四月下旬の北海道の空気は清冽で澄み渡り、微かな冬の名残すら感じさせた。
札幌駅からタクシーでほんの数分のところにある北海道農業大学は、広大な敷地を擁する旧帝国大学の流れを汲む一大学府である。
緑の多いキャンパスに点在する校舎の間には、カフェやレストランといった飲食店、広場や小川まであった。その広さ故、学生たちの移動は、もっぱら自転車だ。いま佃と財前を乗せたタクシーはその敷地内を走る道を往き、
「突き当たりに見える校舎で止めてください」
財前の指示で止まったのは、重厚感のある古い煉瓦造りの建物の前であった。
池井戸潤『下町ロケット ヤタガラス』(小学館2018, p41)
第15回となる「#物語の中の北大」で紹介する小説は、2018年にテレビドラマにもなった『下町ロケット ヤタガラス』です。登場する大学は「北海道農業大学」となっていますが、立地やキャンパスの描写から明らかに北海道大学だとわかります。
佃製作所の佃航平社長と帝国重工の財前道生部長がタクシーで通ったルートは、正門から入り中央ローンを左手に見ながら、メインストリートを抜け、突き当りの農学部に至る道でしょう。
ふたりが訪ねたロボットトラクター研究の第一人者は野木博文教授。そのモデルとなったのは北海道大学の野口伸さん(農学研究院 教授)です。作中で野木教授は準天頂衛星「ヤタガラス」からの位置情報にもとづく正確なトラクターの自動運転技術を開発していましたが、モデルとなる野口さんは準天頂衛星「みちびき」をつかった同様の技術研究を行っています。
実は2018年にも、農場の様子を描写した本作の一節を引用した記事を公開しています。そちらもあわせてご覧ください。
野口さんを紹介した以下の記事もご覧ください。
- 「下町ロケットに北大の研究者が出演?!」『いいね!Hokudai』(2018年11月25日)
- 「「下町ロケット ヤタガラス」に農学研究院 野口教授が協力しています。」『リサーチタイムス』(2018年12月7日)