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#195 細胞たちのおしゃべり、サイトカインに聞き耳を立てると…

止まらないくしゃみに、かゆい目、今年は例年よりも多い花粉の量につらいアレルギー症状を感じている方も多いかもしれません。つい構内の木々を恨みたくなるかもしれませんが、ちょっと待った!それ花粉のせいじゃなくって、身体のなかの免疫細胞やサイトカインが過剰防衛しているせいかもしれません。サイトカインは細胞内に情報を伝達し、免疫の機能を高める役割を持っている分子です。しかしその情報伝達の量が多すぎたり、間違ってしまうと、私たちの体に不調をもたらします。この諸刃の剣でもあるサイトカインを研究する松田正さん(薬学研究院 教授)にお話を伺いました。

お話を伺った松田正さん
サイトカインを通して交わされる免疫達の対話

 

私たちの身体には、元々風邪などの身体の不調に挑む仕組みがあります。それが免疫です。免疫には自然免疫と獲得免疫があります。自然免疫はまず体の中に入ってきた風邪のウイルスなど異物や悪くなった自分の身体の状況を見分け、攻撃して排除したり、悪い部分を除去し、修復していきます。次に獲得免疫は、自然免疫からの指令によってウイルスなどを異物として記憶し、異物にあった抗体をオーダーメイドで作成し、より強く正確に異物を攻撃し排除していきます。この二つの免疫の力で、私たちの身体は守られています。
免疫細胞達は広い体の中をくまなくパトロールしています。そして異変を見つけると、お互いに連絡を取り合い、攻撃態勢に入ります。その際、免疫細胞間で必要な情報交換に使われるのがサイトカインという分子です。免疫を研究している研究者の中には、サイトカインは細胞の言葉であると表現する人もいます。サイトカインは1950年代に発見されて以来、現在までに数百種類も見つかっており、想像以上に細胞は表現豊かに情報を交わしていることが明らかになっています。

サイトカインが過剰に出ることで生まれる体の不調

サイトカインは免疫の働きを活性化し、免疫細胞を増やします。とても頼もしい免疫の味方と期待され研究が始まりましたが、実はそれだけでないことが明らかになってきました。例えば松田さんが研究しているインターロイキン6(IL-6)というサイトカインは、がん細胞を攻撃したり免疫細胞を活性化する機能を持つ半面、関節の骨を壊し関節リウマチを引き起こしたり、乳がんや前立腺がんのがん細胞を増殖させる負の作用を持つことが分かってきました。

免疫のシステムをわかりやすく表現するために、松田さんは自分でイラストも描きます

アレルギー症状を引き起こす際にもサイトカインは大きな役割を担っています。花粉などの異物が体内に入ると、自然免疫はサイトカインを通して異物の情報を獲得免疫に知らせます。その際、獲得免疫はアレルギー症状を引き起こすIgE抗体を出し、これがくしゃみや鼻水といったアレルギー症状を引き起こします。人によってこのIgE抗体の生産量が違うので、アレルギー症状も人によって違うのです。さらにサイトカインの中には、普通の抗体を作るべき場面で誤ってIgE抗体を作るスイッチを押してしまうものもいます。IgE抗体は急速に攻撃力を増すという特徴があり、ワクチンによる苛烈なアナフィラキシーショックはこの仕組みで起こります。

細胞に耳栓を、新しい抗体薬の仕組み

さらに最近、サイトカイン自体が病気を悪化させているのではないかという研究が進んでいます。たとえば、サイトカインが過剰に出すぎてしまうとサイトカインストームという全身に炎症が広がるという危険な症状を引き起こします。

病気を攻撃する引き金が、逆に症状を悪化させる引き金にもなってしまう、このようなサイトカインの仕組みを利用した治療薬の開発が進んでいます。松田さんが開発研究にかかわったリウマチの治療薬は、リウマチの症状を悪化させるサイトカインの情報を細胞に伝えない、つまり細胞に耳栓をする抗体医薬で、目覚ましい効果をあげました。またノーベル賞を受賞した本庶佑さんが開発したオプジーボというがんの抗体医薬は、がん細胞から免疫細胞へ攻撃をストップするように働きかけていた情報伝達をシャットダウンすることによって、攻撃力を増す仕組みで治療しています。

細胞同士が交わす言葉、サイトカインの研究は新しい治療の可能性を開きます。私たちの身体に、花粉は異物ではない大丈夫と語りかけられる日が来るかもしれません。

サイトカインを直接治療に使うと副反応も強く発生する可能性があるため、さらに細かな仕組みを解明していると語る松田さん

謎の言葉、サイトカインをテーマに松田さんをゲストにサイエンス・カフェ札幌が、6月16日(日)に紀伊國屋書店札幌本店のインナーガーデンで開催されます。サイトカインを巡る日本人研究者の活躍やサイトカインにまつわる小話まで展開されるおしゃべりなカフェになる予定です。ぜひ、お越しください。

【タイトル】 第13回サイエンス・カフェ札幌
      「おしゃべりな細胞と謎の言葉~がんからコロナまで、サイトカイン研究の最前線~
」
【日  時】 2024年6月16日(日) 14:30 – 16:00(開場14:00)
【場  所】 紀伊國屋書店 札幌本店 インナーガーデン
      (北海道札幌市中央区北5条西5-7 sapporo55 1F)

【ゲ ス ト】 松田 正(まつだ・ただし)さん(北海道大学大学院 薬学研究院 教授)

【聞 き 手】 奥本 素子(CoSTEP准教授)

【定  員】 60名
【参  加】 無料

【主  催】 北海道大学 大学院教育推進機構 オープンエデュケーションセンター

科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)

【詳  細】 https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/event/30459

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2024.06.07

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