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#62 獣医学部からワクチン研究へー外の世界を知り広がった選択肢/板倉友香里さん(総合イノベーション創発機構 ワクチン研究開発拠点 特任助教)[FIKA No.18]

CoSTEPとダイバーシティ・インクルージョン推進本部の連携企画、ロールモデルインタビューFIKA。

FIKAとは、スウェーデン語で甘いものと一緒にコーヒーを飲むこと。

キャリアや進む道に悩んだり考えたりしている方に、おやつを食べてコーヒーでも飲みながらこの記事を読んでいただけたら、という思いを込めています。

シリーズ18回目となる今回は総合イノベーション創発機構の板倉友香里さん。
板倉さんは狂犬病ワクチンの開発を目指すウイルス学の研究者です。
実家が動物病院であり、ご両親ともに獣医師という環境で育った板倉さんが、一度は臨床獣医師の道を目指しながらも、どのようにして狂犬病ワクチンの開発という研究の世界へと飛び込んでいったのか。研究者としての「ブレイクスルー」を経験した道のりを伺いました。

【森沙耶・いいね!Hokudai特派員 + ダイバーシティ・インクルージョン推進本部】

(総合イノベーション創発機構の板倉友香里さん)

動物病院の獣医師を目指して北大へ

獣医師である両親のもと、実家が動物病院という環境で育った板倉さんにとって、獣医師は最も身近で憧れの職業でした。高校生になり進路を考えた際にも、獣医になるために獣医学部を目指すというのは自然な流れだったといいます。

高校2年から高校3年の夏までの1年間を留学していた板倉さん。帰国後は、日本での1年分の授業を受けていないこともあり、当初は受験科目数の少ない私立大学の獣医学部を志望していました。
しかし、東京都内の大学のオープンキャンパスに参加した際、街中のビルがキャンパスになっている環境が自分にはあまり合わないと感じ、家族に相談したところ「北海道の大学も見てみたら?」と勧められ、夏休みを利用して北海道を訪れることになりました。

「ホテルがたまたま北大の近くでした。せっかくだからと北大のキャンパスを散策したところ、その広大さに圧倒されました。キャンパスで見かけた大学生たちがとてもきらきらしていて、ワクワクしたことを覚えています。そのとき、自分も『ここで勉強したい』と強く思いました」と、北大を受験することを決意。
それからは受験科目も予定よりも増えることから、猛勉強の末、北大に合格します。

打ち込む対象は部活から研究へ

北大に入学してからは、水泳部に入部し、部活と学業の両立に励んだといいます。
「朝練で泳いでから髪も乾かないまま、1限に急いで向かうような毎日でした。1年生の時の成績で学部が決まる総合理系で入学したので、希望の獣医学部に進むためにどの講義を取ったらいいか、とかそういう面でも部活の先輩方に相談できてとても助かった」といいます。そして、希望通り獣医学部に進むことが決まり、2年生からは学部での専門的な講義を受けることになりました。

5年生の研究室配属では、授業で興味を持った微生物学教室に進むことを決めます。
「微生物学の迫田先生の授業がすごく面白かったんです。研究室配属のタイミングで、自分が興味を持ったのは感染症の原因であるウイルスの感染増殖や病気を引き起こすメカニズムを解明することでした」
この研究室は、細胞を扱う分野の特性上、周囲から「厳しい」「休みが取りにくい」と言われることもありましたが 、「どうせ研究をやるなら本気でやりたい」というストイックな思いから、あえてこの環境を選んだといいます。
卒論のテーマは、豚熱ウイルスが培養細胞に感染した際に細胞が死んでしまうメカニズムの解明でした。
細胞や大腸菌、動物を扱う研究のため、土日も関係なく研究室に通う日々。しかし、このハードな環境でもつらいとは感じなかったそうです。むしろ研究に打ち込める環境だったからこそ研究の面白さに気づいたといいます。
「他の学部は4年制なので、水泳部の同期が引退する4年生のときに水泳部を引退しました。それまで部活に打ち込んでいた時間を研究に充てることで、より研究の世界にのめり込んでいきました」と板倉さんは振り返ります。

獣医学部での多様な進路

大学入学当初は「獣医学部に入ったら臨床獣医師になるのだろう」という気持ちだったという板倉さん。しかし、学んでいく中で、獣医の進路には研究者や公務員、企業への就職など多様なキャリアパスがあることを知り、臨床獣医師以外の道も検討したといいます。
「新卒の今しかできないことに一度は挑戦してみようと思い、企業の説明会にも行ってみたのですが、会社の方針の中でできることは限られていると感じました。自分がやりたい『新しいものを創造していく研究』はできないと思い、すぐに就職活動はやめました」
それまで目指していた臨床獣医師については、「いつでも戻れる」という感覚があり、一方で研究は今しかできないと思い、大学院へ進学することを決めました。
大学院へ進学することについて、両親は当初は戸惑いもあったようだと板倉さんは振り返ります。しかし、「学会で発表する際に、見に来てくれたことがありました。そのあとメールで『すごく面白いこと、世の中の役に立つことをやっているんだね』と背中を押してくれました」それからは研究者として歩むことを応援してくれているといいます。

