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華金研究談義 ~「不凍タンパク質を研究する」とは~

【柴垣光希│2025年度CoSTEP受講生】

北海道では凍えるような氷点下の気温が続いており、みなさん厚着をして防寒対策をしています。
雪の妖精「シマエナガ」も、夏毛から冬毛に衣替えしてふんわりかわいくなる季節。

一方で魚や植物など、厚着をしないで氷点下の気温を生き抜いている生物は、なぜ生命活動を維持することができるのでしょうか……?

実はその秘密は、「不凍タンパク質」という物質にあります1。
今回は、「不凍タンパク質」の研究をされている、北海道大学 大学院先端生命科学研究院の助教である新井達也さんと、新井さんの指導学生である前田皓丞さん(理学部・学部4年)にお話を伺いました。

お二人は筆者と同じ研究室に所属しているということもあり、ラフに研究談義を交わす狙いのもと、すすきのにある居酒屋でインタビューを決行。

美味しいお酒と料理を交えながら、研究の内容や面白さについてお話を伺っていきます。

やってきたのは居酒屋「まんまみ~や 札幌店」

まずは乾杯をして、インタビューのスタートです。

とりあえずのビールと梅酒で乾杯。左が学生の前田さん、右が助教の新井さん

「不凍タンパク質」とは何か?――凍てつく寒さに耐えるための生存戦略

今日はお付き合いいただき、ありがとうございます。まずは、新井さんが研究されている不凍タンパク質について、簡単に教えてください。

新井さん:はい。不凍タンパク質は、寒い場所に住む魚や昆虫、植物などが、体が凍らないように、あるいは凍っても死なないように自ら作り出している生体物質です。北海道でおなじみのワカサギやカレイ、さらにはニンジンやシイタケなどもこの不凍タンパク質を持っています。

なぜ、このタンパク質があると死なないのでしょう?

新井さん:生き物は体内の水分が凍ると組織が破壊されて死んでしまいます。氷ができるとき、いわばタネのような小さな氷の結晶が初めにできて、それがだんだん大きく成長していき、大きな氷になっていきます。しかし、不凍タンパク質を持っている生物は、体内に発生した小さな氷のタネに不凍タンパク質がくっついて、それ以上氷が成長するのを抑える役割を果たします。体の中の氷がゼロになるわけではなく、できてしまった小さな氷が広がらないように食い止める、いわば氷によるダメージへの「対症療法」のような分子ですね。

不凍タンパク質による、氷の成長阻害のメカニズム

面白いのは、多種多様な生き物が、それぞれ異なる形の不凍タンパク質を持っていること。これは、祖先が同じでなくても、厳しい環境に適応するためにそれぞれが独自に不凍タンパク質を獲得したということを意味します(収斂進化、※注1)。

僕の研究では、それぞれ形が違う分子がなんで氷にくっついて成長を抑えられるのか、その根幹にある構造的性質を調べています。また、異なる形をしているそれらのタンパク質が、どういう進化の歴史を辿ってきているのかを遺伝子レベルで解析したりもしています。

不凍タンパク質は、生物種ごとに大きく異なる構造を持っています(新井さんの講義資料より)

社会を変える「応用」の可能性――冷凍保存の常識を覆す

この研究成果は、私たちの生活にどう役立つのですか?

新井さん:わかりやすいところで言うと、不凍タンパク質は食品の冷凍保存に利用できます。例えば、卵焼きやゼリーは冷凍するとスカスカになって美味しくなくなります。しかし、ここに不凍タンパク質を少し加えて冷凍すると、解凍後も元の食感を保てます。

お通しの卵料理も、不凍タンパク質を混ぜたら美味しく冷凍できるらしい……

新井さん:他には、不凍タンパク質が持っている細胞の保護機能に関する研究にも取り組んでいます。普通、細胞を4℃で保存すると死んでしまうんだけど、不凍タンパク質があるとなぜか死ななくなります。そのメカニズムを今調べていて、その機能を模倣できる物質が作れたら、もっとコスパよく細胞を長期保存できる未来につながるかもしれません。現在、血小板などの輸血用製剤は保存期間が5日程度と短いのですが、不凍タンパク質の力でより長く、より低コストで保存できるようになれば、医療現場の大きな助けになります。今は基礎研究の段階ですが、将来的にはiPS細胞や臓器の保存にまで展開できればと考えています。このプロジェクトは、今は主に前田くんが進めてくれています。

研究生活について

前田さんの研究生活はどんな感じですか?

前田さん:大体朝7時から8時の間に起きて、9~10時頃に研究室に来て、実験したり資料を集めたり論文を読んだりしてます。実験の都合や研究発表の準備があったりするとずれこんだり、かなり日によってまちまちですけど。中学生や高校生のころと比べると、はるかに自由度が高い生活ですね。

生物を扱う実験をしていると、決まった時間に決まった操作をしなければいけないことがあって、その結果自分もそれに合わせて生活をしなければいけなくなることもあります。 細胞や微生物の生活リズムに合わせて生活しなきゃいけなくなります(笑)。でも、好きなことをやっている感覚なので、あんまりつらくはないですね。むしろ「常に遊んでいる」みたいな感覚ですかね。

