生成AIの話題が相次ぐ近年、AIを用いた創作についても注目が集まっています。瞬時にそれっぽい絵を描いたり、作曲したりする能力に驚く一方で、AIが見せている差別やおろかさにも気づきます。今回は、札幌でAIを用いてアート作品を発表する韓国のアーティスト、バン・ジェハさんに、作品の共催である北海道大学 CoSTEPの朴が話を聞きました。
【朴炫貞 / 北海道大学 CoSTEP 特任講師】
紅葉の綺麗な天神山アートスタジオで取材の様子。バン・ジェハ(左)と朴(右)
札幌で出会ったのは2020年でしたよね?コロナの時期だったことを覚えています。
天神山アートスタジオと、韓国のレジデンスの交流プログラムで2020年度に参加したのがきっかけでしたね。その時コメントをもらうため、オンラインでミーティングをして、そのあと2023年にリサーチで札幌に来た時に朴さんに会って、今回の公演の話が具体化されました。
今回はChatGPTが登場人物として出ますが、AIを用いて作品を作ったきっかけはありますか?
普段ChatGPTやStable Diffusionといった、チャットボットからイメージ生成AIまで幅広く使っています。親近感も覚えたり、よく手伝ってくれるので心強くもあります。その反面、なかなかこちらの意図を分かってもらえなかったり、生成するイメージや答える情報が偏ったりすることに疑問がありました。春にリサーチで韓国に来た時、繊細なアイデンティティーの話を通訳させようとすると、無言になる場面もありましたね。あるルールによって動かされていることを、作品の形で見せてみたかったです。
そのAIを使って想像してみるのが、北朝鮮の家ですね。ちょっと怖く感じる人もいるかもしれません。
十分理解できます。私は2018年から北朝鮮をテーマにした作品を、「分断イメージセンター」というコレクティブに所属して制作しています。韓国にいると、北朝鮮に関する情報がかなり検閲されていて、日本を含め海外に来ないとアクセスできないウェブサイトもたくさんあります。北朝鮮に関する人に触れることも禁止されています。それを知る前までは、韓国という自由な国に生きていると思っていましたが、結構抑圧された社会の部分もあることが分かりましたし、これがとてもコミカルにも見えました。
札幌でも展示する「バトンタッチ・ディストピア」。O/Xで選択することでイメージ生成体験ができる。
ソウルでの作品の反響はどうでしたか?
《MAKE HOME, SWEET HOME》の公演では、一瞬でチケットが売り切れたことに驚いてました。韓国でも北朝鮮の家については馴染みがないし、北朝鮮に拒否反応を起こす人もいますが、美術作品で考えていくことで、繊細な問題についても観客が自由に考えたのかなと思います。最近の作品《バトンタッチ・ディストピア》では、在日朝鮮人の帰還事業をテーマにしました。観客がクロマキーを通してゲーム画面を見ようとすると、過去と現在の北朝鮮の宣伝物が視野を邪魔するようになっています。ゲームの内容は、当時の被害者のインタビューをもとに構成しています。この作品でも生成形AIを積極的に使いました。この作品今回札幌でも一緒に展示しますので、体験できると思います。
ソウルでの展示《MAKE HOME, SWEET HOME》ハイライト映像
AIを使って制作しながら、気をつけていることはありますか?
あえて一回に過剰な情報を与えるようにします。情報を全て追うことができない辛さもありますが、それが現実を表してるように思うから、そうしています。また、情報を音にしたり、テキストにしたり、AIに聞いたり、その情報をまた人が解釈したりする過程で、伝言ゲームのように情報が変化することに興味があります。観客参加型にすることも、自由に歩き回りながら、積極的にその情報を変えてほしいという気持ちが込められています。
日本の家についてAIが生成するイメージ。
詳細はこちらのリンクに入ると映像で見られます。
韓国語はそこまで強くなかったですが、日本語でAIを使うと、英語なまりのある日本語になるのが印象的でしたね。
そうですね。それは朴さんから言われて初めて気がつきました。言語によって、AIの情報を誰が入力したか、どのデータをもとにしたかで変わるのでしょうね。今後AIがもっと学習していくと、どのように変わるのか楽しみです。
今回札幌は、初めての海外公演ですね。お気持ちはどうですか?
まず、とてもうれしく思います。特に先ほど話した韓国と北朝鮮の間にある情報検閲やアイデンティティーの問題は、東アジアという範囲で広げて考えると、より複雑な問題が関わってきますが、その分切り口も多く、一緒に解決できるヒントもたくさんあると思います。札幌を拠点に活動されている画家も公演に関わりますので、特に札幌というとても魅力的な場所で、ここならではの表現ができることを楽しみにしています。《IMAGINE HOME、SWEET HOME》というタイトルのように、みなさんと一緒に想像したいと思います。
公演を見てから、一緒にみた人と話したいと思う方も多いと思うので、ワークショップもセットで構成しています。科学技術と共存する未来を想像していくことで、今の技術の問題や、技術との付き合い方のヒントが見つかるかもしれません。作品に興味がある方は、ぜひ現場に足を運んでみてください。
《IMAGINE HOME, SWEET HOME (イマジンホーム、スイートホーム》
日時 2024年11月6~7日 (水〜木)
1回目 11月6日(水) 19:00~21:00(満席)
2回目 11月7日(木) 11:00~13:00
3回目 11月7日(木) 16:00~18:00
*3回ともに、前半の1時間は公演、後半の1時間はワークショップです。
場所 札幌文化芸術交流センター SCARTS スタジオ2