博士課程での苦悩と「世界が広がった」瞬間

学部卒業後、板倉さんは、より人間に近いテーマである狂犬病ウイルスの研究をするため 、獣医学院ではなく人獣共通感染症リサーチセンター(当時)に進学します 。狂犬病は、獣医学のバックグラウンドを持つ板倉さんにとって馴染み深く、またそのウイルスの感染動態や生存戦略が「ユニークで面白い」と感じたことがテーマ選択のきっかけでした。
しかし、博士課程の1年目に大きな壁にぶつかりました。獣医学部の6年一貫教育は、間に臨床実習が入ることや、卒業研究を修士研究に発展させるプロセスがないまま博士課程へ進学するため、他学部から進学した修士課程修了の同期と比較して研究の知識や経験が圧倒的に不足していたのです。
「指導教員からは『自分でテーマを見つけて、自分で考えなきゃダメだ』という指導を受けましたが、どう考えればいいのか全く分からず、研究が行き詰まりました。さらに、DC1(博士課程の特別研究員)に同期は合格し、私は不合格という経験も重なり、強烈な焦りを感じました」

研究が進まない日々が続き、精神的にも苦しい時期でした 。そんな板倉さんに転機が訪れたのは、博士課程1年目の冬でした。
「初めて分子生物学会に参加した時です。とてもテーマも幅広く大きな学会なのですが、参加者の発表や議論を聞いて、雷に打たれたような衝撃を受けました。『研究ってこういう風に考えるんだ』『この技術を使えば、あの実験ができる』という具体的な気づきを得て、それまで閉じていた自分の研究の世界が、一気に広がったと感じました」
このブレイクスルーは、まさに研究者としての考え方が身についた瞬間でした。これを機に研究が軌道に乗り、翌年、見事にDC2に合格。研究者として力強く歩み始めます。

(データまとめや論文執筆、翌日のスタッフの作業の洗い出しなどは夕方に。「学生やスタッフが多いので、一人でできる仕事は夕方以降に回しています」と板倉さん)
食べる狂犬病ワクチンの開発に挑む

博士号取得後、同時期に北大に開設されたワクチン研究開発拠点の特任助教として着任。
「博士号取得と同時に、新しいラボの立ち上げでした 。当初は私を含め教員3人で、すべての実験台や機器のセットアップをしなければならず、大変でしたが、ゼロからラボを作るという貴重な経験ができました」

現在、板倉さんが取り組むのは、狂犬病の研究の続きである「食べるワクチン」の開発です。狂犬病は、犬に噛まれることで人に伝播する人獣共通感染症であり、アジアやアフリカでは依然として重大な公衆衛生上の問題です。
「流行地では、野犬を捕獲してワクチンを接種するのは非常に困難です。そこで、野犬を対象に、環境中に散布できる安全な『経口狂犬病ワクチン(食べるワクチン)』を開発し、流行地での接種体制の整備に役立てたいと考えています 」
狂犬病ウイルスは、致死率がほぼ100%にもかかわらず、紀元前から世界中に広まり続けている「生存戦略」に長けているウイルスです。板倉さんは、このウイルスの感染増殖メカニズムや病態形成の解明にも引き続き取り組んでいます。

進路に悩む人には「今の環境が心地よくても、研究室を変えることで見える世界が変わり、選択肢が広がると強く実感しました。今、自分の目の前の道に迷っている人がいたら、『外の世界を見に行く』ことをぜひお勧めしたいです」と話します。
自らの専門性にとどまらず、自分がやりたいことを軸に、板倉さんは新しい世界を泳ぎ続けます。

(板倉さんの研究のおともはホットコーヒー)

FIKAキーワード 【獣医学部の卒業・修了者の進路】

板倉さんと同じように、北大獣医学部は他大学と比べて学部卒業者の大学院進学者が多いのが特徴。博士課程修了後も様々な分野で活躍していることが読み取れる。

(〈転載:北海道大学獣医学部学部案内(2021年)「卒業後の進路の特徴」https://www.vetmed.hokudai.ac.jp/content/files/Education/Brochure/brochure_vetmed_2022.pdf〉)

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