョン推進本部の連携企画、ロールモデルインタビューFIKA。
FIKAとは、スウェーデン語で甘いものと一緒にコーヒーを飲むこと。
キャリアや進む道に悩んだり考えたりしている方に、おやつを食べてコーヒーでも飲みながらこの記事を読んでいただけたら、という思いを込めています。
シリーズ10回目となる今回は保健科学院の安田佳永さん。
安田さんは修士課程修了後、博士課程入学と同時に休学。
看護師として大学病院で勤務した後、復学し再び研究を進め、この春からは北大で助教として研究者のキャリアをスタートさせるところです。
【森沙耶・いいね!Hokudai特派員 + ダイバーシティ・インクルージョン推進本部】
憧れの北海道への進学を目指した高校時代
広島県出身の安田さん。小学生の頃に旅行で雪まつりを訪れたことや、祖父が出張で札幌へ行くたびに海鮮物やお菓子などの美味しいお土産をもらっていたことから北海道への憧れがあり、自然と北大を志していたといいます。
大学進学を具体的に考えはじめた高校2年の頃、データを取って分析を行うような研究そのものへの関心があり、食の分野への興味もあることに気付きます。そこで、北大農学部で興味を活かせるのではないかと思い最初に目指しますが、受験勉強を進めていくと、北大農学部への現役合格は難しいことがわかり、北大へ現役合格することを第一目標に、医学部保健学科に志望先を変更します。
学部の志望先を変えることについて「通っていた高校では周りに医歯薬系を目指す子が多かったので、そこまで進路先の変更には困りませんでした」と安田さんは振り返ります。
両親は当初、自宅から通える範囲での大学進学を望んでいましたが、ずっと変わらず北大を目指す安田さんの姿に、次第に「関西だったらいいよ」、「関東だったらいいよ」とだんだん許容範囲も広がり、最終的に北大を受験することを認めてくれたといいます。
看護学に打ち込み、研究との出会い
念願の北大進学後、はじめての一人暮らしがはじまります。「はじめはホームシックになったり新しい生活に慣れない時期もありましたが、広島県人会1)に入って地元が同じ人たちと交流を深めたり、大学祭でお好み焼きを焼いて、お客さんに食べてもらったりといった経験を重ねるうちにと徐々に楽しめるようになっていきました」と話します。
看護学専攻では、専門的な勉強は2年生からはじまり、年次が進むに連れて実習も多く行われました。そして、4年生では卒業研究に加え2月に行われる看護師国家試験合格を目指すという本当に密度の濃い4年間だったといいます。「一つでも単位を落とすと、次年度のカリキュラムと再履修が被ってしまうため留年を免れません。そのため必死でした」と安田さんは振り返ります。
4年生での研究室配属を前に行われた学科の研究室訪問で、現在の指導教員でもある矢野理香先生の研究に出会います。
矢野先生の研究室では、看護師が患者へ行っている看護技術の効果を可視化したり、機器を使って測定することで、人のスキルに依存していた部分を明らかにする研究を行っていました。「新人からベテランまでいろんな看護師がいるけれど、患者さんは同じ医療費を払っているのだから、受ける医療のレベルが看護師の力量などに左右されるとすると患者さんは不公平感を持ってしまうことになります。熟練した看護師の方たちがどういう看護技術を行っているのかということをデータで可視化することで質の高い看護をどんな看護師でも提供できるようになると考え、研究をしています」という言葉に感銘を受け、安田さんは矢野先生の研究室を希望します。
「臨床で看護師が実際に良いと思ってやっている方法が本当に良いのかどうか、実験的にデータで示せるところにも魅力を感じ、今までやりたかったことに一番近かったのが矢野先生の研究でした」と、元々興味のあったデータを取って分析をするという研究手法を学ぶことができるのも強く心惹かれたといいます。
看護師として経験を積み、研究に活かしたい
研究室配属後は「看護師が患者へ注射を刺すときに行っている看護技術」について研究を実施。このように患者に還元できる研究にやりがいを感じ、修士課程への進学を決めます。「大学院は倍率も高く、必須であるTOEFLの点数も求められるので、必死で勉強しました。同じく大学院進学を目指す同期と一緒だから頑張れましたが、一人だったら心が折れていたかもしれません」と笑います。
修士課程2年生のときにこの先研究を続けるのであれば、看護師として働いて経験や技術を身につけておくことが今後役に立つだろうと考え、博士課程進学と就職について周りの先輩に相談したところ「研究を続けたいと考えているなら、博士課程にこのまま進学すれば受験料も入学料もかからないので、まずは進学した方が良いよ。それから休学して就職しても復学すれば大丈夫だよ」とアドバイスを受けます。そこで博士課程に入学し、北大に籍を置きつつ、東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)に就職。
東大病院を選んだ理由は「看護の研究が盛んに行われていることが第一です。そして、これまで学んだことを評価して、大学院卒の基本給が高かったことも決め手になりました」と、後の博士研究に活きる技術や知見を得るための就職だったといいます。
看護師として2年間勤務した後、退職し北大へ復学します。
「はじめは3年休学し働こうと考えていました。ですが、いざ働き始めると復学後に3年間で博士研究をまとめあげることができるか不安があり、まとめられなかったときのためにも1年とっておきたいと考え、2年で復学しました」と最長3年間取得できる休学期間を2年にしたといいます。
充実したサポートの中で進められた博士研究、より環境を整えていくために
博士課程では、注射の技術を高めるために血管を見つけやすくする方法として針を刺す部分を温めるという手法について研究を進めてきた安田さん。特に針を刺すことが難しい高齢患者に着目し、臨床で研究を行っています。
博士課程に復学して1年の秋に、生活費相当と研究費が支給される北海道大学DX博士人材フェローシップに採用されたことで研究に打ち込むことができたといいます。「復学後に、臨床を経た上で何を研究し、何を医療の現場に還元できるだろうかと悩んでいた時に、同時期に進めていた申請書の作成によってだんだんと考えが整理されていき、研究テーマを定めることができました」といいます。
研究費が支給されたことも大きく研究を進める要因になったとのこと。「被験者を募って行った実験もご協力いただいた方々に研究費から謝礼を出すことができ、研究が進みました」と話します。
今後は、看護研究に興味を持つ人が研究の道に進みやすい環境を整えることで分野を盛り上げていきたいと話し「看護学コースは一回看護師として働いて大学院に戻ってくる方も多いので、迷っている方がいたらためらわずにぜひ挑戦してもらいたいと思います。博士課程では日本学術振興会特別研究員制度(通称:学振)に限らずフェローシップなどのサポートが充実してきているので、大学院に進学する仲間が増えるといいなと思います」と笑顔をみせます。
現在は博士論文を提出し終え、卒業後は臨床に寄り添える研究者としてアカデミアでの道を進んでいきたい、と応募した北大のアンビシャス特別助教2)として内定が決まっています。「看護師として勤務した経験も活かしながら、現場に還元できる研究を行っていきたいです」と話す安田さんの研究者としての道ははじまったばかりです。
FIKAキーワード 【博士課程学生への支援制度】
注:
- 大学生の頃、広島県人会としていいね!Hokudaiに掲載された記事はこちら。
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優秀な博士人材の早期育成と多様なキャリアパス形成を目的とした制度。