ウイルス、花粉、紫外線……私たちの体は常に外の世界の病原体や刺激にさらされています。しかし、なぜか毎日病気にかかったりはしません。 実はそれは皮膚に守られているからなのです。
皮膚のバリア機能において重要な役割を果たしているのがセラミドという脂質です。セラミドは様々な遺伝子の働きによって、私たちの体の中で作られたり壊されたりを繰り返しています。
私はセラミドの分解に関わる遺伝子が皮膚の細胞内でどのように働いているのかに迫るべく、日々皮膚の細胞を育てています。
【信本和奏・生命科学院修士1年】
バリア機能を担うセラミド
朝起きて、顔を洗い、スキンケアをする ……そんな何気ない日常の中にも、科学はそばに潜んでいます。
例えば以下の画像の ボディソープには、セラミドという成分が含まれています(1。このセラミドこそが、私の行っている研究の対象です。こちらの成分表にもセラミド1、セラミド2……とあるように、一言でセラミドといっても、構造の違いにより25種類が存在します(2。
セラミドは皮膚の細胞の間を埋めている脂質の一種で、細胞同士をつなぐ役割をしています。セラミドは水に溶ける部分と油に溶ける部分の両方を持ち合わせている脂質です。皮膚ではセラミドが水分の層と油分の層が積み重なった形を作り、バリア機能に重要な役割を果たしています。そのため、セラミドが少ないと、体内の水分を保持したり体外から病原体などの異物が入るのを防ぐ皮膚バリア機能が下がり、アトピー性皮膚炎などの病気になってしまいます。
かといって、セラミドは多ければよいというわけでもありません。セラミドは体内で合成と分解を繰り返しており、そのバランスが重要となっているのです。
セラミドの分解に着目した研究
私の研究では、セラミドの分解に着目し、セラミドを分解する酵素であるセラミダーゼが皮膚でどんな役割を果たしているのか明らかにすることを目指しています。
皮膚は細胞が何層にも積み重なってできています。私の研究ではまず、セラミダーゼをつくる遺伝子を完全に機能させないようにした皮膚の細胞を作りました。これは、遺伝子の配列はすでに分かっているものの、未だに機能は解明されていない遺伝子を研究するときによく用いられている手法です。
そしてその細胞が完成したら、まさに皮膚と同じように層になるように育て、細胞のセラミド量の変化を調べました。層状になるまでには時間がかかるため、2週間から1か月以上細胞のお世話をする日々が続くこともよくあります。細胞のためなら休日返上!
育てた細胞から脂質を抽出し、質量分析器でセラミドを測ります。質量分析器は、脂質中に存在するセラミドを種類ごとに分けて、それぞれの質量を測定できる機械です。細胞でセラミダーゼの機能が失われるとセラミドが分解されないため、細胞の中にセラミドが溜まると考えられます。
測定の結果、セラミダーゼの機能を失わせた細胞では予想通りセラミドは溜まっていました。しかし、セラミドには最初にお話ししたようにいろいろな種類があります。この細胞では、セラミドの中でも溜まっている種類と、溜まっていない種類があったのです!
分解しやすさが違う?
そこで、セラミダーゼは皮膚でどの種類のセラミドをよく分解しているのか、もっと詳しく調べたくなりました。セラミドは種類によって性質や役割が微妙に違い、アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚では減っているセラミドだけでなく増えているセラミドもあるなど、種類ごとの変化は病気の解明においても重要であるとされています。
いま現在の研究では、逆にセラミダーゼを過剰に作らせた細胞を作り、どのような種類のセラミドを分解したり分解しなかったりするのかという側面からも、セラミダーゼの機能を詳しく調べています。
皮膚の健康のために
私自身、皮膚が弱く、中学生くらいの頃から肌トラブルに悩まされ続けていました。大学3年生の秋、研究室を決めるタイミングで、皮膚の研究をしているこの生化学研究室と出会い、自分の皮膚で何が起こっているのか知りたい!と思い配属を決めました。
そうして出会ったセラミダーゼの研究が、私のように皮膚のことで悩んでいる人を救えるような治療薬の開発に役立つことを目指して、これからも細胞と向き合っていきます!
参考文献:
- ロート製薬,ケアセラHP, https://jp.rohto.com/carecera/
- M. Kawana et al.,: J. Lipid Res., 61, 884-895(2020). https://doi.org/10.1194/jlr.ra120000671
この記事は、信本和奏さん(生命科学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。
信本和奏さんの所属研究室はこちら
生命科学専攻 生命医薬科学コース
生化学研究室(木原章雄 教授)
研究室HPアドレス