まず事の発端。先週、月曜日のことです。あさくらとうえぴの通う大学にある学食のうち最も大きな学食、その二階、休み時間に様々なサークルが溜まり場にしている、ボックスというスペースでのことでした。
四月なので、新入生歓迎の季節です。うえぴの所属する文芸サークルでは、リーダー格の男子(うえぴと同じく二年生。会長ではない)を中心とした作戦会議が行われておりました。
阿川せんり『ウチらは悪くないのです。』(新潮社2019, pp15-16)
「あさくら」こと朝倉真理衣と、「うえぴ」こと上田雛子が通う「大学」とは、もちろん北海道大学のことです。高校時代から友人のふたりは、北大周辺の街の2軒隣同士に住み、札幌駅のスターバックスに入り浸り、あーでもないこーでもないとだべる間柄の学部2年生。4月のある日、文芸サークルの一員であるうえぴは、ひょんなことからあさくらと自分の日常を小説『朝倉上田物語』(仮題?)に書くはめになります。
物語は、現実のふたりとうえぴが書いた小説、その小説を読んであーだこーだ言い合うふたり・・・という繰り返しで進んでいきます。現実をもとに小説を書き、小説のために現実でアクションをしていくふたり。若干面倒な性格で「大学生」「青春」「恋愛」を斜めに見ているふたりですが、誰よりも青春しているとも言えます(こういうことを書くと、ふたりは「あ?いや、べつに・・・」「うがぁああああ」と反応するかもしれませんが・・・)。
作者の阿川せんりさんは北大文学部出身で、文芸部でも活動していました。大学卒業後、『厭世マニュアル』(角川書店 2015)で第6回野性時代フロンティア文学賞を受賞。最も新しい世代の北大出身の作家です。ちなみに物語の時代は2012年4月から夏ごろまで。あさくらとうえぴは1992年生まれで、阿川さんは1988年生まれなので、阿川さんはふたりの先輩にあたります。生協2階のボックスはかつてはもっと雑然としていましたが、学生が受け継いできた交流の場であることは今も変わりません。
第14回となる「物語の中の北大」は以上です。春から初夏にかけての北大は、多くの作品で描かれています。次回以降、これまでより頻度を上げて掲載をしていきます。