僕の場合、今は授業がなくて時間的制約も少なく、どんな生活をするかも自由なので、楽しいと感じたことに自分の時間を100%近く注ぐこともできるって感じです。

逆に、つらいことはありますか?その中で成長できたこととかもあれば教えてください。

前田さん:研究をはじめた最初のころは、ゴールが見えない感じがきつかったかもしれないですね。実験して結果を集めていくと、いろんな知見が分かってくる一方で、同時にその解釈の可能性が広がっていって、いろんなことが分からなくなってくるというか。
でもだんだんそれも乗り越えつつある気がしてます。1週間くらい時間をおけば、何かしらの打開策が思いついたりするし。

新井さん:実験って9割方上手くいかないよね(笑)。自分もだんだん失敗への耐性がついていったのかな。その中で、予想が外れてもいいように実験系を組んでいくようになるというか。

前田さん:期待が外れたときに落ち込むだけじゃなくて、なんとか前に進もうとするようになっていくんじゃないですかね。うまくいかないことに対する耐性がついた気がします。
結局、自分の限られた知識の中でしか仮説は立てられないので、立てた仮説とまったく違う結果が得られたとき、つまり「知らないことが起きた時」の方が、話が大きくなるというか、世界が広がるというか、そんな感じがします。

あとは、データの見方が変わったと思います。先入観なく、そのまま捉えるようになったというか。実験してデータを得た時に、パッと見て「これが失敗だ」っていうのを決めるんじゃなくて、このデータから何が得られるかをしっかり考えるようになったと思います。 研究している中で、新井先生の分析力がすごいなと感じる場面が多くて。僕が「ダメなデータだ」と諦めたものからでも、先生に見せるとお宝のような情報を抽出してくださるんですよ。

新井さん:なんだろう、僕はパズルを解くのが好きなんですよね。実験データも機器の故障も、論理的にどこに原因があるかを探るプロセスはパズルゲームっていう感じがしない?そういうのを考えるのが得意な人が、研究に向いているのかもね。

ちなみに新井さんは学生時代、研究以外にハマっていたこととかありますか?

新井さん:んーー、なんだろう。お酒かな(笑)。お酒を飲むという場をセッティングすることによって、新しい人脈を築けたりするし。そこで何か新しいものを見つけることができることもあるよね。

研究に興味を持ったきっかけは『ガンダムSEED』!?

新井さんが研究の道に進んだきっかけは何だったのですか?

新井さん:実は、最初は情報科学系の学科にいたんだけど、自分には合わないなと感じてて、次の進路をいろいろ考えてた。その時たまたま見ていたアニメの『機動戦士ガンダムSEED』の中に、遺伝子を操作された「コーディネイター」という存在がいて、「遺伝子をいじれば面白いことができるかも」なんて思ったのが興味の始まりかな(笑)。その後、ライフサイエンス系の専門学校に再入学して、卒業研究をしている中で偶然ネットで見つけた不凍タンパク質に興味を持って、修士課程から北海道大学の研究室に移って、博士課程まで行った。

前田さんは研究に興味を持ったきっかけはありますか?

前田さん:僕は「自分の体の中で何が起こっているのか」を知るのが昔から好きでした。今だと、顕微鏡で細胞が動いている様子を見ている時が一番楽しいですね。

最後に、今後の展望について教えてください。

前田さん:これから不凍タンパク質の働きをさらに理解していくことで、細胞や組織をより安全に保存する技術や、環境ストレスから細胞を守る新しい方法の発見につながる可能性があると考えています。将来は修士課程・博士課程に進学し、不凍タンパク質の基礎研究をさらに深めながら、医療分野などの新しい応用へとつなげていける研究者になりたいです。

おわりに

楽しく話しているうちに、あっという間に退席時間となってしまいました。
新井さんが話していたように、筆者自身も研究室での議論だけでなく、時折研究室外でラフに話す機会を設けることで、ストレスを発散できる上に研究のヒントを得られたりすることもあるなと感じています。

大変なことも楽しいこともある研究生活ですが、興味を持ったものに全力で打ち込めるのは大学生の特権。
これから研究を始める学生の皆さんが、今後どんな出会いを経験していくのか、楽しみですね。

 

(注1):収斂進化(しゅうれんしんか)。英語ではconvergent evolutionで、収束進化とも訳される。類縁関係が遠いにもかかわらず、外部形態がきわめてよく似た植物や動物のグループが、別々の離れた地域にしばしば見られる、というような現象2。例えば、魚とイルカのようにそれぞれ魚類と哺乳類に属するが、最終的に魚と同じように泳ぐのに適した形態にたどり着くような例があげられる3。今回のインタビューの文脈では、タンパク質の構造レベルでの話をしており、「別々の種が、それぞれ異なる構造だが機能的には類似した不凍タンパク質を有している」という意味で用いられている。

参考文献

  1. 津田栄, 「不凍タンパク質とは何か?」,  津田栄ホームページ, https://sakaetsuda.jp/AFP_J/afp_research.html, (最終閲覧日: 2026年2月18日)
  2. P. レーヴン, G. ジョンソン, J. ロソス, S. シンガー, 「レーヴン・ジョンソン生物学 上」, 培風館, 2006年4月10日, p. 467
  3. JT Biohistory Research Hall, 「ゲノムのConvergent evolution:収束進化」, JT生命誌研究館, https://www.brh.co.jp/salon/shinka/2015/post_000004.php, (最終閲覧日: 2026年2月9日)

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2026.02.24

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